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松野允郁さん、すばる望遠鏡データを用いた博士論文で SOKENDAI 賞を受賞

2020年7月21日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年8月7日

国立天文台のすばる望遠鏡を用いた研究により2020年3月に総合研究大学院大学で博士号の学位を取得した松野允郁 (まつのただふみ) さんが、その優れた成果を評価され、第4回 SOKENDAI 賞を受賞しました。受賞対象となった博士論文のタイトルは「High-Precision Abundance Study for the Milky Way Halo Stars with Kinematics and Asteroseismology (日本語タイトル:高精度化学組成と恒星力学、星震学の組み合わせによる天の川銀河ハロー研究)」で、授賞式は3月25日に東京都内で行われました。

松野允郁さん、すばる望遠鏡データを用いた博士論文で SOKENDAI 賞を受賞 図

図1:すばる望遠鏡データを用いた博士論文で第4回 SOKENDAI 賞を受賞した松野允郁さん (左)。中央は長谷川眞理子総研大学長。(クレジット:総合研究大学院大学)

天の川銀河には、よく知られている渦巻構造に加えて、それを大きく取り囲むように星がまばらに存在する領域があり、その構造は「銀河ハロー」とよばれています。松野さんが取り組んだのは、このハロー構造がいつ、どのように形成されたのかを明らかにすることです。そのためには、銀河ハローを構成する星の年齢や天の川銀河内での軌道運動、星を構成する物質 (元素組成) を明らかにすることが重要です。研究では、米国航空宇宙局 (NASA) の「ケプラー宇宙望遠鏡」によって恒星振動が観測され、それによって年齢が推定できたハローの赤色巨星を対象とし、すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS を用いた観測で元素組成を測定しました (注1)。これらの星までの距離や銀河系内での運動は、欧州宇宙機関 (ESA) の位置天文衛星「ガイア」のデータによって測定しました。こういった研究は、従来は太陽系のごく近くの星に対してのみ可能でしたが、この研究は赤色巨星について初めてこれらの基本情報を取りそろえ、対象を天の川銀河内に大きく広げることを可能にしたのが大きな特色です。

これまでの研究から、銀河系ハローの星には、天の川銀河本体で作られた種族と天の川銀河の外で作られた後に天の川銀河に取り込まれた種族の2つがあると考えられています。星の振動の観測結果と、高分散スペクトルから得られた情報を組み合わせることで、天の川銀河の外に起源をもつものと銀河本体で形成されたものの形成年代の違いは 15 億年以内であるという結果を得ました (図2)。銀河系外起源の種族の方が後に作られたという予想がありましたが、この研究の結果は天の川銀河本体で作られた種族と形成時期に大きな差がないことを示しています。またこの研究では、すばる望遠鏡で取得した星の高分散分光スペクトルから、詳しく元素組成を調べることで、天の川銀河の外に起源をもつ星の種族の形成に要する時間を1億年から3億年程度であると見積もりました。これらの結果については、今後さらに観測を進めることでより詳しい調査が可能になると期待されます。

松野允郁さん、すばる望遠鏡データを用いた博士論文で SOKENDAI 賞を受賞 図2

図2:研究では、星の化学組成 (例としてマグネシウム・鉄組成比:上図) と星の年齢 (下図) が調べられました。天の川銀河本体で作られた星の種族 (銀河系内起源の星) と天の川銀河の外で作られた後に天の川銀河に取り込まれた星の種族 (銀河系外起源の星) を比べてみると、年齢に大差はなく、星が生まれた年代には大きな違いがないことがわかります。しかし、化学組成には違いがみられ、これは星が形成されるのに要する時間には少し違いがあることを意味しています。(クレジット:Matsuno 2020)

博士論文の他の部分では、分光観測と星震学の組み合わせで見つかった特異な恒星種族の性質や、「ガイア」の観測によって明らかになった天の川銀河ハローの力学的な構造の性質の研究結果が報告されています。

受賞した松野さん (現・フローニンゲン大学研究員) は、「名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。受賞の対象となった研究内容は急速に発展しつつあるハロー星種族の形成の解明に貢献するもので、総研大にはその成果を評価していただきました。研究のアイディアを実現する機会を与えていただいたすばる望遠鏡と観測をサポートをしてくださったスタッフの方々、研究を支えていただいた指導教員と共同研究者の方々に感謝申し上げます」と話しています。


(注1) 太陽のような星は、進化が進むと膨張し、明るく輝く段階を迎えます。このような星は赤色巨星とよばれます。星は多かれ少なかれ振動しており、それは星の明るさのわずかな変動として現れます。星の明るさの変動を精密に測ると、振動の性質から星の内部構造を推定することができ、赤色巨星の質量も推定することができます。赤色巨星に至るまでにかかる時間は星の質量でほぼ決まるので、赤色巨星の振動の測定から、その星の年齢を推定することができます。

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