観測成果

125 億光年彼方の生まれたての小さな銀河
―すばる望遠鏡で見つけ、ハッブル望遠鏡で極める―

2008年3月24日

この記事は愛媛大学 宇宙進化研究センターのプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://cosmos.phys.sci.ehime-u.ac.jp/Cosmos/PressRelease/)


  愛媛大学、東北大学、カリフォルニア工科大学などからなる研究チームは、すばる望遠鏡で発見した 125 億光年彼方にある 80 個の銀河をハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮影し、17 個の銀河はまだ 4000 光年程度の大きさ (直径) しかないことを明らかにした (図1)。これだけ多数の生まれたての銀河の詳細な形態をハッブル宇宙望遠鏡で系統的に調べたのは世界で初めてである。


figure1

図1: ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮影された 125 億光年彼方の銀河。天域は COSMOS フィールド (ろくぶんぎ座の方向)。白丸印の中央付近に見えるのが該当する銀河。白丸印の直径は1秒角で、赤方偏移 5.7 で約2万光年のサイズに相当する。


  今回観測された生まれたての銀河は、現在の銀河に比べて数十分の一の大きさしかない。これらの銀河はその後 100 億年以上の時間をかけて合体を繰り返し、現在観測されるような大きな銀河に成長してきたことを意味する。まさに理論的な研究で予想されている銀河形成の現場を捉えたと考えられる。

  今回ハッブル宇宙望遠鏡のカメラで撮影されたのは、生まれたての銀河で星形成がさかんに行われている領域の姿である。80 個中17 個しか検出できなかったが、残り 63 個の銀河では星形成領域の光度がハッブル宇宙望遠鏡のカメラの検出限界より暗いため、観測できなかったと考えられる。すばる望遠鏡で検出した光の大部分は星の光ではなく、星に電離されたガスの放射 (水素原子の放射するライマン α 輝線) であることに注意されたい (図2)。


figure2

図2: 図1で示したハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラで撮影された 125 億光年彼方の銀河のうち3個について、すばる望遠鏡によって得られた電離ガスのイメージ (右) と比較したもの。図1と同じく、白丸印の直径は1秒角。ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラの角分解能は 0.05 秒角。一方、地上望遠鏡では大気揺らぎの影響を受けるので、長時間積分するとおおむね1秒角の角分解能になる。即ち、ハッブル宇宙望遠鏡の高性能サーベイカメラの角分解能は地上望遠鏡のカメラに比べて約 20 倍高い。


figure3

図3: 図2の中段の銀河のみを示した図。


  なお、本研究はハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム『宇宙進化サーベイ (通称 COSMOS) 』プロジェクト (代表: N. Scoville [Caltech]) による研究成果である。また、科学研究費・基盤研究 A (17253001: 代表=谷口義明) による支援を受けて行われている。



COSMOS プロジェクトについて
今回の発表に関連する COSMOS プロジェクトについての参考論文は以下の通り。
1. Scoville, N., et al. 2007, ApJS, 172, 1
“The Cosmic Evolution Survey (COSMOS): Overview”
(COSMOS プロジェクト概要)
2. Taniguchi, Y., et al. 2007, ApJS, 172, 9
“The Cosmic Evolution Survey (COSMOS): Subaru Observations of the HST COSMOS Field”
(COSMOS プロジェクトのすばる望遠鏡による観測の概要)
3. Murayama, T., et al. 2007, ApJS, 172, 523
“Lyα Emitters at Redshift 5.7 in the COSMOS Field”
(今回観測した 125 億光年彼方の生まれたての銀河のすばる望遠鏡による発見の論文。今回報告するハッブル宇宙望遠鏡の観測については触れていない)
ApJ はアメリカ天文学会の天体物理学雑誌 (The Astrophysical Journal) の略号。上記の3編の参考論文は ApJ Supplement の COSMOS プロジェクト特集号に掲載された論文である。



 

 

 

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