観測成果

すばるが宇宙の果てにある銀河の種を発見

2003年11月25日

 東北大学を中心とする共同研究チームは、すばる望遠鏡による観測から、現在の宇宙にある典型的な銀河の数百分の一の質量しかない、軽い銀河を発見しました。宇宙が生まれてわずか10億年しかたっていないころにある銀河であり、「銀河の種」といってもいいような銀河です。私たちの住んでいる天の川銀河や、近傍の宇宙にある典型的な銀河は、太陽質量の1000億倍以上も質量があり、大きさも10万光年を超えています。しかし、銀河は生まれた時からこのような巨大なものではありませんでした。現在観測されている銀河の数百分の一から数千分の一ぐらいの質量の軽い銀河がまずできて、それらが少しずつ合体して、現在観測されるような銀河に成長してきたと考えられています。このような銀河誕生のシナリオを検証するためには、若い宇宙にある質量の軽い銀河を発見する必要があります。今回の発見は、まさにこのシナリオを裏付ける最初の証拠であり、銀河の成長過程を知る上で、貴重な手がかりになると期待されています。

 東北大学の谷口義明 (たにぐちよしあき、助教授) さんらは、国立天文台、東京大学、ハワイ大学、メリーランド大学らの研究者と協力して、波長が810~822ナノメーターのみの光を通すフィルター (NB816) をすばる望遠鏡の広視野撮像カメラ Suprime-Camに取りつけました。この波長帯では地球大気の夜光が弱いので、34分角x27分角と満月が入るほどの大きな視野を備えた Suprime-Cam とこのフィルターの組み合わせは、遠方の銀河を探査するために最適な組み合わせになります。宇宙が誕生して間もないころの銀河が発するライマンα線 (水素原子が放射するスペクトル線、波長122ナノメートル) は、赤方偏移により、開発したフィルターが通す波長800ナノメートル付近の光として観測されるはずです (期待される赤方偏移は約5.7です)。

 研究チームは2002年2月、ろくぶんぎ座にある SDSSpJ104433.04-012502.2 と呼ばれる遠方のクエーサーと同距離に存在している銀河を探すため、クエーサーの周囲を10時間にもわたって撮影しました。その結果、開発したフィルターによる画像のみに明るく写る15個以上の銀河を発見することに成功しました。それらのうち、遠方の銀河である可能性の高い一つの天体 (図1) に対し、続く2002年3月に、すばる望遠鏡と同様にマウナケア山頂にあるケック II 望遠鏡に取りつけた観測装置 Echellette Spectrograph andImager (ESI) を用いて、この銀河の詳しい分光観測を行ないました (図2)。その結果、この銀河の水素ガス雲の速度分散はわずか秒速20キロメートルしかないことがわかりました。水素ガスは銀河の重力によって銀河の中に閉じ込められていますが、ガスのランダムな運動速度 (速度分散) は銀河の質量の1/2乗に比例しています。ガス雲は2万光年の拡がりを持っていますが、銀河の質量を計算してみると太陽質量の数億倍しかないことが判明しました。この質量は私たちの住んでいる天の川銀河の数百分の一でしかありません。天の川銀河のお供をしている小マゼラン雲ぐらいの銀河に相当します。

 最新の観測成果に基づいて、宇宙年齢を137億歳とすると、今回発見された銀河の種は125億光年の彼方にあることになります。このような銀河の種は、宇宙誕生後数億年後にでき始めると考えられています。今後は、このような銀河の種が宇宙年齢と共に、どのように成長していくのかを見極める観測が重要になってきます。今回の観測のように水素ガスの放射するライマンα線を頼りに、このような研究を進めていくことになります。しかし、宇宙誕生後数億年後まで見通すためには、可視光帯ではなく、近赤外線帯 (波長1ミクロンから3ミクロン) での観測が必要になってきます。現在開発中のすばる望遠鏡用の新しい赤外線カメラ (MOIRCS) が完成すると、近赤外線帯での挑戦が始まります。また、楽しみにしていてください。

 本成果は、2003年3月10日発行のアストロフィジカル・ジャーナル誌に掲載されました (第585巻、L97-L100頁)。

 


 

図 1 : 今回発見された銀河 LAE J1044-0123 を各フィルターで撮影した画像 (一番上) とその等高線マップ (真ん中)。最下段は、等級でみたスペクトルのエネルギー分布。他のフィルターでもかろうじてわかるが、NB816 フィルターを用いた画像には、中央にはっきりと銀河が写っている。左上の明るい天体は、70億光年の距離にある近い銀河。最下段の図には、それぞれのフィルターで検出した光の量を波長の関数として等級を単位にプロットしてある (各フィルターの位置は、上の図とずれている)。このスペクトルのエネルギー分布から、発見した銀河は NB816 フィルターの波長域で最も明るいことがわかる。

 


 

図 2 : ケック望遠鏡のESIによる LAE J1044-0123 のスペクトル。上は 世界時2002年3月13日。非常に細い輝線がはっきりととらえられており、その幅から、ライマンαであることがわかる。

 

 

 

 

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