すばる望遠鏡が捉えた広大な宇宙画像の中を「航海」しながら、市民が銀河の研究に参加する「GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)」。2023年9月12日午前9時より、本物の銀河そっくりの「シミュレーション銀河」を分類する、特別キャンペーンが始まります。

図1:本キャンペーンに登場する銀河画像。楕円銀河(左2点)と渦巻銀河(右2点)で、シミュレーション銀河とすばる望遠鏡が撮影した本物の銀河を並べていますが、どちらが本物か区別がつきません。(クレジット:Bottrell et al./The TNG collaboration/HSC-SSP/NAOJ)
銀河はどのように生まれて、どのように進化(成長)するのでしょうか。宇宙にはなぜ、はっきりした構造がない楕円銀河(だえんぎんが)から、円盤と渦巻き構造を持つ渦巻銀河(うずまきぎんが)まで多種多様な形の銀河が存在するのでしょうか。GALAXY CRUISE は、銀河の成長と多様性の鍵を握ると考えられる、銀河同士の衝突・合体に着目し、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)が捉えた銀河を市民が分類することで研究に参加する、国立天文台「市民天文学」プロジェクトです(注1)。2019年11月に第1シーズンが始まり、2022年4月からは、より暗い銀河を含めた第2シーズンが進行中です。これまでに、104 の国と地域から 11,734 名(うち、日本からは 7,979 名)の参加登録があり、銀河の総分類数は 396 万を超えています。
GALAXY CRUISE では、楕円か渦巻かといった銀河の形態や、衝突の有無を市民天文学者が分類した結果が蓄積され、分類結果と AI(人工知能)による機械学習を組み合わせるなど、新たな研究への発展も見せています。その一方で、衝突の有無の判断が大きく分かれるような、科学解析を行う上で扱いの難しい銀河も存在します。市民天文学者の何割が「衝突している」と判定すれば、衝突銀河と扱えるのか、その正解を誰も知りません。
そこで、2023年9月12日より、衝突しているか否かの正解が後で分かる「GALAXY CRUISE 2023 特別キャンペーン」を実施します。本キャンペーンでは、ドイツと米国の研究チームによる「イラストリスTNG」(IllustrisTNG、以下 TNG)プロジェクトのシミュレーション画像を使用します。銀河天文学におけるシミュレーションとは、銀河の誕生や成長のレシピを組み込んだ「銀河進化モデル」を用いてコンピュータの中に宇宙を再現し、銀河の成長を調べる実験的手法です(注2)。
「すばる望遠鏡の画像を分類している GALAXY CRUISE と比較するには、宇宙の広い領域にわたって高い解像度で銀河の構造を精密に再現する TNG が最適でしょう。シミュレーション結果を HSC の画質に合わせて画像化する作業にはかなりの手間がかかりますが、TNG の結果と HSC 画像の比較研究を行っている共同研究者が、画像を提供してくれたおかげで、このキャンペーンが実現しました」と GALAXY CRUISE サイエンスチームで本キャンペーンをリードする、東京大学の安藤誠 日本学術振興会特別研究員は語ります。
キャンペーンが始まると、現在進行中の第2シーズンは一旦休止となります。シミュレーション銀河と本物の銀河を混ぜ込んだ 7000 以上の画像全てにおいて、40 名以上の分類結果が集まるまで、キャンペーンは続きます。「シミュレーション画像だという先入観をなくすために、本物の HSC 画像も混ざっています。見た目で区別できないので、全てすばる望遠鏡が捉えた本物の銀河だと思って分類してください」と同チームで東京大学の伊藤慧 日本学術振興会特別研究員は、本キャンペーンの特徴を語ります。参考までに、図1の画像は、左からシミュレーション、本物、シミュレーション、本物の順に並んでいます。
「研究の両輪である観測データとシミュレーションデータの比較を、ずっと行いたいと思っていました。シミュレーション画像を市民天文学者の皆様に分類いただくことで、銀河進化への理解を深められると確信しています」と「船長」こと国立天文台ハワイ観測所の田中賢幸 准教授はこのキャンペーンに期待をよせています。「GALAXY CRUISE で何千個もの銀河を分類された常連の方からも、私の分類結果はあっているのでしょうか、と尋ねられることがありますが、シミュレーション銀河は正解がわかっているのが特徴です。キャンペーンが完了したら、ユーザー登録されたどなたでも答え合わせができるコースを設ける予定です。早くキャンペーンが完了して答え合わせができるように、ふるってご参加ください」
(注1)市民天文学とは、市民が時には研究者・研究機関と共に行う科学的活動「シチズンサイエンス(citizen science)」の、天文学分野での日本語名称として、国立天文台が独自に考案したものです。
(注2)宇宙で起きる天体現象のほとんどは直接実験室で確かめることができないため、コンピュータの中に再現した「模擬宇宙」を観測データと比較することが、現象の理解に必要です。TNG は、宇宙の広い領域を扱い、かつ、高い解像度で詳しく見られることが特徴で、近年世界中で研究に用いられています。