観測成果

渦巻銀河NGC6946外縁部の活発な星形成活動 ~「すばる望遠鏡観測研究体験企画」参加者による研究成果~

2009年9月8日

 すばる望遠鏡主焦点カメラで取得された渦巻銀河NGC6946 (図1) の広域画像の解析から、この銀河の外縁部では活発に星が形成されていることがわかりました(図2)。今回の観測では、星生成活動を示す電離水素領域を1413個も検出することに成功し、今まで詳しく調べられていた領域の2倍以上にあたる、銀河中心から半径6万光年以上という辺境部にも電離水素領域が存在することを初めて発見しました。これは銀河の星がわずかしか存在しないような領域でも星生成活動が行われていることを示すものです。この結果は、今まであまり理解が進んでいない銀河外縁部の基礎的観測データを提供するとともに、星形成の条件を理解する手がかりを与えるものです。この観測研究は、「すばる望遠鏡観測研究体験企画に参加した学生によって行われたもので、2009年天文学会秋季年会で報告されます。




 ハワイ観測所では、大学学部生対象の「すばる望遠鏡観測研究体験企画」を毎年開催しています。この企画は、観測準備から実際にすばる望遠鏡や観測装置を動かして観測を実行するところまですべて参加者の手で遂行してもらうことで、観測の一連の流れを体験することを目標にしています。2008年度は8月24日から29日の日程で開催され、観測研究に興味をもつ意欲ある全国の学部学生10名が参加して開催されました。(詳しくは天文台ニュース2008年9月号を参照)。

 今回は、すばる主焦点カメラ(Suprime-Cam)を用いて近傍の渦巻き銀河NGC6946の星形成活動を調べることを目標に観測を行ないました。実際にすばる望遠鏡を使った時間はわずか40分程度だったのですが、良質な画像を取得することができ、その後、参加学生のうち5名が中心となって画像解析および結果の考察を進めてきました。

 銀河円盤(渦巻き腕)をほぼ真上から見ることができるNGC6946は、銀河内の場所による星生成活動の差異を調べるのに適した銀河です。今回の観測で得られたデータの特長は、星生成活動の指標となる水素の電離輝線(Hα)を捕らえるフィルターを用いて、今まで観測されてこなかった銀河の外縁部までを広く深く観測したことにあります。解析の結果、総数1413個もの電離水素領域(HII領域)を検出し、今まで詳しく調べられていた領域の2倍以上にあたる、銀河中心から半径6万光年以上という辺境部にもHII領域を初めて発見し、銀河の星がわずかにしか存在しないような領域でも星生成活動が行われていることを明らかにしました。(図2)

 また、電波 (21cm輝線) の観測から得られている中性水素の分布とHII領域の分布の比較を行いました。その結果、HII領域は、局所的に中性水素密度が低くなっている部分(Hole)の周辺にHoleを取り囲むようにして分布していることを突き止めました。これは、中性水素の局所的な密度の増減が大質量星形成を引き起こす条件の一つであることを示す、観測的証拠であると考えています。(図3)

 この結果は、今まであまり理解が進んでいない銀河外縁部の星形成活動の姿を示すとともに、銀河外縁部の研究を行なう上で、良質で広範囲をカバーした基礎的観測データとして役立つと期待されています。

 この結果は2009年天文学会秋季年会で報告されます。


講演タイトル: 「Suprime-CamによるNGC6946外縁部の星形成の描像」
講演者: 梅畑豪紀、内山瑞穂、釋宏介(東京大学)、大友雄造(千葉大学)、佐久間絵理(東京理科大学)、今西昌俊、小宮山裕(国立天文台)、2008年度すばる観測研究体験企画関係者



【観測条件】

天 体 名: NGC6946
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置: Suprime-Cam
フィルター: B (0.45μm)、V(0.55μm)、IA651(0.651μm)
カラー合成: 青(B)、緑(V)、赤(IA651)
観測 日時: 世界時2008年9月3日(B)、8月28日(V)、8月28日(IA651)
露出 時間: 720秒 (B)、540秒 (V)、1155秒 (IA651)
画像の向き: 上が北、左が東
位   置: 赤経(J2000.0) = 20時35分、赤緯(J2000.0) = +60度09分 (ケフェウス座)




図1

図1: NGC6946のカラーイメージ。銀河円盤(渦巻き腕)をほぼ真上から見ることができるNGC6946は、銀河内の場所による星生成活動の差異を調べるのに適した銀河である。赤色が星形成活動を示す電離水素輝線を表している。

全体図 (視野:32' x 25')

全体図 (視野:32' x 25') ダウンロード用高解像度ファイル

銀河のみ (視野:11' x 9.7')


図2

図2: NGC6946外縁部のHII領域のクローズアップ。黄色線で挟まれた部分が本研究でカタログされた電離水素領域。

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図3

図3: 中性水素密度の低い部分(番号つきの黒楕円)と電離水素領域(赤十字)の空間分布図。図から見て取れるように、多くの電離水素領域が中性水素の少ない部分の縁をなぞるようにして分布していることが分かる。このことから、中性水素の局所的な疎密が星形成活動を引き起こす条件の一つであろうと考えられる。

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