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すばる望遠鏡を活用する研究者2名が文部科学大臣表彰の若手科学者賞を受賞

2023年5月25日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において、すばる望遠鏡等を用いた観測的研究により、名古屋大学の梅畑豪紀特任助教と東京大学の播金優一助教が若手科学者賞を受賞しました。

若手科学者賞は、萌芽的な研究や独創的視点に立った研究などの、顕著な研究業績をあげた 40 歳未満(出産・育児により研究に専念できない期間があった場合は、42 歳未満)の研究者を対象とします。梅畑さんは「原始銀河団の活動銀河をつなぐ宇宙網の研究」、播金さんは「すばる望遠鏡等の大規模観測データを使った遠方銀河の研究」が受賞の理由となりました。

梅畑さんは、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡などによる、様々な波長を用いた観測を駆使して、115 億年前の宇宙大規模構造の心臓部における銀河や巨大ブラックホールの形成・進化の解明を進めてきました。特に、すばる望遠鏡の広視野カメラ Suprime-Cam(シュプリーム・カム)による深撮像データから、大質量銀河や巨大ブラックホールをつなぐ、水素ガスの大規模構造(宇宙網)を発見し、長らく理論・シミュレーションから予想されていた宇宙網の存在を実証しました(注1)。本成果は、100 億年以上昔の宇宙において、宇宙網によるガス供給が大質量銀河と巨大ブラックホールの高い活動性の源となっていることを示唆するものです。

すばる望遠鏡を活用する研究者2名が文部科学大臣表彰の若手科学者賞を受賞 図

図1:「原始銀河団の活動銀河をつなぐ宇宙網の研究」で若手科学者賞を受賞した梅畑豪紀さん(クレジット:名古屋大学)

梅畑さんは、「このような素晴らしい賞をいただくことができ、大変嬉しく思います。また、共同研究者の方をはじめ、本研究を進める中でお世話になった全ての方々にこの場をお借りして感謝を申し上げたいと思います。本研究では過去に撮影された Suprime-Cam のデータが宇宙網の発見に大きな役割を果たしました。さらに、現在、その後継機である HSC(Hyper Suprime-Cam;ハイパー・シュプリーム・カム)を用いた、宇宙網の一大探査計画も進展しています。稼働を控える超広視野多天体分光器 PFS(Prime Focus Spectrograph;プライム・フォーカス・スペクトログラフ)を含め、すばる望遠鏡の強みも存分に活かしつつ、これからも深宇宙の観測的研究に邁進して参りたいと思います」と受賞の喜びと抱負を語ります。

播金さんは遠方銀河の観測的研究に専念し、すばる望遠鏡の大規模観測データの解析を主導しながら、これまで詳しく調べられていなかった 100 億~ 130 億年前の宇宙において 400 万個からなる世界最大の遠方銀河サンプルを構築しました。また 20 年来の謎であった宇宙全体の星形成史の物理的な起源について解答を提示し、当時の最遠方記録である 130 億年前の原始銀河団を分光同定してプレスリリースを行う(注2)など複数の重要な発見をしながら、遠方銀河観測の分野をリードしてきました。さらに国内外の研究者からなるチームを率い、NASA のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の貴重な初年度運用プログラムやアルマ望遠鏡などの国際競争率の高い望遠鏡の観測時間を複数獲得するなど、国際的にも高く評価されています。

すばる望遠鏡を活用する研究者2名が文部科学大臣表彰の若手科学者賞を受賞 図2

図2:「すばる望遠鏡等の大規模観測データを使った遠方銀河の研究」で若手科学者賞を受賞した播金優一さん。(クレジット:東京大学宇宙線研究所)

受賞にあたり播金さんは「今回このような栄誉ある賞をいただけることになり非常に光栄です。受賞対象のすばる望遠鏡の超広視野カメラ HSC を使った研究は、すばる望遠鏡・HSC の開発・運用を支えてくださる国立天文台の研究者の方々のサポートがなければ実現し得ないものでした。共同研究者の皆様と、すばる望遠鏡・HSC に関わった全ての方々に感謝申し上げます。今後稼働する PFS により、我々の研究をさらに発展させられると期待しています。皆様と楽しみながら、引き続き世界最先端の研究をリードしていけるよう、努力したいと思います」と語ります。

すばる望遠鏡がお二人の研究に果たした役割について、播金さんは次のように語ります。「すばる望遠鏡には、他の8メートル級望遠鏡にはないユニークな広視野カメラがついています。梅畑さんも私も、この広視野カメラのおかげで、圧倒的な大規模銀河サンプルの構築やレアな原始銀河団、宇宙網の発見に成功しました。このような観測から、宇宙の大規模構造における銀河とガスの関係が、銀河の形成と進化に重要な役割を果たしてきたことがわかってきました。今後はすばる望遠鏡への搭載準備が進む PFS や、その先の TMT(Thirty Meter Telescope;次世代超大型望遠)などによる観測で、個々の銀河の物理的な性質や、より初期の宇宙での銀河の形成の様子がわかってくるだろうと期待しています」


(注1)初期宇宙で見つかった宇宙網 -銀河とブラックホールに恵みをもたらす宇宙の清流-(2019年10月3日 ハワイ観測所観測成果)

(注2)すばる望遠鏡、130 億光年かなたの宇宙に銀河団を発見(2019年9月26日 ハワイ観測所観測成果)

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