観測成果

宇宙で最初の超新星がつくった、重元素の最も少ない星

2005年6月3日

この記事は東京大学のプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2005/16.html)


概要

  東京大学大学院理学系研究科 (天文学専攻) の野本憲一教授、岩本信之研究員 (現・日本原子力研究所) らを中心とする研究グループは、「最近すばる望遠鏡によって発見された "重元素の最も少ない星" が宇宙で最初に誕生した第一世代の星であるかどうか」という論争に決着をつける研究結果を発表しました。

  究グループは、この星が極めて特異な元素組成を示していることに着目し、宇宙の第一世代の大質量の星の進化を計算し、それらが超新星爆発を起こして放出するガスの重元素の組成を推定したところ、この星で観測された特異な元素組成と見事に合致することを明らかにしました。すなわち、発見された星は、重元素をごくわずかだけ含むガスから生まれた第二世代の星であるということになります。

  この研究により、第一世代の超新星の中には、知られているタイプの超新星とは違って、極めてわずかな量の鉄しか放出しないという特異な爆発機構を持つものがあり、問題となった"重元素の最も少ない星"は、そこから生まれた第二世代の星であることが明らかにされました。放出されなかった大量のガスは、爆発後中心部にブラックホールを形成したと考えられます。

  研究グループは、さらに、この爆発の理論モデルによって、重元素の極めて少ない他の多くの星の元素組成も、統一的に再現することができることを示すことに成功しました。その結果、誕生直後の宇宙で、どのように星が形成され、元素の豊富な宇宙へと進化が進んでいくかというシナリオを構築する上で、画期的な貢献をしました。


解説

  宇宙で最初に輝きだした星は、宇宙のはじまりのときの大爆発 (ビッグバン) で合成された水素やヘリウム、そしてわずかなリチウムだけを含むガスから生まれたと考えられています。つまり、我々のまわりに見ることができる多くの元素がまったく存在しないという特殊な状況であったのです。そのために、星が誕生するための条件も現在とは全く異なり、最初に生まれた星の大部分は太陽質量の 10 〜 100 倍以上もある大質量の星であったと理論的に予測されています。しかし、その寿命は数百万年程度と非常に短かったために、現在では観測することができません。したがって、どのような大質量星が存在していたのか、また、最初に生まれた星の中に太陽やそれより軽い星はなかったのかという疑問に対する答えはまだ得られていません。

  これらの疑問に答えるための手がかりを与えてくれる天体は、宇宙初期から現在まで生き残っており、なおかつ重元素をほとんど含んでいない軽い星です。これに対応する天体として、赤色巨星 HE0107−5240 とごく最近発見された最も鉄組成 (注1) の少ない準巨星 (または主系列星) HE1327−2326 (注2) という二つの星が知られています。発見当初よりこれらの星が、第一世代の軽い星であるという可能性が指摘されてきました。それは、第一世代星であっても、現在までの長い生涯の間に星間空間や連星系を形成していればその伴星から星表面に重元素が降り積もり、わずかながら重元素を含む星として観測される可能性があるからです。一方で、これらの星は少量の重元素により既に汚染されたガスから生まれた第二世代の星である可能性もあり、この議論には決着がついていませんでした。そこで、東京大学大学院理学系研究科 (天文学専攻) の野本憲一教授、岩本信之研究員 (現・日本原子力研究所) らを中心とする研究グループは、この議論に決着をつけ、"重元素の最も少ない星"の起源を明らかにするため、これら二つの星に見られる特異な元素組成に着目しました。これらの星はいずれも太陽での組成と比べて、鉄組成が 10 万分の1以下と非常に少ないことや炭素組成は1万倍も多いという共通点を持っていました。しかしながら、これら二つの星の間で、ナトリウムやマグネシウム組成では 10 倍、窒素組成については 100 倍ほど異なるという相違点もありました (図1)。これらの特異な元素分布を同じシナリオで再現することによって "重元素の最も少ない星" の起源や宇宙最初の星についての重要な知見が得られると期待されます。


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図1: HE1327−2326 (赤点) と HE0107−5240 (青点) の元素組成分布と理論モデルによる再現結果 (実線が前者、破線が後者に対応する) との比較図。


  研究グループは、大質量星が進化の最期に引き起こした大爆発−超新星爆発 (注3) の際に、星の中心付近から内部の広い範囲に亘って大規模な混合が起こり、その後、爆発したときに解放されたエネルギーが比較的小さかったために、混ぜられた領域のほとんどは星間空間に放出されることなく、強い重力のために中心天体として残されるブラックホールに落下してしまうというモデル (注4) を提案しました (図2)。今回、このモデルをさらに検討することにより、太陽の 25 〜 40 倍の質量を持ったモデルが二つの星で見られる微少な鉄組成と豊富な炭素組成を持つという特徴を再現し、さらに爆発エネルギーのわずかな違いがナトリウムやマグネシウム組成の違いを作り出しているということを世界で初めて明らかにしました (図3)。そして、窒素組成に見られる大きな差は、星の自転速度の違いによって生じた結果であることを示しました。一方、重元素の少ない二つの星は豊富な炭素・窒素組成を持っていますが、これらの星が第一世代の星であるというシナリオでは、その窒素に対する炭素の比が太陽と同程度であることを説明できないことが分かりました。


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図2: 超新星爆発のときにニッケル Ni56 (放射性崩壊により鉄 Fe56 となる) などの中心付近で合成された元素 (図3参照) は大規模な混合 (左図の赤い破線より内側の領域) によって外側へ運ばれるが、混ぜられたすべての領域が星間空間へ放出されるのではなく、そのうちのほんの一部だけが放出され、残り (右図の青い実線より内側) は中心に落下してブラックホールを形成する。


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図3: 中心の重力崩壊に伴って発生した衝撃波が、星内部を通過したときに起こった爆発的元素合成によって作られた元素の分布図。図の上部にはそれぞれの星の元となった超新星において、大規模混合が起きた範囲を示してある。放出された鉄の量は太陽質量のわずか 10 万分の1程度である。


  この研究により二つの星は、重元素が非常に少ないものの、第一世代の星ではなく第二世代の星であり、その原料となったのは、先行する第一世代の大質量星が超新星爆発を起こして放出した、重元素をわずかに含むガスであったと判明しました (図4)。


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図4: ビッグバンで合成された水素 (H)、ヘリウム (He)、そしてわずかなリチウム (Li) だけしか含まない始原ガスから第一世代の大質量星が誕生した。この星が進化し、超新星爆発を起こすことにより、炭素 (C) や鉄 (Fe) などの様々な重元素が星間空間に放出された。これらが周りの始原ガスと混ざり、第二世代の星が形成された。


  この超新星は爆発エネルギーが比較的小さいため、鉄の放出量が著しく少なく、爆発の明るさは典型的な超新星に比べて非常に暗かったと予想されます(注5)。現在でもその暗さのために、まだほんの数例しか知られていませんが、似たような「暗いタイプの超新星」が観測されています (注6)。しかし、"重元素の最も少ない星"を作った超新星が放出した鉄の量は、現在観測されている「暗いタイプの超新星」の 100 分の1であったと推定されるため、新種の「非常に暗い超新星」であった可能性があります。一方、二つの星に比べて鉄組成が 10 〜 100 倍ほど多い天体も観測されており、これらは上記と同様の爆発機構により現在見られるタイプの「暗い超新星」によって作られたと考えると統一的に第二世代星として解釈することができます。

  今回の「非常に暗い超新星」と「暗い超新星」の違いがなぜ現れるのかはいまだに謎であり、これらの中間の超新星も存在するのか、などの疑問に答えるためには、すばる望遠鏡などによる更なる観測結果が期待されます。


  この成果は 6月2日付けの米国科学誌 Science オンライン速報版に掲載されました。
N. Iwamoto et al., "The First Chemical Enrichment in the Universe and the Formation of Hyper Metal-Poor Stars," Science Express 1112997


(注1) 鉄組成については水素組成に対する比を、その他の元素の組成については鉄組成に対する比を表しています。

(注2) Frebel, 青木 et al. (2005) として英科学誌 Nature に掲載。

(注3) 超新星には大きく分けて二種類ありますが、ここで考えているのは、その中の一つのタイプ、重力崩壊型超新星です。重力崩壊型超新星とは、太陽の 10 倍以上の重さの大質量星が進化の最期に大爆発したものです。
爆発の直前には中心部に鉄を主成分とした核ができていますが、この核は強い重力を支えきれずに崩壊してしまい、中心に中性子星またはブラックホールが形成されます。中心核の崩壊に伴い大量の重力エネルギーが解放され、星の中心部で外向きの衝撃波が発生します。それが星の内部を燃やしながら表面へと進んでいき星を吹き飛ばしますが、爆発後の中心には中性子星やブラックホールが残ります。

(注4) 梅田、野本 (2003) として英科学誌 Nature に掲載。

(注5) 爆発の明るさは放出された不安定なニッケル-56 (Ni56) の放射性崩壊 (Ni56 → Co56 → Fe56) により発生する熱によってまかなわれています。

(注6) 暗いタイプの超新星のプロトタイプとして超新星 SN1997D が挙げられます。この超新星によって放出された鉄の量は典型的なもの (太陽質量の 0.07 倍程度) の 1/30 しかないと考えられています。



 

 

 

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