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PFS のエンジニアリング・ファーストライト!
~多くの星の光を一度にとらえる重要なマイルストーンに到達~

2022年11月10日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2024年10月9日

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) を中心とする国際共同研究チームは、すばる望遠鏡に搭載される超広視野多天体分光器 PFS (Prime Focus Spectrograph) の試験観測で、光ファイバーを通して多数の星からの光を同時に分光観測し、スペクトルを取得することに成功しました。PFS がエンジニアリング・ファーストライトといえるマイルストーンに到達したことは、特徴的な観測装置ですばる望遠鏡独自の進化を目指す「すばる2」計画にとっても大きな一歩です。

PFS のエンジニアリング・ファーストライト!</br> ~多くの星の光を一度にとらえる重要なマイルストーンに到達~ 図

図1:(左) すばる望遠鏡に取り付けられた PFS の「主焦点装置」 (高解像度画像:4.6 MB)。 (右) 試験観測の結果。分光器モジュール1の赤色カメラでオリオン座に位置する星団 NGC 1980 のフィールドを 300 秒露光したものに、装置特性を取り除く処理のみを施した CCD 画像。光ファイバーを通して観測された多数の星のスペクトルが鮮明に写っています。試験観測は 9月21日から 26日にかけて行われました。 (クレジット:PFS project)

PFS は、すばる望遠鏡の機能を大幅に強化する新プロジェクト「すばる2」の主力装置の一つとして、2024年の科学運用開始を目指し開発が進められています。PFS が完成すると、約 2400 本の光ファイバーを用いて、夜空に輝く星や銀河など多数の天体を同時に観測し、その光をさまざまな波長に分離すること (分光観測) が可能になります。このようにして得られたスペクトルにより、撮像観測だけではわからない、天体の詳細な運動や物理的性質、年齢など、さまざまな特徴を調べることができます。

PFS のエンジニアリング・ファーストライト!</br> ~多くの星の光を一度にとらえる重要なマイルストーンに到達~ 図2

図2:PFS の模式図。PFS では、望遠鏡やドームの複数の箇所に設置されたサブシステムが連携して観測を遂行します。すばる望遠鏡の主焦点の直径 1.3 度角の視野内に約 2400 本の光ファイバーが取り付けられ、それぞれが十数マイクロメートルという精度で、観測したい星や銀河へ向けられます。そして、捕らえられた多数の天体からの光は、「青」、「赤」、「近赤外」の3つのカメラからなる分光器システムへ送られ、380 ナノメートルから 1260 ナノメートルの広い波長範囲に及ぶスペクトルとして一度に分光観測されます。(クレジット:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ)

国際研究チームは 2018年から PFS の装置の一部をすばる望遠鏡に取り付けてテストを実施してきましたが、2021年には天体の光を PFS に取り込むための非常に重要なテストに取り組み始めました。

研究チームは2022年9月に行われた試験観測で、光ファイバーが天体に対してどの程度正確に配置できているかを調べるテスト (ラスタースキャン) を実施しました。多くの明るい星でラスタースキャンを行い、位置ずれを修正する配置の最適化を繰り返した結果、装置が天体に対して極めて正確に光ファイバーを配置できたことが確認されました。

PFS のエンジニアリング・ファーストライト!</br> ~多くの星の光を一度にとらえる重要なマイルストーンに到達~ 図3

図3:ラスタースキャンで得られたデータ (NGC 1980 のフィールド)。主焦点装置 (PFI) 焦点面の、目的の天体が写ると予想される位置に光ファイバーをセットした上で、望遠鏡の方向を少しずらしては分光器でスペクトルを取る動作を繰り返し、指向位置が格子状に並んだデータを取得します。この画像は、3×3の格子状データ配列を視野全体にわたって集めたもので、星からの光がより多く検出されたデータ点には、より明るい色が割り当てられています。ほとんどの場合、最も明るいデータポイントは3×3配列の中心付近にあり、光ファイバーが天体の位置に適切に配置されていることを示しています。(クレジット:PFS project)

PFS プロジェクトマネージャーの田村直之特任准教授 (Kavli IPMU) は、次のように語っています。「チームの努力は今回も素晴らしいものでした。この9月の試験観測は様々な事情からごく最近になって予定されたものですが、優先順位と計画を効率的に再調整し、ハードウェアとソフトウェアの両方で必要な作業を遅れなく完了させました。そして実際、試験観測は実りあるものでした。このような成果を出すことができたのは大変素晴らしいことだと思いますし、チームメンバーを本当に誇りに思います。このマイルストーンはまだ、1つの観測領域において特定のファイバー配置を用い達成されたものです。星に対するファイバー配置精度はまだ満足のいくレベルに達していません。しかし、これは明らかに非常に大きな前進です。PFS を使って目標天体の光をとらえることができたのですから、エンジニアリング・ファーストライトを達成したと言えますし、装置のコミッショニングは次の段階に入ったと言えるでしょう」

PFS は、2022年度に始動した「すばる2」計画の主力装置の一つです。すばる望遠鏡の広視野を活かした超広視野主焦点カメラ HSC による撮像観測と PFS による分光観測で得た大規模な探査データから、ダークマター、ダークエネルギーの正体、多種多様な銀河の形成と進化の物理過程といった宇宙の謎に、より一層迫ることが期待されます。PFS のエンジニアリング・ファーストライトの達成は、「すばる2」計画にとっても大きなステップです。

今回の観測で得られたデータは、今後慎重に分析・議論される予定です。研究チームは、11月と12月に予定されている次回の試験観測に向け、より細かいピッチでのラスタースキャンと、より暗い天体での長時間露光を行うことを目標に、努力を続けています。

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