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超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始

2017年2月27日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2023年9月21日

すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) で進められている大規模な戦略枠観測プログラム (HSC-SSP) の第1期データが、2017年2月27日 (ハワイ現地時間)、全世界に公開されました。HSC は 104 個の科学データ取得用 CCD (計8億 7000 万画素) で約 1.77 平方度の天域を一度に撮影できる超広視野カメラで、すばる望遠鏡の主焦点に搭載されています。これは「宇宙の国勢調査」とも言える大規模なデータで、これにより、宇宙の起源とその進化の解明にまた一歩近づくことができるでしょう。この美しい天体画像は天文学者のみならず、一般の方も利用することができるようになっています (図1、図2、図3)。

超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始 図

図1: HSC-SSP で観測された COSMOS 領域 (ろくぶんぎ座方向) の g, r, i バンドの三色合成画像。1000 以上もの銀河が含まれており、距離は数十億光年です。画像の中の最も遠い銀河は、宇宙誕生後 10 億年以内に形成されたものです。(クレジット:プリンストン大学/HSC Project)

超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始 図2

図2: HSC-SSP で観測された GAMA15H 領域 (おとめ座方向) にある強い重力レンズ効果が見られる銀河団。中心の銀河までの距離は 53 億光年ですが、中心の銀河の周囲にある、レンズ効果で弓状に見える銀河はさらに遠くにあります。画像は g, r, i バンドの三色合成で、約 0.6 秒角の分解能を達成しています。(クレジット:国立天文台/HSC Project)

超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始 図3

図3: HSC-SSP で観測された ELAIS-N1 領域 (りゅう座方向) にある UGC 10214 銀河の g, r, i バンドの三色合成画像。距離は4億光年で、おたまじゃくし銀河としても知られています。銀河同士のすれ違いによる重力相互作用で生じた星の尾が特徴的です。(クレジット:国立天文台/HSC Project)

国立天文台では、2014年から 5, 6 年をかけて 300 夜もの観測を行う計画の HSC-SSP を、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU)、台湾、米国・プリンストン大学の共同研究者と共に「オール・ジャパン」体制で進めています。5つの広帯域フィルター (g, r, i, z, y バンド) と狭帯域フィルターを用い、「ワイド」「ディープ」「ウルトラディープ」の3種類の深さでサーベイを行っています (図4)。

今回は2014年からの 1.7 年分、61.5 夜のデータが公開されました。観測領域は「ワイド」「ディープ」「ウルトラディープ」の順にそれぞれ 108, 26, 4 平方度、観測の深さ (注) を示す限界等級は r バンド (波長約 620 ナノメートル) で約 26.4, 26.6, 27.3 等です。5つの広帯域フィルターと4つの狭帯域フィルターによる多色データで、星像の広がり具合を表すシーイングは 0.6 ~ 0.8 秒角 (1秒角は 3600 分の1度) と、他の観測に比べてより深く、非常に質の高いデータです。今回の第1期データリリースでは、すでに 7000 万個の銀河や星がカタログになっています。このことからも、HSC-SSP はすばる望遠鏡と HSC の性能を最大限に活かしたサーベイと言えるでしょう。2015年の初期成果論文には、2.3 平方度にわたる天域において、重力レンズ効果の解析から銀河団規模のダークマター (暗黒物質) の集中が9つ存在することを突き止めました (Miyazaki et al. 2015, ApJ 807, 22, "Properties of Weak Lensing Clusters Detected on Hyper Suprime-Cam 2.3 Square Degree Field")。今回公開されたデータはこの約 50 倍の広さの天域を含んでいるため、ダークマターの統計的性質に迫る成果が期待されています。

超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始 図4

図4: 天球図に観測領域を示したもの。青がワイド、緑がディープ、赤がウルトラディープ領域を示しています。(クレジット:国立天文台/HSC Project)

また、総データ量も 80 テラバイト (一般的なデジタルカメラ画像の約 1000 万枚分) と実に膨大です。通常の解析手法ではこの規模のデータを調べるのは困難ですが、専用のデータベースやユーザーインターフェースを開発することで、このビッグデータによる研究が誰でもできるような工夫も施されています。

HSC-SSP 研究代表者の宮崎聡さん (国立天文台先端技術センター) は「HSC は広い天域を高い解像度で撮影できるカメラで、2014年より観測を続けてきています。今回そのデータの一部を、幅広い天文学研究に役立てていただくことを期待して、世界に向けて公開しました。ダークマターやダークエネルギー、さらには太陽系内天体から最遠方天体までの非常に幅広いサイエンスで大きな結果が得られると期待されています。現在、SSP チームでは多くの論文を執筆中で、日本天文学会の学術雑誌 (Publication of Astronomical Society of Japan) での特集号を企画しています。また、一般の方々にもご覧いただき、大望遠鏡で見た本物の宇宙を体験していただければと願っています」と、新たな研究成果への期待や社会的なインパクトについて述べています。


HSC-SSP は科学研究費補助金・基盤研究 (B) JP15340065、特定領域研究 JP18072003、および最先端研究開発支援プログラム (宇宙の起源と未来を解き明かす―超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明―) によるサポートを受けています。論文のプレプリントはこちらから入手可能です。


(注) 「深さ」とは、どのくらい暗い天体まで見ることができるか、つまりどのくらい遠い天体まで見ることができるかというものです。深さを決める要因は、望遠鏡の主鏡 (すばる望遠鏡の場合は口径 8.2 メートル) の集光力と露出時間です。

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