2023年の伝統的七夕を間近に控えた 8月19日に、ハワイ島ヒロのイミロア天文学センター(以下、イミロア)で七夕祭りが盛大に開催されました。屋内外で日本の文化を体感できるブースやライブが繰り広げられ、プラネタリウムではすばる望遠鏡の観測成果と広大な宇宙画像が披露されました。4年ぶりに対面で行われたこのイベントは、天文コミュニティと地元コミュニティの活動が一体となり、参加者の笑顔であふれたものになりました。
「七夕は、織り姫と彦星に思いを馳せながらみんなで夜空を眺める、日本文化と天文学が融合する素晴らしい機会です。ハワイ観測所がリードするのにふさわしいテーマである七夕祭りに、大勢の方が参加くださったことを大変嬉しく思います。このような交流を通じて、私たちが地域社会の一員であり、地元の方からいかに多くのことを学んでいるかを実感しています。今後もこのようなイベントを通じて交流を深めていきたいと思います」と宮﨑聡ハワイ観測所長は語ります。
七夕祭りは、地元団体による和太鼓の演奏で幕を開け、続いてミッチ・ロス ハワイ郡長が歓迎の挨拶を述べられました。屋外ではハワイ観測所が準備した、日本のお祭りでお馴染みのヨーヨー釣りと金魚すくいが行われました。多くの参加者にとって、紙でできた釣り糸が切れないように水風船を釣り上げたり、「ポイ」の紙が破れないようにゴム製の金魚やボールをすくい上げたりする経験は、初めてだったと思われます。ハワイ観測所のスタッフがコツを説明し、釣り上げやすくいに成功した人達は、満面の笑みを浮かべました。

図1:(左上)スタッフの説明を聞きながら水風船を釣り上げた子供。(右上)オープニングでのスピーチの直前に、ヨーヨー釣りを楽しむロス ハワイ郡長。(左下)ポイの紙を破らないようにボールや金魚をすくおうとする子供。(右下)ヒロ高校太鼓クラブによる演奏。(クレジット:国立天文台)
展示室には、ハワイ観測所、イミロア、TMT国際天文台(TIO)による、日本文化と科学の両方を楽しめる数々のブースが設置されました。ハワイ観測所オリジナルの織り姫・彦星の折り紙、紫外線を照射すると色が変わる UV ビーズのブレスレット作り、七夕ランタンの工作、おにぎりケースの工作などです。各ブースでは 400 人分以上の材料を用意していましたが、午前中で材料がなくなるところもありました。イベントホールでは、盆踊りのレッスン、三線による沖縄民謡の演奏、地元高校日本語クラブによる七夕物語の読み聞かせなどが次々と披露されました。
プラネタリウムホールでは、30 分ごとのプラネタリウム上映に加えて、ハワイ観測所と TIO 職員によるサイエンストークが行われました。プラネタリウムでは、七夕の物語とともに夜空の織り姫(こと座のベガ)、彦星(わし座のアルタイル)、天の川についてイミロア職員が語り、さらに、すばる望遠鏡全天カメラが七夕の夜に撮影した星空のタイプラムスが上映されました。午前 11 時と午後1時のサイエンストークでは、宮﨑聡ハワイ観測所長が、超広視野主焦点カメラ(HSC)の開発と、すばる望遠鏡での観測成果を紹介しました。そして、この七夕祭りのために用意した、「hscMap」の全天周バージョンを披露し、HSC が写した様々な天体をズームアップして紹介しました。銀河団が拡大されて観客に迫ると、歓声が上がりました。午後 12時30分のサイエンストークでは、嘉数悠子 TIO/国立天文台 教育普及マネージャが、30 メートルの巨大な「目」を持つ TMT が解き明かす宇宙の謎や、すばる望遠鏡との提携、TIO の新アウトリーチチームによる地元に根ざした教育プログラムや対話について話しました。どの回もほぼ満席となり、サイエンストークでは、観客からたくさんの質問が出ました。

図3:(左)宮﨑聡ハワイ観測所長によるサイエンストーク。背景には、このイベントのために作成された hscMap 全天周バージョンが映っています。(右)七夕に合わせて浴衣姿で講演する嘉数悠子 TIO/国立天文台 教育普及マネージャ。(クレジット:国立天文台)
カイウ・キムラ イミロア天文学センター館長は「七夕祭りを成功に導いた全ての関係者に大きな誇りを感じ、深く感謝申し上げます。コロナ禍の後、このイベントをイミロアで開催できたことは、大変名誉なことであり、達成感で満ちています。困難な時代の後に、日本の美しい伝統行事を祝うために集まることができ、コミュニティの回復力の強さと、パンデミック前の感覚を取り戻すために文化イベントが効果的だということを実感しました。今後も多くの楽しい集まりを楽しみにしています」と語ります。
七夕祭り(Tanabata Japanese Star Festival)は、国立天文台ハワイ観測所とイミロアが半年以上かけて計画と準備をすすめ、国立天文台もメンバーである TIO と、地元の KTA スーパー、ハワイ日本人商工会議所が共同スポンサーとなり実現しました。ハワイ観測所からは、お手伝いで加わった職員の家族も含め、30 名以上が七夕祭りで活躍しました。2500 名もの来場者に楽しんでいただいたこの成功の背後には、主催者やスポンサーだけでなく、地元ボランティアの多大な貢献がありました。この場を借りて深くお礼申し上げます。