近赤外線の観測装置 SWIMS が、2022年12月7日(ハワイ時)の夜に、すばる望遠鏡での最後の観測を終えました。
SWIMS(Simultaneous-color Wide-field Infrared Multi-object Spectrograph)は、チリ北部のチャナントール山頂(標高 5640 メートル)に建設中の、東京大学アタカマ天文台(TAO)の口径 6.5 メートル望遠鏡(TAO 望遠鏡)に搭載するため、2009年に開発が始められました。チリへの輸送前に、大口径望遠鏡に搭載した時の性能の把握、改修項目の洗い出し、運用方法の確立などを目的として、2018年からすばる望遠鏡に搭載した試験観測が行われてきました。
2021年からの2年間は、さらなる評価と運用手順の確認に加えて、一足早い科学的成果の創出を目指し、すばる望遠鏡の共同利用観測装置として SWIMS を運用してきました。共同利用観測では銀河系内の恒星から初期宇宙の銀河まで、様々な天体を対象とした多種多様な観測提案が集まり、SWIMS への研究者の関心の高さを感じることができました。
実際の観測では、予期しないトラブルの対応に追われることもありました。例えば、SWIMS と望遠鏡が想定外の箇所で電気的に繋がって画像にノイズが乗ってしまったため、観測を中断して SWIMS に絶縁処理を施したり、トラブルにその都度対処しつつ観測を行いました。また、観測終盤にはマウナロアが 38 年ぶりに噴火するという珍しいアクシデントにも遭遇しました(図2)。この時は、流れ出る溶岩の光に照らされて夜空が明るくなってしまったり、火山性の粒子がマウナケア山頂域まで飛んできたりと、観測が満足にできず苦労しました。
小さなアクシデントはありましたが、全体としては SWIMS に大きな問題が発生することなく観測を終え、性能評価と科学的意義の両面で良い観測データを得ることができました。現在、多くの研究者によって観測データの解析が精力的に進められており、既に論文として出版された成果もあります。今後もさらなる成果発表が予定されています。
すばる望遠鏡での観測を終えた SWIMS は日本に輸送され、これまでの観測で見つかった問題の解消など、TAO 望遠鏡搭載のための改修が行われます。その後チリに輸送され、TAO 望遠鏡に搭載される予定です。

図3:すばる望遠鏡での観測完了の記念写真。左上は国立天文台三鷹キャンパスにあるすばる望遠鏡リモート観測室、右下はすばる望遠鏡山頂施設の観測室、右上と左下は観測者の自宅、と4地点から観測者が参加しました。(クレジット:東京大学 TAO プロジェクト)