観測成果

虚空に浮かぶ超新星残骸:すばる主焦点カメラが捉えたかに星雲の変容

2007年3月12日

古代より人々の目を引いてきたかに星雲
 かに星雲 (メシエ1) は、冬の暗い夜空を彩る代表的な天体です。地球からの距離は約7200光年、大きさは約10光年あります。今からおよそ1000年前の1054年に起こった超新星爆発の残骸です。日本では、藤原定家の書いた日記「明月記」にもその現象が残されています。それを現代語に訳すと、「毎夜、午前二時過ぎになると東の空に見なれぬ星が現れ、牡牛座ツェータ星のあたり、明るさは木星ほどである」 (「かに星雲の話」より引用)。また、アメリカ・アリゾナ州のホワイト・メサとナヴォホ-・キャニオンにあるネイティブアメリカン達によって描かれた壁画が、この超新星だったという説があります。

超新星爆発と中性子星
 超新星爆発は、重たい星が一生を終える際に重力の増加に耐え切れず爆発を起こし、星の持っていたエネルギーを宇宙空間に放り出す現象のことです。はじめは水素とヘリウムしか存在しなかった宇宙空間に、この爆発によって重い元素が誕生してきました。爆発の残骸は星雲として残り、それ以後も周囲のガスを取り込んで膨張を続けます。超新星爆発は1つの銀河の中で数十年に一回あると言われています。超新星爆発後の元の星は、中性子からなる高密度の「中性子星」として残ります。特に質量の大きい星であれば、ブラックホールが中心に残されると考えられています。

かに星雲の現在(いま)と未来(これから)
 
中心にある中性子星は高速で回転しながらX線やγ線などを周期0.33秒で放射しているため「かにパルサー」と呼ばれます。この画像は、すばる望遠鏡に主焦点カメラを取り付け、かに星雲の姿を撮影したものです。かに星雲はこれまで数多くの望遠鏡で捉えられ紹介されてきましたが、広視野・高解像度・大集光力を併せ持つすばるが捉えたかに星雲の姿は、空虚に浮かぶ超新星残骸として、これまでとはひと味違う迫力あるものになりました。皆さんも、暗い冬の夜空に古代の人がその爆発を目撃した名残に思いを馳せてみてください。かに星雲は今も昔も私達を魅了し続けているのです。

引用文献:「かに星雲の話」、石田五郎ほか著、中央公論社

※かに星雲は、1784年にフランスのアマチュア天文家であるシャルル・メシエ (Charles Messier) がまとめた天体のリスト Messier Catalogue では、M1 (メシエ 1) と呼ばれる。

 

天 体 名:
かに星雲 M1
使用望遠鏡:
すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、主焦点
使用観測装置:
Suprime-Cam (すばる主焦点カメラ)
フィルター:
Vバンド (550nm)、NB497狭帯域 (497.7nm, FWHM 7.7nm)、 Bバンド (450nm)
カラー合成:
青(B)、緑(V)、赤(NB497)
観測日時:
世界時2005年10月4, 5, 6日
露出時間:
2.5分 (V)、15分 (NB497)、2.5分 (B)
視野:
約11.3 x 9.3分角
画像の向き:
北が上、東が左
位 置:
赤経(J2000.0)=5時34分32.0秒、赤緯(J2000.0)=+22度00分53秒 (おうし座)

 


【補足画像】かに星雲の北部にある’突起状’の構造が、約17年間に星雲の膨張にしたがって移動していく様子。左図は、世界時1988年11月10日にアメリカ・キットピーク天文台で撮影されたもの (Fesen & Staker, 1993, MNRAS 263, 69-74)。右図は、世界時2005年10月4日にすばる望遠鏡で撮影したもの。両図の位置はそろえてあるが、大気のゆらぎによる影響は補正していないため、星像の大きさは異なる。これまでの研究からは、'突起状' の部分も、かに星雲全体とほぼ同じ速度で膨張していると言われている。

拡大画像: 年号あり年号なし

両図を切り替えるアニメーション: 年号あり年号なし

 

 

 

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