観測成果

すばる望遠鏡、ホット・ジュピターへ進化しつつある系外惑星を発見

2007年8月16日

この記事は東京工業大学のプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://www.geo.titech.ac.jp/lab/ida/ida/tmp/HD17156.htm


  東工大、神戸大、東海大、国立天文台、サンフランシスコ州立大などからなる研究グループは、すばる望遠鏡とケック望遠鏡を用いた共同観測 (N2K プロジェクト (注1)) により、カシオペア座の HD 17156 という恒星の周りに系外惑星を発見しました。これは、すばる望遠鏡で見つけた2つ目の系外惑星です。この惑星は軌道長半径が小さな割に軌道が大きく楕円にゆがんでいて、ホット・ジュピターに進化しつつある惑星ではないかと考えられます。


  本研究グループは、2004年から、すばる望遠鏡 (以下、すばる) やケック望遠鏡 (以下、ケック) などを用いたドップラー観測 (注2) により、約 2000 個の恒星を対象としたホット・ジュピター (短周期の系外惑星) 探索を行っています。その探索で今回、カシオペア座にある HD 17156 という太陽に似た恒星の周りに木星質量の3倍ほどの惑星を発見しました (注3)。

  この恒星は、2005年冬のすばるでの3日間の観測の結果、大きな速度変化を示し、惑星をもつであろうことが分かりました。しかし、その後約1年間に渡ってすばるやケックで度々追観測が行われましたが、なかなか軌道を決定することができませんでした。このような状況を打破すべく、2006年12月に「インテンシブプログラム」 (注4) による 10 日間の連続観測をすばるで行い、非常に離心率の大きな楕円軌道をもつ惑星であることを突き止めました (図1)。離心率の大きな楕円軌道では近星点付近で速度が短期間に急激に変化するため、この部分を観測でとらえるのは難しいのですが、10 日間の連続観測によってこれをカバーできたことが軌道決定の決め手となりました。


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図1: すばるとケックで観測した HD 17156 の視線速度変化 (横軸がユリウス日、縦軸が視線速度変化 (単位はメートル毎秒))。黒丸がケックでの観測点で、赤丸がすばるインテンシブプログラムでの観測点。実線は軌道要素をもとに計算した理論曲線。すばるの観測が、速度が減少から増加に急激に転じる位相をきれいにカバーしていることが分かる。


  今回見つかった惑星は、中心星の周りを周期約 21 日 (軌道長半径約 0.15 天文単位) で公転していますが、その軌道は非常にゆがんだ楕円形 (離心率 0.67) をしています (図2) (注5)。このため、近星点では中心星に約 0.05 天文単位の距離にまで近づきます (遠星点では約 0.25 天文単位)。これほど中心星に接近する惑星は、中心星からの潮汐力を受けて、近星点を保存したまま軌道が円軌道化すると考えられています (図3)。つまり、この惑星はこれから軌道長半径が 0.05 天文単位のホット・ジュピターに進化していくのではないかと考えられます。ホット・ジュピターの形成シナリオはいくつか提案されていますが、今回の惑星は、楕円軌道惑星がホット・ジュピターへ進化するという1つのシナリオの例と言えます。


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図2: HD 17156 で見つかった惑星の軌道を真上から見た様子 (赤実線)。プラスは中心星の位置。黒の点線は太陽系の水星軌道を表す。AU は天文単位 (Astronomical Unit) で、太陽-地球間の距離を1とする単位 (1AU=約1億 5000 万キロメートル)。

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図3: 系外惑星の軌道長半径 (横軸) と軌道離心率 (縦軸) の関係。黒丸がこれまでに見つかっている惑星、赤の星印が今回見つかった HD 17156 の惑星。黒の点線より左側の領域では近星点距離が 0.05 天文単位以下となり、中心星の潮汐力を強く受けて軌道が円軌道化するため、この領域で大きな離心率をもつ惑星はほとんど存在しない。


  すばるインテンシブプログラムでは、他にも惑星をもつ候補天体を多数観測しました。近々この中からまた新たな惑星を発表できると思います。どうぞご期待ください。

  論文は米国天文学会誌 "Astrophysical Journal" に発表予定です (注6)。



(注1) N2Kプロジェクト とは、日本、アメリカ、チリの天文学者による系外惑星探索プロジェクトで、すばる、ケック、マゼランなどの8メートル以上の最大口径地上望遠鏡を使って、これまでは観測ができなかった、新しい 2000 個の恒星 (Next 2000 (2K)) を観測して、数十個以上のホット・ジュピターを視線速度のドップラー偏移を使って発見しようとする計画です。本研究グループは、2005年にすばる初の系外惑星を発見しています (→超巨大コアをもつ灼熱惑星を発見)。
<研究グループ>

  • 佐藤文衛 (東工大グローバルエッジ研究院 特任助教) ※2007年3月まで国立天文台岡山天体物理観測所研究員
  • 井田茂 (東工大理工学研究科地球惑星科学専攻 教授)
  • 豊田英里 (神戸大理学研究科地球惑星科学専攻 博士課程3年)
  • 大宮正士 (東海大理学研究科物理学専攻 博士課程1年)
  • Debra Fischer (San Francisco State University)
  • Greg Laughlin (University of California, Santa Cruz)
  • Paul Butler (Carnegie Institute of Washington DC)
  • Geoff Marcy (University of California, Berkeley)

(注2) 惑星をもつ恒星は、惑星からの引力によって揺り動かされ、地球からみた速度が周期的に変化します。この速度変化は恒星からやってくる光にドップラー偏移をもたらし、光の波長のずれとなって検出されます。この波長のずれを検出することによって系外惑星を見つけるのが「ドップラー法」と呼ばれる手法です。現在知られている系外惑星のほとんどがこの方法で見つかっています。

(注3) 恒星 HD 17156 はスペクトル型 G0V の太陽型恒星で、質量は太陽の 1.2 倍、実視等級は 8.17 等。惑星 (HD 17156 b) は木星の 3.08 倍の質量。軌道は軌道長半径 0.15 天文単位、軌道離心率 0.67 の楕円軌道。

(注4) すばる望遠鏡が設けている観測形態の1つで、重要な観測課題に対して通常より多くの観測日数を割り当てます。本研究グループが行っている系外惑星探しは 2006年にインテンシブプログラムに採択され、前後期合わせて 20 日間の観測日数が割り当てられました。

(注5) このような楕円軌道をもつ惑星系の起源として有力な説の1つが、複数の惑星による重力散乱です。この説では、3つ以上の惑星が重力的に相互作用することによってそれぞれの軌道が大きく乱された結果、1つは系の外に飛び出し、残った2つのうちの1つは中心星の近くへ、もう1つは中心星からかなり遠くへ飛ばされて、ともに離心率の大きな楕円軌道をもって残ります。今回見つかった惑星が中心星の近くに飛ばされた1つだとすると、中心星から遠く離れた軌道にもう1つ惑星があることになります。これをドップラー観測で見つけるのは時間がかかるため困難ですが、将来直接撮像などでその存在の是非を確かめることができるでしょう。

(注6) 論文タイトル: "Five Intermediate-Period Planets from the N2K Sample"
論文著者: Debra A. Fischer, Steven S. Vogt, Geoffrey W. Marcy, R. Paul Butler, Bun'ei Sato, Gregory W. Henry, Sarah Robinson, Gregory Laughlin, Shigeru Ida, Eri Toyota, Masashi Omiya, Peter Driscoll, Genya Takeda, Jason T. Wright, John A. Johnson
論文掲載予定誌: Astrophysical Journal



 

 

 

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