すばる望遠鏡の主焦点カメラ (Suprime-Cam) は、太陽系内の惑星の衛星や小天体の掃索、天の川銀河の中の星々の誕生領域から星の最期にまつわる超新星爆発の残骸、さらに衝突する銀河たちの姿や遠方宇宙の探査など様々な研究に貢献してきています。34 分角 x 27 分角という広い視野、可視光の広い帯域で感度の高いセンサー、高速の読み取りなどの特長を備えているおかげです。
そして宇宙の歴史の中で異なる時代の天体を調べる上で威力を発揮してきたのが、ある特定の狭い波長範囲の光だけを透過する狭帯域フィルターです。これは、遠くの銀河が発した光が赤方偏移のために波長が変わることを利用し、異なる波長で異なる時代の銀河の活動をとらえるためです。観測的研究によく使われる基本的な広帯域フィルターに加えて、こうした狭帯域フィルターを取り扱うことができるよう、主焦点カメラには 10 枚のフィルターを格納し、そのうちの1枚を自在に選べるフィルター交換機構があります。
フィルター交換装置の動作の流れは次のようになります。観測に使うフィルターが収納棚から昇降ロボット側に送り出される、昇降ロボットは焦点面の CCD アレイの前 (望遠鏡で言うと下の主鏡側、光が入ってくる側) の位置まで下がる、そこのホルダーにフィルターを送り出す。ホルダー側が受け取り、所定の位置にフィルターをロックし、望遠鏡を傾けても、ずれ動かないようにする。大きな倉庫でロボットが棚から物を取り出し、搬出コンベイヤーに載せる様子を想像してみて下さい。元に戻すときは、この経路を逆行します。
何しろ望遠鏡のてっぺん、主鏡に到達する光を遮る位置にある主焦点の装置ですから、できるだけコンパクトに作らなければなりません。たいへん限られたスペースの中で動作するように作られていて、隙間がほとんど無く、中の方で動いているものを撮影するためにカメラを構えるのは容易ではありません。この撮影は、ヒロでの整備作業を終えて、マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡に送り返される直前に行いました。輸送に備えて、フィルターを1枚1枚取り外し、専用のフィルター収納箱に入れるところに立ち会うことができたためです。
整備作業を随時加えることにより、フィルター交換装置のように複雑で精密な機械が確実に動き続けられるのです。長期にわたる高性能の保持のため、見通しを立てて作業を計画、実行する仲田史明さん、寺居剛さんのようなサポートアストロノマーの腕の見せ所の一つでしょう。