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ハワイ島の子ども達に STEM 教育を届ける新プログラム「すばるスターズ」

2022年8月23日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

国立天文台ハワイ観測所は、ハワイ島全域に天文学ほか STEM (科学・技術・工学・数学) 教育を届ける新プログラム「すばるスターズ」を開始しました。6月下旬に初回イベントがハワイ島南部のナアレフ小学校で開催され、50 名以上の児童や教員たちが体験型アクティビティを楽しみました。この秋にも、これまで天文学を届けられていなかった地域での開催を予定しており、さらに、人口の多い地域での開催も計画中です。子どもたちが天文学を含む STEM 分野に興味を持ち、ひいては将来の進路を考えるきっかけになることを期待しています。

ハワイ島の子ども達に STEM 教育を届ける新プログラム「すばるスターズ」 図

図1:「すばるスター」に参加したナアレフ小学校の児童・教員と、ハワイ観測所職員の集合写真。初回のすばるスターはハワイ科学技術博物館と共同して企画され、ナアレフ小学校のサマースクールプログラムの一つとして開催されました。(クレジット:国立天文台)

「ハワイ島の中には、ハワイ観測所山麓施設があるヒロや、観光地のカイルア・コナと違って、充実した教育プログラムを受けられない地域がたくさんあります。私たちは、地元の学校と連携し、彼らの要求に応える最善の方法を考えながらこのプログラムを開発しています。コロナ禍は特に児童と先生にとって非常に困難なものでした。ハワイ島では多くの子どもたちが、算数・数学、理科、英語の遅れをまだ取り戻せていません。私たちは地域社会の一員として、子どもたちに学ぶ喜びを感じてもらい、彼らの能力を高めるためにできる限りの手助けをしたいと考え、すばるスターズを始めました」と、ハワイ観測所シニア広報普及専門員のクリスチャン・ウォンは語っています。

初回イベントでは、観測所スタッフが巨大なチェス盤と駒、ゴミ箱で作った空気砲、プログラミングできるロボット教材、ハワイ観測所オリジナルのスペクトルカード、触れずに演奏できるテルミンといった、楽しく学べる教材を2台の公用車に詰め込み、片道2時間のナアレフ小学校へ向かいました。約2時間のイベントの中で、子どもたちは学年別に3グループに分かれて3つのブースを順番に回り、様々なアクティビティに没頭しました。

ハワイ島の子ども達に STEM 教育を届ける新プログラム「すばるスターズ」 図2

図2:(左) 低学年用ロボット工学教材 VEX 123 (ヴェックス・ワン・ツー・スリー) でプログラミングの基礎にふれる子どもたち。(右) 空気砲の前に立って楽しむ子どもたち。(クレジット:国立天文台)

子どもたちは、チェスとチェッカーという、数学と問題解決・戦略的思考力が身につくゲームの遊び方を学びました。別のブースでは VEX123 ロボットを使って、画面の前ではなく自身の手の中でプログラミングを体験しました。この円盤型のロボットは、簡単なプッシュボタンでプログラミングができます。STEM、コンピュータサイエンス、計算的思考を実体験として身につける機会になるでしょう。子どもたちの人気が最も高かったのは、大きなゴミ箱で作った空気砲でした。ゴミ箱の中に煙を充満させ、子どもたちが箱をたたくと、物理法則により、煙の輪が信じられないほどの勢いで部屋の中を飛び交いました。

天文教育も、すばるスターズの重要な要素です。臼田-佐藤功美子 広報普及専門員は、すばる望遠鏡オリジナルのスペクトルカードを作り、ハワイの子どもたちに、天文学者がどのように宇宙を調べているかを長年説明してきました。このカードの穴には回折格子フィルムが貼られており、のぞくといろいろな光源の「虹」(スペクトル) が見られます。

ハワイ島の子ども達に STEM 教育を届ける新プログラム「すばるスターズ」 図3

図3:いろいろな電球の「虹」の違いを見せながら、天文学者がどのように宇宙を調べているかを解説する臼田-佐藤 広報普及専門員。(クレジット:国立天文台)

すばるスターズは、ナアレフ小学校の児童と教員を魅了し、将来にわたってハワイ観測所とのパートナーシップを築いていくための第一歩となりました。ナアレフ小学校のウィルマ・ロディ校長は、「子どもたちにはいろんな進路の選択肢があり、なりたいものになれるのです。そう子ども達が認識できる機会を、私たちは常に探しています。コロナ禍以来、このようなイベントを見るのは初めてです。子どもたちが見て、触って、感じることで、STEM の概念を身につけることができます。すばるスターズで、子どもたちの好奇心がかきたてられたと実感します」と語ります。

6年生担任のマル・ザムーディオ先生は、「子どもたちが、興味津々な様子にわくわくしました。しかも、自分たちが科学していると、気づいてないんですよ!今後、この体験をもとに、STEM の知識を積み上げていくことでしょう」と将来への期待を示しています。

すばるスターズは、子どもたちにとって楽しい時間でしたが、楽しさの中にこそ学びや成長があります。3年生のカシュ・フータバレスさんは、空気砲から飛び出した煙の輪がやってくると、その中に飛び込んでいきました。「煙の輪にぶつかるのが好き。涼しくなるし。このようなイベントはとっても楽しいので、もっとやってほしいです」と感想を話してくれました。どのアクティビティもお気に入りになった1年生のニエコ・イエーツさんは、「全部びっくりしました。科学がいっぱいで、いっぱい学びました。こんな時間はうまれて初めてです」と楽しい気持ちを教えてくれました。

次回のすばるスターズは今秋に予定しており、観測所スタッフはその準備に追われています。「私たちは、初回すばるスターズの出来にとても満足しています。今後は、STEM 教育をリードする人達と密に連絡をとりあい、コンピュータサイエンスのカリキュラムを教室に取り入れる手助けをしていきたいと考えています。これは、ハワイ州議会とイゲ知事が、ハワイの学校における優先事項として認識しているものです」とシニア広報普及専門員のウォンは今度の展望を述べています。

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