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131 億年前に吹き荒れる最古の巨大ブラックホールの嵐

2021年6月10日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2021年8月26日

2019年に、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) を用いた観測で、地球から約 130 億光年離れた超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールが発見されたという研究成果が報告されました (注1)。この時、研究チームは、以後の多面的な追観測によって、初期宇宙での巨大ブラックホールの形成・進化について新たな知見が得られるとの期待を語っています。今回、この巨大ブラックホールを擁する銀河をアルマ望遠鏡で観測した結果、強烈な「銀河風」が吹き荒れていることが明らかになりました。

131 億年前に吹き荒れる最古の巨大ブラックホールの嵐 図

図1:銀河の中心にある巨大ブラックホールによって銀河風が吹き荒れるようすの想像図。巨大ブラックホールから放出される莫大なエネルギーによって星間物質が吹き飛ばされています。高解像度画像はこちら (9MB)。 (クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

宇宙には幾多の銀河が存在していますが、多くの大型の銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが隠れています。興味深いことに、そのブラックホールの質量と銀河中央部 (バルジ) の質量はほぼ比例します。一見当たり前のようですが、銀河とブラックホールの大きさが 10 桁ほど異なることを考えると、これはとても不思議な事実です。それほど大きさが違う2者の質量にきれいな比例関係があることから、天文学者は両者が何らかの物理的相互作用をしながら共に成長・進化した、つまり「共進化」したと考えています。

銀河とブラックホールの共進化で重要な役割を果たすのが、銀河風です。巨大ブラックホールは物質を大量に飲み込んで成長します。このとき、ブラックホールの重力で高速運動を始めた物質から強烈なエネルギーが発せられることで、周囲の物質を外側に押し出すことができるのです。この影響が外側へ外側へと伝搬すると、やがては銀河全体に吹き荒れる風、「銀河風」にまで発達するでしょう。この銀河風によって、銀河全体から見るとごく小さなサイズのブラックホールから、銀河全体のスケールにわたる影響が生み出されるのです。

では、こうした銀河風は、138 億年の宇宙の歴史の中でいつ頃から存在したのでしょうか。これは、銀河と巨大ブラックホールがどのように進化してきたのか、という天文学の重要な問題に挑戦するための鍵となる問いです。

太古の宇宙の銀河風の存在を明らかにするため、泉拓磨国立天文台フェローらの国際研究チームは、すばる望遠鏡により発見された、巨大ブラックホールを擁する超遠方銀河 HSC J124353.93+010038.5 (略称 J1243+0100) をアルマ望遠鏡で観測しました。J1243+0100 の放つ電波から、銀河に含まれるガスの動きを分析したところ、銀河の回転運動に加えて、毎秒 500 キロメートルもの速度で移動する強力なガス流が存在することがわかりました。これはまさに銀河風であり、銀河サイズの巨大な銀河風が見つかった銀河としては最も古い時代の観測例となりました。

泉博士らは、J1243+0100 の中で静かな動きを持つガスの運動も測定し、重力的なつり合いの関係から、この銀河のバルジの質量を太陽の約 300 億倍と推定しました。別の方法で見積もったこの銀河の巨大ブラックホールの質量はその1パーセントほどでした。この銀河のバルジと巨大ブラックホールの質量比は、現在の宇宙における銀河バルジ-巨大ブラックホールの質量比とほぼ一致していました。これは、宇宙誕生後 10 億年に満たない時代から、巨大ブラックホールと銀河の共進化が起きていたことを示唆しています。銀河とブラックホールが相互に影響を及ぼしながら成長してきた歴史の端緒を紐解く重要な発見です。

泉博士は、「すばる望遠鏡と HSC を用いた超広域かつ高感度な観測により、超遠方宇宙で 100 個以上もの巨大ブラックホールが発見されています。今後これらの天体をアルマ望遠鏡で大量に観測することにより、J1243+0100 で見えてきた『始原的共進化』が当時の宇宙の普遍的な描像かどうかを明らかにしたいと考えています」とコメントしています。


本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2021年6月14日付けで掲載される予定です (Takuma Izumi et al. "Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). XIII. Large-scale Feedback and Star Formation in a Low-Luminosity Quasar at z = 7.07")。


(注1) 詳しくは、2019年3月13日付のすばる望遠鏡プレスリリース「超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」をご覧ください。発見された巨大ブラックホールを持つ銀河の数はこの発表時には 83 個でしたが、現在では 100 個以上にまで発見数が増加しています。

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