すばる望遠鏡によって発見されたクエーサーのペアを、アルマ望遠鏡で詳細に観測したところ、この天体は初期宇宙で最も明るい種類の天体「高光度クエーサー」の祖先であることが分かりました。初期宇宙における天体の進化を明らかにする大きな手掛かりとなる発見です。

図1:今回の観測結果に基づく想像図。銀河同士の相互作用で、星形成活動や中心の超巨大ブラックホールの成長が徐々に活性化します。(クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T.Izumi et al.)
誕生してから 10 億年もたっていない初期の宇宙には、質量が太陽の 10 億倍以上の超巨大ブラックホールが数多く発見されています。この超巨大ブラックホールは、大量の星間物質を取り込んで銀河本体を上回るほど明るく輝くクエーサー(高光度クェーサー)として観測されます。一方、高光度クエーサーを宿す銀河は、多量の星を形成していることが知られています。このような超巨大ブラックホールの成長や爆発的な星形成の解明には、銀河同士の合体が鍵を握ると考えられています。しかし、合体前の天体は暗いために発見が難しく、研究は進展していませんでした。
この問題を克服するために、愛媛大学や国立天文台などの研究者から成る研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野カメラ HSC を用いた宇宙の大規模探査データを詳しく解析しました。すばる望遠鏡の大集光力を発揮したこの探査(HSC-SSP)は、他の望遠鏡による大規模探査に比べて格段に高感度で、暗い天体まで検出することができます。その結果、およそ 128 億光年彼方、すなわち宇宙年齢がまだ9億歳の「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代において、非常に低光度なクエーサー(同じ時代の高光度クエーサーに比べて数 10 倍〜 100 倍程度暗い)が2つ隣り合って並んでいる領域を発見したのです(2024年6月17日 ハワイ観測所 観測成果)。これは、このような「ペアクエーサー」の最遠方記録です。また、とても暗いため、超巨大ブラックホールの成長が本格化する前段階、つまり銀河合体の前段階の天体だと期待されました。
今回、アルマ望遠鏡を用いてこの天体を観測し、クエーサーを含む銀河の状態を調べたところ、2つの銀河は互いに影響し合っており、近い将来に確実に合体して1つの銀河になることが分かりました。銀河が持つ星間物質が大量であるため、合体後に爆発的な星形成を起こすことや、星間物質を飲み込んだ超巨大ブラックホールが高光度クエーサーとして輝くことが可能です。高光度クエーサーと、それを持ち爆発的に星形成を起こす銀河となる前段階の天体を、初めて同定したことになります。

図2:アルマ望遠鏡で観測した宇宙の夜明けの相互作用銀河の様子。星間物質の全体的な分布と運動をよく反映する電離炭素ガスの分布を示しています。2つの銀河が明確に橋渡しされて相互作用していることが見てとれます。図中の2つの十字は、すばる望遠鏡で発見した低光度クエーサーの位置を示しています。(クレジット:T. Izumi et al.)
研究をリードした泉拓磨准教授(国立天文台)は「2つの銀河があたかもダンスをしているように相互作用し、しかもその中心にはこれから活発に成長していくブラックホールがいる。この様子を初めて見た時は非常に驚きました」と、観測時の興奮を述べています。また、「すばる望遠鏡とアルマ望遠鏡のタッグで、銀河中心核(超巨大ブラックホール)と母銀河のガスの様子が見えてきました。しかし、まだ母銀河の恒星の性質については不明です。たとえば、現在稼働中のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使うことで、恒星の性質も詳しく分かることでしょう。ようやく見つけたモンスター・ブラックホールの祖先です。宇宙の貴重な実験室として、さまざまな観測を通じてその性質の理解を深めていきたいと思います」と、今後を見据えての期待も述べています。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に 2024年8月29日付で掲載されました(Izumi et al. "Merging gas-rich galaxies that harbor low-luminosity twin quasars at z = 6.05: a promising progenitor of the most luminous quasars")。