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すばる望遠鏡主鏡のほこり落としにはドライアイスのはたき掛け

2014年7月29日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

すばる望遠鏡では、宇宙の謎を究めるべく、乾燥していて空気の透明度が高い所への設置、温度制御を助けるドーム、口径 8.2 メートルという大きな集光面、天体を高精度で追尾し続ける能力、幅広い波長域で撮像および分光の多様な観測を実現する多数の優れた観測装置、大容量のデータを高速に処理するデータ解析システム、というように、観測天文学のための工夫が隅々までこらされています。これらの高い性能を維持するためには様々なところに気を遣う必要がありますが、例えば口径 8.2 メートルの大きな主鏡の反射面をきれいに保つこともその一つです。

動画: ドライアイスによるすばる望遠鏡主鏡のクリーニングの様子 (後半は8倍速で再生)。望遠鏡本体に組み込まれている黒いワイパーのノズルからドライアイスが吹き付けられ、昇華したガスが鏡に付着した砂ぼこりをはたき落とすのです。(クレジット:国立天文台)

すばる望遠鏡が設置されているマウナケア山頂域は乾燥していて、細かな火山灰に覆われているのです。そのため、観測が行われる夜間には外気にさらされた状態になるすばる望遠鏡の主鏡には、ドーム周辺の地面から風で吹き上げられた細かな砂が、少しずつではありますが鏡面に付着してしまいます。すばる望遠鏡は可視光から赤外線まで広い波長範囲での観測に使われます。砂ぼこりなどの鏡面の汚れは主鏡の反射率を低下させるので、どの波長での観測でも困ることになるのです。

この砂ぼこりをどのように除去し、主鏡の反射率を高いまま維持するかが、望遠鏡の運用を任された観測所の「腕の見せ所」です。すばる望遠鏡ではドライアイスを利用した主鏡のクリーニングを行っています。望遠鏡に取り付けられた大きな鏡をきれいにするための現実的な方法の一つです。望遠鏡本体に組み込まれているワイパーに液化炭酸のタンクをつなぎ、ワイパーに取り付けられているノズルにつながる弁を開けていくと、断熱膨張で冷えてできるドライアイスが鏡面に吹き付けられます。ドライアイスとは言え、小さな粒なので泡のように見えています。この粒々が鏡面に接触すると気体に昇華し、その際に体積が700倍以上にもなります。急に膨張するのでこれがいわば「はたき」の役割をして、鏡に付着した砂ぼこりをはたき落とすことができるのです。

このドライアイスクリーニング装置のおかげで、畳 30 枚分以上の面積に相当する主鏡に付着してしまった乾いたほこりをほぼ取り除くことができるのです。雑巾がけのような大がかりな作業をせずに、高い反射率を保つことができます。このような作業は、観測装置交換など他の作業の合間を見て月に1−2回行います。それでも3年も経つと、この方法では取り除くことができない汚れが積み重なり、主鏡を望遠鏡から外してアルミニウムのメッキをやり直すという「再蒸着作業」を行う必要が出てきます。

主鏡のクリーニングはあくまでも一つの例ですが、日常的な作業と大規模な作業とを上手に組み合わせることで、すばる望遠鏡では高い性能を維持するための努力が続けられているのです。

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