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すばる望遠鏡での夏の作業 (1)

2001年9月28日

 今回は、8月からマウナケア山頂のすばる望遠鏡を中心に行われている望遠鏡の改良や保守作業についてみていきましょう。


8 月の最初の作業は、すばる望遠鏡本体から主鏡を外すことでした。直径 8.3 メートルの主鏡 (実際に観測で使うのは直径 8.2 メートルの部分) は、直径 9.4 メートルの主鏡セルに乗ったままです。

 


 円柱形をした すばる望遠鏡のドームは、望遠鏡と共に回転する上側部分と地面に固定された下側部分からなります。上側には主鏡の取り外しを行った観測階があり、下側 (ドームの白い部分) が今回の作業の舞台となる場所です。

 


 主鏡セルに乗った主鏡は、大型のクレーンによりゆっくりとドームの下側に下ろされました。主鏡と主鏡セルを合わせた重さは約 63 トンもあります。

 

 

 


 黄色い主鏡ハンドリング装置により、主鏡を主鏡セルからはずします。主鏡の重さは、約 23 トンです。

 

 

 


 次に主鏡と主鏡セルをつないでいる 3 個の固定点を新しいタイプのものに交換しました。主鏡裏面の作業であるため、約 3 週間かけて慎重に行いました。

 

 

 


 主鏡のたわみを補正する 261 本のアクチュエータは、主鏡セルに収まっています。主鏡セルの上では、アクチュエータの調整が入念に行われました。一本のアクチュエータは、長さ約 1.5 メートル、重さ約 70 キログラムです。

 

 


 続いて主鏡の洗浄です。水と洗剤により、鏡の表面についたほこりや油分を落とします。すばる望遠鏡の大型鏡面洗浄装置は、コンピュータで制御された巨大な皿洗い機のようなものです。

 

 


 次に塩酸混合液を使って、鏡の表面の古いアルミニウムを溶かしました。塩酸は非常に危険な薬品であるため、スタッフはガスマスクや手袋を身につけて作業を行います。

 

 


 主鏡は、温度が変化しても変形しにくい超低熱膨張ガラス (ULE) からできています。アルミニウム膜がなくなった透明なガラスを通して、アクチュエータを支える穴が見えています。ガラス表面の検査の後、アルミニウムをメッキする (蒸着作業) のため、主鏡を大型真空蒸着装置に入れます。


アルミニウム蒸着作業にもちいるフィラメントの詳細

 


 蒸着作業の5ヶ月も前から、山麓施設では蒸着で使うフィラメントの作成とその確認作業が行われました。フィラメントは、くるくると巻いた長さ約 19 センチメートルのタングステンの表面にアルミニウムを溶かしてつけたものです。一回の蒸着で使うフィラメントは、約 300 本です。

 

 


 フィラメントを蒸着装置の上部に取り付け、続いてポンプを使って内部から空気を抜き真空にします。フィラメントに電圧をかけると温度が上がり、フィラメント表面からアルミニウムが蒸発します。アルミニウムはまっすぐに飛び出して、ガラスの表面に薄い膜を作るのです。このとき装置内に空気があると、アルミニウムが飛ぶ邪魔になり、主鏡の表面に均一な膜を作ることができなくなります。

 


 一日後の9 月 12 日、仕上がり具合の検査を行い、きれいな反射面ができたことを確認しました。アルミニウムの膜の厚さは、わずか 0.00017 mm です。検査の後、主鏡を再び主鏡セルに乗せ、クレーンを使って望遠鏡本体が待ち受けている観測階に吊り上げました。


 主鏡を乗せた主鏡セルを望遠鏡に取り付けました。これから共同利用観測が再開する 10 月中旬までの間、すばる望遠鏡では制御系システムの調整や試験観測を行っています。

 

 

 


 

 

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