観測成果

すばる望遠鏡、双子の若い星の星周円盤を直接観測 --- 星周円盤に外部からの物質流入を初めて検出 ---

2009年11月19日

<研究概要>

 総合研究大学院大学、国立天文台などの研究者からなる研究チームは、連星系をなす若い星の周りの円盤(原始惑星系円盤)に物質が流れ込んでいる現場を直接撮像することに世界で初めて成功しました。観測の結果(図1A参照)、まず連星に付随する双子の原始惑星系円盤、それらを繋ぐブリッジ構造、さらに外部からのガスの流れに起因する渦状腕を検出しました。若い天体において双子の原始惑星系円盤とガスの流れに起因する渦状腕を検出したのは、本研究が初めてです。この結果は、形成過程における物質の相互作用を解明した、連星形成に関する最初の直接観測データとなります。

 観測天体は、へびつかい座の方向約520光年の距離にある、推定年齢500万年の太陽型星からなる連星系SR24です。観測には、すばる望遠鏡に搭載されている明るい星の影響を抑える特殊な装置と、大気揺らぎを補正する装置が威力を発揮しました。観測後、数値シミュレーション(図1B参照)と比較から、観測結果を再現するのは、渦状腕を通して惑星の材料となる物質が外部から供給されていて、かつブリッジ構造を通して惑星系から隣の惑星系へ物質が流れている場合でした。以上の考察から、原始惑星系では、外部から惑星材料物質の供給を受けるだけでなく、隣の星から物質を互いにやりとりしながら成長していくことがわかりました。研究チームでは、本研究を最初のステップとして、これまで研究が遅れていた、宇宙に数多くある連星系における星・惑星形成の理解を進めていく計画です。

<研究背景>

 我々の住む太陽系、そしてその中にある太陽や地球はありふれた存在なのでしょうか?それとも特殊な存在なのでしょうか?宇宙にあるほとんどの恒星は、二つ以上の連星として生まれます (連星形成シミュレーションは、動画1図2参照、連星誕生のシナリオは図3参照)。連星とは、二つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動している天体のことです。太陽系は単独星 (たったひとつの恒星) である太陽が輝き、恒星の数という意味では少数派です。一方、より普遍的な存在である連星にも、惑星が数多く発見されています。では、この連星にはどんな惑星系があり、太陽系とはどう成り立ちが異なっているのでしょうか。

 生まれたばかりの太陽の周囲にはガスや塵が円盤状に存在し、そこで地球などの惑星が生まれてきたと考えられています。このガスや塵の集まりは原始惑星系円盤と呼ばれ、惑星が生まれる現場であるため、大変重要な観測対象です。今まで、単独星とその周りの惑星がどう生まれるかという研究は発展してきましたが、連星とその周りの惑星がどう生まれるかということは、未だ謎に包まれていました。連星では隣の星が近くにあるため、原始惑星系円盤の進化や惑星の形成にもその影響が現れます。

 宇宙の中で普遍的なシステムである、連星。宇宙で、より一般的な恒星と惑星の生まれ方を知るためには、連星にある原始惑星系円盤を観測しなければなりません。

<観測結果>

 総合研究大学院大学の眞山聡助教、国立天文台の田村元秀准教授、林正彦教授らを中心とする研究チームは上記の謎に答えるべく、ハワイにある一枚鏡で世界最大のすばる望遠鏡にコロナグラフカメラ及び大気揺らぎをキャンセルする補償光学装置(図4)を搭載させ、へびつかい座SR24星(地球からの距離約520光年)と呼ばれる年齢約500万年の連星を観測しました。観測の結果(図1A図5参照)、まず連星の双方を取り囲む (1) 双子の原始惑星系円盤、それらを繋ぐ (2) ブリッジ構造、さらに円盤から伸びる (3) 渦状腕を検出しました。(1) と (3) は若い恒星において世界で初めて検出に成功しました。

<理論計算結果>

 観測後、千葉大学の花輪知幸教授と法政大学の松本倫明准教授が、連星が生まれる様子をコンピュータシミュレーションし、理論的検証を行いました(動画2:Web4.wmv 参照)。スーパーコンピュータ上で再現された構造(図1B参照)は、観測された構造と非常に酷似していました。

<解釈>

 このことは、(3) の渦状腕を通して、惑星の材料となる物質が外部から供給されていることを示しています。また (2) のブリッジ構造を通して、惑星系から隣の惑星系へ物質が流れていることも分かりました。つまり、若い連星では、外部から惑星を作る物質の供給を受けるだけでなく、隣の惑星系と物質を互いにやりとりしながら成長していくことを直接観測から実証しました。本観測は、理論と比較可能な最初のデータを研究者コミュニティーに提供し、若い連星間における物質の相互作用を観測的に解明しました。

<まとめ>

 本研究は連星のダイナミックな誕生環境を描き出し、単独星の進化とは大きく異なった描像を描いていることを可視化しました。これによって、連星においてどのように恒星や惑星が生まれていくかという物語を観測的に明らかにしました。本研究をきっかけに、宇宙では、より普遍的なシステムである連星の周りに、どんな惑星が生まれ得るのかという謎が解かれていくでしょう。そしてそれは、我々の住む太陽系にある太陽や地球が本当に特別な存在なのかを教えてくれる鍵を握っています。

 本研究成果は米国科学雑誌「Science」に受理された論文の中でも特に重要度の高い論文に選ばれたため、2009年11月19日にオンライン速報版「Science Express」でいち早く公表されます。印刷版Science誌への掲載は、12月中旬の予定です。同誌は世界最大の総合科学機関である米国科学振興協会(AAAS)により発行されています。


<論文原題>
Direct Imaging of Bridged Twin Protoplanetary Disks in a Young Multiple Star

<論文の全著者>
眞山聡(総合研究大学院大学助教)
田村元秀(国立天文台/総合研究大学院大学准教授)
花輪知幸(千葉大学教授)
松本倫明(法政大学准教授)
石井未来(国立天文台ハワイ観測所Subaru Support Astronomer)
Pyo Tae-Soo(国立天文台ハワイ観測所Subaru Support Astronomer)
周藤浩(国立天文台助教)
直井隆浩(国立天文台Research Expert)
工藤智幸(国立天文台研究員)
橋本淳(国立天文台/総合研究大学院大学 大学院生)
西山正吾(京都大学学振研究員)
葛原昌幸(東京大学/国立天文台 大学院生)
林正彦(国立天文台/総合研究大学院大学教授)


  図1  

図1:左図A:へびつかい座SR24星 (距離520光年) を取り巻く原始惑星系構造の赤外線による観測イメージ (1.6μm) 。中心星の周りはマスクで隠されているため、黒くなっています。図中の白線はロッシュローブで主星及び伴星の重力圏を示しています。L1、L2、L3はラグランジュ点を示しています。白線の交点L1は主星と伴星の重力圏の境、L2は伴星と外界の境、L3は主星と外界の境で、ラグランジュ点と呼ばれています。1天文単位は太陽と地球の距離を表しています。 (© 総合研究大学院大学、国立天文台)
右図B:連星系SR24への物質降着2次元コンピュータシミュレーション図。図中矢印方向は物質の動く方向、矢印の長さが物質の動く速さを示しています。図の色は物質の密度の濃さを示しています。 (©千葉大学)


    

図2: 3次元コンピュータシミュレーションで見た若い連星と原始惑星系円盤 (©法政大学)

動画こちら



図3: 双子星誕生のシナリオ
連星では、明るい方の恒星を主星と呼び、暗い方の恒星を伴星と呼びます。単独星の周りに存在する原始惑星系円盤は1つであるのに対して、連星系には3種類の原始惑星系円盤があります。主星・伴星の赤道面に付随する主星原始惑星系円盤と伴星原始惑星系円盤、そして連星を覆うように存在する周連星円盤と呼ばれる原始惑星系円盤です。物理学の法則に基づいた理論計算や数値シミュレーションを行った結果から、連星の誕生について次のように想像しています。動画1と図2は、連星が形成される様子を再現したシミュレーションです。図3の右端に模式的に示したように、動画1に続いて、連星系が3つの円盤をもつ段階があると考えられています。本研究では、この段階にある連星を観測し、3つの円盤の撮像に初めて成功しました。さらに、周連星円盤から内部の円盤に物質が供給され、主星と伴星廻りの星周円盤同士でも物質が相互作用するというメカニズムを観測的に明らかにしました。


    

図4: 左図はコロナグラフの仕組みを表した模式図です。コロナグラフカメラとは, 明るい中心の星をマスクで隠し、その周辺の暗い天体や構造を検出することが出来る特殊な観測装置です。
補償光学装置とは、地球大気による星像の乱れを補正し、0.1秒角という高解像度を達成する観測装置です。右図は、波面補償光学装置の仕組みを表しています。波面センサー(図中のA)、制御システム(図中のB)、そして可変形鏡(図中のC)のおかげで、大気圏外に打ち上げられた望遠鏡(ハッブル宇宙望遠鏡など)に比べて解像力が劣るというデメリットを解消することができます。


    

図5:左図:南アフリカ1.4m赤外線望遠鏡で撮像した、へびつかい座SR24星周辺の三色合成図、右図:すばる望遠鏡8.2mで撮像したSR24の図。 (©名古屋大学・国立天文台)







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