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Hyper Suprime-Cam の新たなデータアーカイブが始動!

2021年1月14日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2022年10月10日

すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC;ハイパー・シュプリーム・カム) の新たな大規模科学アーカイブが公開されました。これにより、HSC のデータを用いたさらなる研究が世界中で進むことが期待されています。

Hyper Suprime-Cam の新たなデータアーカイブが始動! 図

図1:HSCLA で公開された画像の例 (1)。アンドロメダ銀河 (M31) の衛星銀河 Andromeda III。アンドロメダ銀河はその周囲にたくさんの小さな銀河 (衛星銀河) を従えていて、Andromeda III はそのうちの一つです。HSC の画像ではこの衛星銀河の一つ一つの星が分離されており、それらの明るさと色を調べることで、銀河の成り立ちを調べることができるでしょう。 (2014年の共同利用観測データより、g、i バンドの2色合成) オリジナルサイズ (7.9MB) (クレジット:国立天文台)

HSC は2014年から科学運用を行なってきて、現在までに大きな成果を上げてきています。HSC は、すばる戦略枠プログラム (HSC-SSP) の他に、一般共同利用観測にも広く使われています。この共同利用観測では、データ取得から一年半後にはその生データ (注1) が公開されますが、HSC ではそのデータの大きさから生データの活用が進んでいませんでした。そこでハワイ観測所では HSC の生データを処理し、すぐに研究に活用できる形で世界に向けて公開する、Hyper Suprime-Cam Legacy Archive (HSCLA) を立ち上げ、2021年1月13日に最初のデータ公開が行われました (図1、図2)。

この最初のリリースでは、HSC の科学運用初年の2014年に取得された共同利用観測データが公開されています。およそ 580 平方度の空の領域 (満月およそ 3000 個分) がカバーされ、1.5 億天体の位置、明るさ、色といった情報が含まれています。公開されるデータの総サイズは、中間処理のものも含めると、84 テラバイトです。

Hyper Suprime-Cam の新たなデータアーカイブが始動! 図2

図2:HSCLA で公開された画像の例 (2) 。赤方偏移 0.21 (26 億光年の距離) にある銀河団ペア。宇宙の中で銀河は蜘蛛の巣の糸のように分布していて、糸と糸の結び目にはしばしば銀河の大集団である銀河団が見られます。これを宇宙の大規模構造とよびます。銀河団は宇宙の中では稀な天体ですが、この画像では二つの巨大な銀河団が近接している様子が捉えられています。こういった銀河団ペアは珍しく、銀河団同士が時間をかけて衝突しようとしているのかもしれません。この領域内 (約 0.23 平方度) に 10 万もの天体が検出されています。(2014年の共同利用観測データより、g、iバンドの2色合成) オリジナルサイズ (7.6MB) (クレジット:国立天文台)

このように大規模なデータを容易に扱えるように、HSCLA では、戦略枠プログラムで利用されている様々なデータ解析ツールも合わせて公開しています。これにより誰でも HSCLA の画像やカタログデータを調べ尽くすことができるでしょう。HSCLA は世界中の研究者に開かれた科学アーカイブで、HSC データの科学的価値を最大限活用してもらえることを期待しています。

ハワイ観測所では今後もより多くの共同利用観測データを処理し、HSCLA をさらに魅力的な科学アーカイブへ発展させたいと考えています。今回のリリースは科学運用初年のデータしか含みません。科学運用開始から現在まで実に六年が経っています。その間に撮られた HSC データは膨大で、まだ知られていない新しい発見がそのデータの中に眠っているかもしれません。そのような発見を逃さないためにも、HSCLA では、HSC のデータを極限まで「吸い尽くす」ことを目標としています。


HSCLA の第一期データリリースに関する論文は、こちらからご覧いただけます。


(注1) 観測で得られる生データには、検出器の感度ムラや宇宙からの信号以外の信号が含まれています。データを科学的に利用するためには、生データからそれらの余分な影響を取り除くデータ処理を行なう必要があります。

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