観測成果

すばるが宇宙の果てにある爆発銀河を発見

2002年8月8日


【観測条件】
天 体 名: 高赤方偏移の
星形成銀河 LAE J1044-0130
使用望遠鏡:すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置:Suprime-Cam (すばる主焦点カメラ)
フィルター:狭帯域フィルター (816nm)
観測日時:世界時2002年15-17日
露出時間:600分
視野:1分角x1分角
画像の向き:北が上、東が左
位   置:赤経(J2000.0)=10時44.5分、赤緯(J2000.0)=-1度31分 (ろくぶんぎ座)

【説  明】
 東北大学を中心とする共同研究チームは、すばる望遠鏡による観測から、宇宙が生まれてわずか10億年しかたっていないころの、星が爆発的に誕生している銀河を発見しました。続くすばる望遠鏡とケック望遠鏡の観測により、この銀河から宇宙空間へ高速に噴き出す水素ガスの存在が明らかになりました。ガスの噴出は、銀河内部で星が活発に形成されているためと考えられています。宇宙が150億年前にはじまったとすると、この銀河までの距離は140億光年以上となり、高速に水素ガスを噴き出している銀河の中では最も遠方の天体です。すばるをはじめとする大型望遠鏡の観測によって、宇宙が生まれたころの銀河の誕生や進化について、今後明らかになっていくと期待されています。

 大型望遠鏡の登場により、遠方にあるかすかな銀河の姿をとらえ、宇宙の初期の状態を調べることができるようになってきました。光の速度は有限であるため、遠い銀河から出た光が地球に届くまでには、時間がかかります。今回発見した140億光年の距離にある銀河の姿は、いまから140億年前に銀河から出た光が140億年かかって私たちのところにたどりついたものです。一方、宇宙はいまでも膨張しており、地球から遠方にある天体ほど高速に遠ざかっていることが知られています。そのため遠い天体から届く光は、ドップラー効果によって波長が伸びて観測されます (赤方偏移と呼ぶ)。非常に遠方にあることから大きな赤方偏移を示す天体にクエーサーがあります。太陽の質量の10億倍もあるような超巨大ブラックホールによって輝いているクエーサーは、容易に見つけることができるのです。

 東北大学の安食優 (あじきまさる、大学院生) さんと谷口義明 (たにぐちよしあき、助教授) さんらは、国立天文台、東京大学、ハワイ大学、メリーランド大学らの研究者と協力して、波長が810~822ナノメーターのみの光を通すフィルター (NB816) をすばる望遠鏡の広視野撮像カメラ Suprime-Camに取りつけました。宇宙が誕生して間もないころの銀河が発するライマンα線 (水素原子が放射するスペクトル線、波長122ナノメートル) は、赤方偏移により、開発したフィルターが通す波長800ナノメートル付近の光として観測されるはずです。34分角x27分角と満月が入るほどの大きな視野を備えた Suprime-Cam とこのフィルターの組み合わせは、遠方の銀河を探査するために最適な組み合わせといえるでしょう。

 研究チームは2002年2月、ろくぶんぎ座にある SDSSp J104433.04-012502.2 と呼ばれる遠方のクエーサーと同距離に存在している銀河を探すため、クエーサーの周囲を10時間にもわたって撮影しました。その結果、開発したフィルターによる画像のみに明るく写る15個以上の銀河を発見することに成功しました。それらのうち、遠方の銀河である可能性の高い一つの天体に対し、続く2002年3月にすばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置 FOCAS を使ってスペクトルを調べる分光観測を実施しました。得られたデータからは、この天体が予想通りに非常に遠方の銀河 (赤方偏移 z=5.69) であることが確かめられました。宇宙が150億年前にはじまったとすると、この銀河までの距離は約140億光年、生まれて約10億年しかたっていない、とても若い銀河の姿です。研究チームは同じ2002年3月に、すばる望遠鏡と同様にマウナケア山頂にあるケック II 望遠鏡に取りつけた観測装置 Echellette Spectrograph and Imager (ESI) を用いて、この銀河の詳しい分光観測を行ないました。その結果は、すばる望遠鏡による成果を支持するものでした。さらに非常に興味深いことに、この銀河から秒速数100キロメートルの高速なスピードで噴き出す水素ガスの存在を確かめたのです。

 太陽の10倍以上もあるような重い星は、わずか数百万年から数千万年のうちに超新星爆発を起こすことが知られています。活発な星の形成と超新星爆発を繰り返すことで、銀河内部にあったガスが宇宙空間に噴き出すことがあります。スーパーウィンドと呼ばれるこの現象は、すばる望遠鏡による近傍の銀河 M82の画像において鮮明にとらえられました。今回発見した若い銀河でも、スーパーウィンドと同じメカニズムで水素ガスが噴き出していると考えられています。つまり、そのような現象を示す最も遠方にある銀河をとらえたといえるでしょう。私たちは、宇宙が誕生して数億年のころには大規模な星の形成が起こっていたという証拠を見つけたのです。

 遠方にある銀河を数多く発見し、詳細な観測を続けることにより、宇宙が誕生したころの銀河の振る舞いが明らかになり、その結果として銀河の誕生や進化について解明されていくと期待されています。研究チームの谷口さんは、「すばるがまだ計画段階だった15年も前から、小平桂一さん (元国立天文台長、現在は総合研究大学院大学長) と持っていた『はるか100億光年かなたにある銀河が生まれている姿を見よう』という夢が、ついに実現されました」と話しています。

 本成果は、2002年9月1日発行のアストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載される予定です。

図 1今回発見された銀河 LAE J1044-0130 を各フィルターで撮影した画像 (一番上) とその等高線マップ (真ん中)。最下段は、等級でみたスペクトルのエネルギー分布。他のフィルターでもかろうじてわかるが、NB816 フィルターを用いた画像には、中央にはっきりと銀河が写っている。左上の明るい天体は、70億光年の距離にある近い銀河。最下段の図には、それぞれのフィルターで検出した光の量を波長の関数として等級を単位にプロットしてある (各フィルターの位置は、上の図とずれている)。このスペクトルのエネルギー分布から、発見した銀河は NB816 フィルターの波長域で最も明るいことがわかる。
図 2すばる望遠鏡の FOCAS による LAE J1044-0130 のスペクトル。上は 世界時2002年3月11日、下は同2002年3月13日。上のスペクトルでは、輝線がはっきりととらえられている。より分解能の高い下では、波長の長い右側でわずかに広がっている様子がわかる。この「red wing」と呼ばれる特徴は、銀河にスーパーウィンドがあることを示唆するものである。
図 3世界時2002年3月15日にケック II 望遠鏡の ESI による LAE J1044-0130 のスペクトル写真 (一番上) とスペクトル (中央)。最下段は、水酸基 OH による大気光。一番上では、波長の関数として、輝線とスリットに沿って LAE J1044-0130 と近い銀河の光を受けた位置を示す。LAE J1044-0130 は、特に 813 ナノメートルで明るい。中央のスペクトルでは、輝線と red wing がはっきりとわかる。真中の図のスペクトルと最下段の大気光の輝線を比較すると、検出された銀河は、大気光の影響ではなく実際の天体であることがわかる。

 

 

 

画像等のご利用について

ドキュメント内遷移