観測成果
超巨大ブラックホールの隠された活動性 ─可視光フレアの発見─
2005年4月1日
この記事は京都大学のプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~totani/press-release/AGN-var-2005/index.html)
概要
すばる望遠鏡を用いた時間変動天体の大規模探索により、約 40 億光年の距離にある一見ごく普通の銀河において、その中心部分がわずか数日の間に大きく増光 (フレア) する現象が発見されました。この放射は、太陽質量の約1億倍という超巨大ブラックホールの周囲約 10 億キロメートルの距離を光速に近い速度で回転しているガス円盤領域からと考えられます。このブラックホールは我々の銀河系中心に存在すると言われる約 300 万太陽質量のブラックホールよりはるかに大きく、そのような巨大なブラックホールから、しかも肉眼で見える可視光域で激しい活動現象が発見されたのは初めてのことです。すばる望遠鏡の大口径と広い視野を生かした成果であり、どの銀河にも中心核に超巨大ブラックホールが普遍的に存在するという、現在主流となりつつある考えをさらに裏付ける結果と言えます。
活動銀河中心核とは
銀河の一部 (数パーセント) には、中心核に明るい点源状のものが見られ、活動銀河中心核 (Active Galactic Nuculei = AGN) と呼ばれます。このような銀河の中心には 100 万太陽質量以上の超巨大ブラックホールが存在すると言われ、そこへ周囲からガスが落ち込む際に重力エネルギーが解放されることで明るく輝いたり、ジェットと呼ばれる噴水状のガス噴射が起きたりします。また、一般的に時間変動があり、中心核の明るさが変化します。
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図1: 活動銀河中心核の概念図。 |
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図2: 有名なクエーサー、3C273。左はそのままの写真、右は中心のクエーサーを隠して母銀河を観測したもの。 |
クエーサーは AGN の一種で、上の写真でもわかるとうり、母銀河に比べて中心核がはるかに明るく、ほとんど母銀河が見えないようなものを言います。AGN は、その中心核が母銀河と同程度か、あるいはずっと明るいものが一般的で、よく調べられてきました。しかし、一見普通の銀河の中心にも同様に超巨大ブラックホールが隠されていて、現在は活動していないだけだと言われています。我々の銀河系の中心にも、約 300 万太陽質量の超巨大ブラックホールがあることがわかっています。
すばる望遠鏡による時間変動天体の探索
我々は、ヘラクレス座の満月程度の領域を「すばる」で観測しました。まず、平成15年5月5日に最初の基準観測を、さらに一ヶ月後、6月1日から4日の4晩連続で、本観測を行いました。本観測のデータから基準観測データを引くことで、明るさが変化した変動天体を探しました。
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図3: |
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図4: ヘラクレス座の位置と我々の観測領域。 |
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図5: 今回の観測の時間間隔の図解。 |
「見つかった変動する中心核」
この過程で、我々は6つの変動する活動銀河中心核を見つけました。
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図6: 我々が観測した領域 (満月程度の大きさ) と6つの活動銀河の位置。 |
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図7: 天体1付近の拡大図。この程度の明るさの銀河は視野内に1千個ほどある。 |
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図8: 見つかった6つの銀河とその中心核の時間変化。 |
特に天体2は上の図からわかるように、わずか数日で激しく変動しています。
この現象の理論的解釈
これらの銀河の距離はおよそ 40 億光年。我々の銀河系よりさらに大きな楕円銀河です。その中心には、太陽質量の約1億倍という超巨大ブラックホールが存在すると言われています。そのブラックホールにガスが回転しながら落ち込む時、重力エネルギーが光に転化します。ブラックホールの大きさはおよそ3億キロメートル。その付近では、回転速度は光速の約半分にも達し、その回転周期がちょうど半日ぐらい。天体2の変動の時間スケールとほぼ一致します。我々は他にも様々な可能性を検討をした結果、この解釈が最も自然に今回の観測結果を説明できることを見出しました。
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図9: 今回の現象の模式図。ブラックホールのサイズは太陽と地球の間の距離の2倍ほどもあります。 |
今回の発見の科学的意義
今回の発見でまずユニークなのは、一見普通に見える銀河の中心核の微弱な変動をすばるの高感度観測によって初めて捉えたことです。さらに、その変動はこれまでに研究されてきたクエーサーなどの中心核の明るい AGN の時間変動に比べてずっと速いようです。(注1)。このような一見普通の銀河の中心の激しい活動現象は、これまででは唯一、我々の銀河中心で X 線や赤外線で発見されていますが、今回の発見は遠方の銀河のずっと大きなブラックホールから、しかも肉眼で見える可視光での現象です。
これらの結果は、一見普通に見える銀河には実は激しい活動性が隠されていたこと、そしてそうした普通の銀河にも超巨大ブラックホールが普遍的に存在していることを示唆します。
今回の成果は、アメリカ天文学会の学術誌、The Astrophysical Journal Letters に掲載されています。
(注1) 可視光で見た AGN は1年程度で変動。稀に速い時間変動を示す活動銀河があることが知られていますが、それはジェットが観測者方向を向いたブレーザーと呼ばれる現象で、ブラックホールから遠く離れた領域からの放射と考えられています。今回発見された現象はそうではなく、ブラックホールのごく表面近傍からの放射と考えられます。