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5年ぶりに主鏡を再蒸着

2023年2月6日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

2022年夏、すばる望遠鏡は観測を約2カ月間中断して、主鏡をアルミニウムでコーティングする蒸着作業と、望遠鏡のメンテナンスを行いました。主鏡の蒸着は今回が9回目で、前回の2017年から5年が経過していました。

観測を効率良く行うためには、鏡の反射率を維持する必要があります。しかし鏡の表面には少しずつ汚れがたまっていき、反射率が落ちていきます。今回の蒸着前は、前回の蒸着直後に比べて、紫色の光 400 ナノメートルで、主鏡の反射率が約 17 パーセント低くなっていました。

蒸着の行程は、主鏡とカセグレン焦点の観測機器を望遠鏡から取り外す作業から始まりました。そして、主鏡を洗浄してアルミニウムのコーティングを取り除き、一枚のガラスにもどった主鏡表面のキズ検査・補修を行った後、蒸着釜でアルミニウムのコーティングを行いました。精密かつ大がかりな作業のため、1年以上前から入念に準備を進めた上で、コロナ禍での感染対策も万全に行い、蒸着作業にのぞみました。作業の約8割は本番前の準備と言っても過言ではないでしょう。

5年ぶりに主鏡を再蒸着 図

図1:一次洗浄開始直後(上)と終了間際(下)の主鏡。洗浄によりアルミニウムが溶け、透明な一枚のガラスとなった主鏡では、アクチュエータを支える穴が見えています。主鏡は洗浄・蒸着用のセルにのっているため、下の写真に写っている支えは、本物のアクチュエータではありません。高解像度画像はこちら(1.1MB)。(クレジット:国立天文台)

洗浄

主鏡の洗浄は二度行いました。一次洗浄では、塩酸を使って古いアルミニウムのコーティングを溶かしました。キズ検査の後、二次洗浄で表面のホコリや汚れを取り除き、蒸着釜に入れました。

動画1: 一次洗浄の様子(10倍速)。職員は全員防護服を着用しています。黄色い防護服と防護マスクを着用した、酸を扱う資格を持った職員が洗浄の様子を確認しています。(クレジット:国立天文台)

動画2:二次洗浄のの様子(10倍速)。(クレジット:国立天文台)

蒸着

直径 8.3 メートルの主鏡がすっぽり入る蒸着釜の中には、アルミニウムを事前に溶かし込んだ特製のタングステンフィラメントが 288 本取り付けられています。真空の釜の中で、フィラメントに電流を流し、アルミニウムを蒸発させる「ファイアリング」をします。電力の関係で、ファイアリングは 96 本ずつ3回にわけて行いました。フィラメントからまっすぐ飛び出したアルミニウムは鏡の表面に薄い膜を作ります。釜の中を真空にするのは、空気があると、蒸発したアルミニウムが主鏡の表面に純度の高い均一な膜を作るのに邪魔になるからです。

動画3:蒸着釜の窓から撮影したファイアリングの様子(10 倍速)。(クレジット:国立天文台)

動画4:ファイアリングの4日後、蒸着釜から主鏡が取り出される様子(10 倍速)。(クレジット:国立天文台)

仕上がりと反射率の回復

蒸着釜から取り出された主鏡は、宮﨑聡ハワイ観測所長らによって入念に確認されました。主鏡の反射率を測定すると、2017年の蒸着直後の値まで回復していることが確認できました(図3)。

5年ぶりに主鏡を再蒸着 図6

図2:蒸着の仕上がり確認後に撮られた集合写真。高解像度画像はこちら(1.8MB)。(クレジット:国立天文台)

5年ぶりに主鏡を再蒸着 図7

図3:主鏡の反射率の変化。紫と緑の線はそれぞれ今回の蒸着前と蒸着後の反射率を表します。蒸着によって、2017年の蒸着後(灰色の線)と同程度の値にもどりました。詳細な反射率の測定値は、共同利用観測「Observing」のサイト内にあります。(クレジット:国立天文台)

仕上がり確認の後、主鏡をクレーンで吊って、洗浄と蒸着作業を行った1階から、望遠鏡のある3階(観測階)に戻し、望遠鏡に取り付けました。

動画5:蒸着を終えた主鏡をのせたセルが、クレーンで吊られて観測階までもどる様子(20 倍速)。セルに固定したカメラで撮影。(クレジット:国立天文台)

7月から約2カ月間、作業のある日は毎日、複数の職員が写真や動画を撮り、作業記録を残しました。これらは、次回の蒸着作業に役立てられます。

5年ぶりに主鏡を再蒸着 図9

図4:蒸着を終えて、観測階に戻ってきた主鏡セルと撮った集合写真。主鏡セルが望遠鏡に取り付けられる前の状態で、鏡を支えるロボットの指「アクチュエータ」が見えています。高解像度画像はこちら(1.8MB)。(クレジット:国立天文台)

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