観測成果

すばる望遠鏡、多数の超遠方銀河を発見

2009年11月6日

本文は、カーネギー研究所が発表した英文のプレスリリース文の意訳です


 天文学者たちは従来の100倍以上の範囲で夜空の奥底を探索し、ビッグバン後約8億年の宇宙初期にある銀河を 22 個発見しました。そのうち1個は、ビッグバンから 7.8 億年後の宇宙に存在していることが、その銀河の水素ガスが出す輝線から確認されました。この発見は、ドロップアウト銀河と呼ばれる過去の宇宙に見られる銀河が、ビッグバン後約8億年まで遡っても存在していることを初めて証明するものです。同時に、この広い範囲で見つけられた超遠方銀河から、宇宙史の大イベントである宇宙再電離がいつ始まったかを知る手がかりが得られました。この研究は、2009年12月発行の米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

 ハッブル宇宙望遠鏡の新カメラ WFC3 をはじめ、観測の技術は日々目覚ましく向上しています。その結果、人類が観測できる宇宙は広がり、ついには宇宙再電離の時代にまで到達しました。 137億年前、ビッグバンにより誕生したばかりの宇宙は熱いプラズマで満たされ、霧がかかったような状態でした。約 40万年後には宇宙の温度が下がり、プラズマを構成する電子と陽子が結合して中性水素へ変わり、宇宙の霧が晴れました。その後、いつからか宇宙で星や銀河ができはじめ、それらがもたらす紫外線で再び電子と陽子が分かれたと考えられています。これが宇宙の歴史における最後の大イベント、宇宙再電離です。ビッグバンから約10億年後に宇宙再電離が終了したことは分かっていますが、これがいつ始まってどのように進んだかなど、宇宙再電離は謎に包まれています。

 日米の研究者からなる国際研究チームは、ドロップアウト法により超遠方の銀河を探しました。チームを率いたカーネギー研究所の大内 正己特別研究員は、「私たちはこれまでの研究ではほとんど用いられなかった赤い光を通す特殊フィルターを使いました。そして、遠方にあるために宇宙膨張の影響を強く受けて非常に赤くなった天体を見つける手法、ドロップアウト法で超遠方の銀河を探しました。このような探査には途方もない時間がかかるのが普通ですが、この特殊フィルターとすばる主焦点カメラの高い感度、広い視野のお陰で、従来の100倍以上広い夜空を探索することができました。その結果、22個というこれまでにないほど多く超遠方銀河を見つけることができました。さらに、そのうち1個の銀河については距離、すなわち存在する時代を正確に求めることができ、世界に先駆けてドロップアウト銀河がこのような超遠方にもあることを証明しました(注)」大内研究員は続けて、「22個の銀河は全て同じドロップアウト法で見つかったため、これらのほとんどが超遠方の宇宙にあると考えられます」

 国際研究チームが従来より桁違いに広い探査を行えたのは特殊フィルターに加えて、すばる主焦点カメラとそれに 取り付けられた高感度の CCD のお陰でした。彼らは 2006年から 2009年まで 13晩かけてすばるディープフィールドと GOODS-N フィールドと呼ばれる空の領域を観測しました。このようにして今回新たに得られた画像と過去の観測で得られたデータを組み合わせました。

 天文学者たちは宇宙再電離が突然起こったのか、じわじわと進んでいったのか、そしてなにより重要な疑問として、いつ宇宙再電離が始まったのかに答えようとしています。銀河の明るさとその密度を測ることで、宇宙で星が作り出されるスピードがわかり、その星から出る紫外線の量から宇宙再電離が起こり得るかどうかを調べることができます。

 国際研究チームは今回とこれまでの観測で得られた銀河を合わせることにより、どのくらいの紫外線が超遠方の宇宙で作り出されているかを計算しました。観測で見つけられた銀河は予想以上に暗いものが多く、ビッグバン8億年後の宇宙では、銀河の中で星が生まれるスピードが急激に落ち込んでいることが分かりました。この落ち込みのために、宇宙の紫外線量が著しく少なく、宇宙をやっと電離できるかできないかのレベルになっていることが分かりました。

 「この紫外線量の少なさには非常に驚きました。というのは NASA の WMAP 衛星による宇宙背景放射の観測によって、ビッグバンから6億年経過するまでには宇宙再電離が始まったと言われているので、8億年後の宇宙で紫外線量が少ないというのはおかしな話です。」と大内研究員は話します。続けて「この一見矛盾する2つの観測結果を説明するためには、今回観測で見つかった超遠方銀河が、現在の銀河よりも効率的に紫外線を作り出していなくてはなりません。宇宙初期にある銀河は、強力な紫外線を出す巨大な星々ばかりをものすごい勢いで作るなど、我々天文学者の常識を越えるものであったのかもしれません」

 

 (注) ここで言う 22個の銀河は超遠方銀河と考えられていますが、この1個を除いては正確な距離が測られていません。距離が測られている1個の銀河はすばるが 2006年に発見した最も遠い銀河と同じものです。 ( 2006年9月13日「最も遠い銀河の世界記録を更新」)

 

 

 

図1

図1: 発見された超遠方銀河の擬似カラー合成写真。ビッグバンからおよそ8億年後の時代にある銀河で、すばるディープフィールドで見つけられたものです。左上のパネルは 7.8億年後の時代にあることが水素輝線で確認された銀河です。青と緑はそれぞれ B と i バンド、赤は特殊フィルターyバンド ( 1um ) の画像に対応しています。
(Astrophysical Journal 誌 2009年12月号に掲載される論文 Ouchi et al. 2009 の図を改変)


図2

図2: 図 1 と同じ。ただし左上パネルの数字を除いたものです。
(Astrophysical Journal 誌 2009年12月号に掲載される論文 Ouchi et al. 2009 の図を改変)


図3

図3: 銀河から出される紫外線光子の量を宇宙年齢に対して描いた図。赤棒が今回の研究で求めた値とその誤差を示しています。多数ある黒の印は、これまでの研究で得られた、宇宙年齢が約10億歳以後の測定値。暗い灰色部分が紫外線光子の量が足りずに宇宙の再電離が起こらないとされる理論値。赤棒がこの暗い灰色部分との境に来ているので、8億年歳の宇宙では紫外線光子の量が足りるか足りないかギリギリの状況であることが分かります。
(Astrophysical Journal 誌 2009 年 12 月号に掲載される論文 Ouchi et al. 2009 の図を改変)


図4

図4: 宇宙の星形成の歴史。縦軸が1年当たりに星が生まれる量、横軸が宇宙年齢。赤棒が今回の研究から得られた値とその誤差。黒丸は、これまでの研究で得られたビッグバン後10億年から現在までの測定値。点線はこれらに最も良く合う理論モデル。
(Astrophysical Journal 誌 2009年12月号に掲載される論文 Ouchi et al. 2009 の図を改変)




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