観測成果

ついに発見、「軽い」超新星 -星の標準理論の検証-

2010年5月19日

この記事は広島大学宇宙科学センターのプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://hasc.hiroshima-u.ac.jp/publications/sn2005cz/sn2005cz_pr-j.html)


概要

  広島大学、東京大学、マックスプランク研究所などからなるグループにより、2005年に現れた特異な超新星が、太陽の 10 倍程度の質量をもつ「軽い」星による超新星爆発であることが明らかになりました。このような超新星は理論上、多数存在することが予定されていましたが、爆発の観測から直接確認されたのはこれが初めてです。これにより、超新星爆発に関わる恒星進化の理論が大筋で正しいことが確認されました。

本研究は、英国の科学誌 Nature の 2010年5月20日版に掲載されました。

より詳細な解説は、こちらをご覧ください。


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図1: 超新星 SN 2005cz とそのホスト銀河 NGC 4589。矢印で示された天体が超新星。すばる望遠鏡と微光天体分光撮像装置 FOCAS にて 2005年8月10日に撮影。視野は約3分角×2分角で、この時点での超新星の見かけの明るさは約 19 等 (Rバンド)。


背景

  超新星とは、重い恒星が進化の最終段階に示す大爆発や、その爆発により明るくなった状態の天体を指します。(ほかに白色矮星の核爆発も超新星として輝くことが知られていますが、本ページでは質量の大きい恒星が示す重力崩壊型超新星のことを単に超新星と表記します。) 超新星は、一時的に太陽の 10 億倍ほどの明るさで輝きます。そのような爆発を起こす星の質量には、理論的に、太陽質量のおよそ8-10 倍程度という下限があり、そのような下限に近い超新星が相当数存在することが予想されていましたが、これまで爆発時の観測事実を再現する理論モデルから推定されている質量の下限は、太陽質量の 12-15 倍と開きがありました。


観測の結果と解釈

  2005年7月17日に板垣公一氏が楕円銀河 NGC 4589 中に発見した超新星には IAU (国際天文学連合) により SN 2005cz という符号が付けられました (Itagaki & Nakano 2005, IAUC 8569)。その約 10 日後、ハワイにある Keck 望遠鏡において分光観測が行われ、水素欠乏・ヘリウム過剰の Ib 型超新星であることがわかりました (Leonard 2005, IAUC 8579)。

  この超新星は、Ib 型という重力崩壊型の特徴を示しながら楕円銀河に現れたことがまず大きな謎でしたが、その後の観測で、通常の同型の超新星と比べて有意に暗いことや、減光速度も早いことなど、特異な観測事実が次々と判明しました。

  さらに、爆発から約半年経った 2005年12月27日に、ハワイにあるすばる望遠鏡で観測したところ、この時期としても暗いこと、そして通常の同型の超新星で顕著な酸素の輝線が非常に弱く、代わりにカルシウムの輝線が顕著であることが判明しました。

  これらの特徴は、一見不可解でしたが、スペクトルや光度曲線の特徴から推定される放出物質の総量が少なく、且つ超新星として輝かせるエネルギー源である放射性元素ニッケル 56 の量も少ないことや、酸素に比べてカルシウムの特徴が顕著であったことは、前駆星が太陽質量の 10 倍程度という非常に軽いもので起こった超新星爆発であることでうまく説明されます。

  重力崩壊型超新星となるような重い星は、寿命が数千万年以下と短いため、数十億歳という古い星だけで構成される楕円銀河に現れることは通常、あり得ないのですが、SN 2005cz が属する銀河 NGC 4589 では数千万年前に生まれた星が相当の割合で含まれることが最近の研究でわかっており、我々の説明ともうまく合っています。

  今回の研究により、これまで予想されながらも見つかっていなかった「軽い」超新星を同定したことで、星の進化の理論が大筋で正しいことを確認したと言えるでしょう。予想以上に暗かったことは、これまで同種の超新星が発見されてこなかった原因の一つと考えられます。このような「軽い」超新星は数多く発生していることが予想されており、銀河の化学進化に果たすユニークな役割は、興味深い点の一つです。


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図2: SN 2005cz の後期スペクトル (赤)。横軸が静止系波長 (単位 Å オングストローム、1Åは 0.1 ナノメートル)、縦軸が光強度 (フラックス) で見やすくなるように超新星ごとに定数を掛けてスケール変化させている。他の水素外層離脱型の重力崩壊型超新星 (Ib 型の SN 2004dk、IIb 型の 1993J、Ic 型の 1994I) と比べ、輝線強度比 [Ca II] / [O I] 比が極めて大きいことがわかる。


よく似た超新星 SN 2005E

  本論文の掲載号では、SN 2005cz とよく似ている SN 2005E に対して、その超新星が現れた位置を深く観測しても最近の星形成の証拠がなんら見られなかったことから、より軽い、古い星によって生成された白色矮星の表面でのヘリウムの爆轟によるという興味深い説が示されていますが (Perets et al. 2010, Nature)、SN 2005czのホスト銀河では前述のように数千万年前に星形成を起こしていたことがわかっており、少なくとも 2005cz の方はこれまでの重力崩壊型超新星の理論モデルの範疇で無理なく説明できそうです。


アマとプロの連携、そして小・大口径望遠鏡の連携

  今回の研究は、日本におけるアマチュア天文家の活躍とプロフェッショナルな研究グループとの連携が大きな成果に結びついた、貴重な例と言えます。明るく変動が激しい初期は、いかに早く発見して密に観測するかが鍵で、アマチュア天文家による地道な観測や、観測時間を豊富に確保できる小望遠鏡による観測が有利です。また、爆発半年以上が経った段階、つまり放出物質が拡散して中まで見通せるようになったけれども、非常に暗い段階では、小さい望遠鏡では観測が不可能で、すばる望遠鏡などの大望遠鏡による観測が必要になります。

  SN 2005cz では、板垣氏の 0.6 メートル望遠鏡による発見およびその直後の追観測と、8.2 メートルすばる望遠鏡による約半年後の観測が鍵となり、理論上予想されていた「軽い」超新星爆発を同定することができました。これ以外にも、初期に Calar Alto 2.2 メートル望遠鏡や Keck 10メートル望遠鏡による観測が行われたことで、大きな成果に結びつきました。まさにアマとプロ、そして小口径と大口径望遠鏡の連携の賜物です。新天体の情報を統括する天文中央情報局 (CBAT) の存在も、こういった連携の支える基盤として重要な役割を果たしています。

  当時、広島大学 1.5 メートルかなた望遠鏡は、まだ施設が工事中の段階で存在しませんでしたが、もし動き出していれば、この研究においても重要な役割を果たしたかもしれません。かなた望遠鏡では、昨年の SN 2009dc の研究などに代表されるように、超新星の研究にも力を入れています。



文献

Nature, Vol 465 (2010年5月20日号)、326-328頁
Tiele: "A massive star origin for an unusual helium-rich supernova in an elliptical galaxy"
著者: 川端弘治 (広島大学)、前田啓一、野本憲一 (東京大学)、 Stefan Taubenberger (ドイツ マックスプランク研究所)、田中雅臣 (東京大学)、Jinsong Deng (中国 国家天文台)、 Elena Pian (イタリア 国立ピサ高等研究院)、服部尭 (国立天文台)、板垣公一 (板垣天文台)


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