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主焦点に搭載したSuprime-Cam

2000年7月15日

 すばる望遠鏡の第一期共同利用観測 (観測期間"S00") への申込みが7月3日に締め切られました。36夜の募集に対し、100通以上の応募がありました。提案された内容はプログラム委員会で審議され、採択するかどうかが決められます。このような激しい競争は珍しいことではなく、一般に世界各国の望遠鏡では、予定した時間をはるかに超える観測申込みがあります。そのために、日本の天文学者は自分たちの望遠鏡を持ちたいと努力してきました。もちろん、すばる望遠鏡の共同利用観測には、外国の天文学者でも申込むことができます。第一期共同利用は、今年の12月から始まります。

 第一期共同利用観測で使用できる観測装置は、IRCS と今月特集をする可視光の広視野カメラ Suprime-Cam です。

 Suprime-Cam の心臓部は、冷却用真空容器 (デューワー) に納められている電荷結合素子 CCD (Charge-Coupled Device) です。10個の CCD が装着される予定ですが、現在は8つの CCD が取りつけられています。それぞれの CCD は 2048 x 4096 画素 (ピクセル) からなり、最終的な画素数は 8000万にもなります。この値は、35mm カメラによる写真の約10倍、高性能デジタルカメラの約40倍の画素数に相当します。

Suprime-Cam のデューワーに一つ目の CCD を取りつけたところ

8個のCCD を取りつけたSuprime-Cam

 1998年12月にすばる望遠鏡が初めて光を受けると、 カセグレン焦点に Suprime-Cam が取りつけられ、望遠鏡とかみ合わせる試験が開始されました。すばる望遠鏡では、鏡を切り換えることにより、4つある焦点のうちの一つに光を導くことができます。それぞれの焦点を最適な状態にするためには、多くの調整が必要です。カセグレン焦点、引き続いて主焦点赤外ナスミス焦点可視ナスミス焦点の順に準備が整ってきました。Suprime-Cam は、カセグレン焦点用には最終調整が行われていなかったにもかかわらず、ファーストライトにおいて 数々の成果を達成しました。

 1999年7月、Suprime-Cam はすばる望遠鏡の主焦点のカメラとして、直径50cmの補正レンズと組合わされました。新たに開発した補正レンズにより、Suprime-Camの広い視野内のどの場所でもシャープな画像が得られます。主焦点に取り付けた観測装置の倍率は他の焦点に取りつけたときよりも低く、広視野の観測を行うことができます。すばる望遠鏡の場合、主鏡から約15m 離れた主焦点に取りつけられた Suprime-Cam は、 24x30 分角の広い範囲を一度に撮像することができるのです。この大きさは満月の大きさに相当するもので、Suprime-Cam をカセグレン焦点に取りつけたときの30倍以上の広さです。主焦点のF値は1.9と非常に明るいです。

Suprime-Cam の補正レンズを下から見上げたところ

主焦点ユニットに搭載されたSuprime-Cam と補正レンズ

 主焦点に取りつけた Suprime-Cam の性能を下の3つの図から見てみましょう。上の図は、主焦点に搭載した Suprime-Cam を用いて、1999年8月に我々の銀河系に近い銀河M31 (アンドロメダ星雲) を撮影したものです。その中の青い四角は、Suprime-Cam をカセグレン焦点に取りつけたときに得られる画像の大きさをあらわしています。さらに下の2つ図は、Suprime-Cam をカセグレン焦点 (左側) と主焦点 (右側) に取りつけ、上図中の黄色の四角い部分を撮像した画像を比較したものです。これらから、主焦点では、カセグレン焦点に比べて視野が約30倍に広がったにもかかわらず、画像の解像度は同等であることがわかります。

Suprime-Cam によるアンドロメダ銀河 (M31):
(上) 主焦点、V バンドフィルター、視野 24分角、露出時間14分、(左下) カセグレン焦点、Rバンドフィルター、視野1分角、15分露出;(右下) 主焦点、視野1分角

 Suprime-Cam に搭載されている CCD は、可視光のすべての色に感度を持っています。しかし実際の観測では、ある色 (波長) のみの光を通すフィルターを用いて撮影を行います。一般にカラー画像を得るためには3色が必要ですが、研究内容によっては1~2色のフィルターで撮影すれば十分な場合もあります。何か新しいこと発見したという画像の多くが白黒なのは、このためです。撮影後の手順としては、コンピューター処理により写っている天体の位置や大きさ、形、明るさなどの値を詳しく測定し、カタログにすることが行われます。これらを解析することにより、画像を見ただけではわからないような複雑な現象を理解することができるのです。たとえば、測定した色の情報から、遠方にある銀河までの距離 (赤方偏移) を見積もることや 、多くの銀河の画像に見られるわずかなゆがみから、ダークマターの分布図を描くことができます 。さらにカタログ化されたデータを利用することにより、見つかった天体が未知のものか既知のものかを即座に知ることも可能です。

Suprime-Cam に R バンドフィルターを取りつけたところ

 すばる望遠鏡は、(北半球で運用されている) 口径6~10m クラスの望遠鏡のうち、広視野で高解像度の主焦点を備えている唯一の望遠鏡です。宇宙遠方の広い領域を探査したり、あるいは私たちの太陽系外縁部に広がる小天体を発見したりするのには、Suprime-Cam とすばる望遠鏡の組合わせは最適といえるでしょう。

 Suprime-Cam は、東京大学(大学院理学系研究科、宇宙線研究所)と国立天文台のグループが共同で開発した装置です。

Suprime-Cam 開発グループメンバー(一部):(左上から時計回りに) 仲田氏、小宮山氏、関口氏、嶋作氏、木村氏、宮崎氏、岡村氏、土居氏

 

 

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