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OHSがファーストライト!

2000年5月12日

  今回は、OH夜光除去分光器 OHS (OH-Airglow Suppression Spectrograph) について特集します。OHS は天体からくる近赤外線 (波長1μ m ~2μm) を観測する装置です。長さが5.2メートル、幅が2.8メートル、高さは2.8メートルで重さが2.5トンもあるため、大型装置を置くのに適した ナスミス焦点 (赤外用) に設置されます。

実験室にて開発チームとOHS

 地球の大気に含まれる水酸基 OH は、太陽の紫外線などを浴びると、明るい近赤外線の光 (輝線) を放ちます。この光は OH 夜光と呼ばれ、夜になっても輝いています。天体からくる微かな近赤外線の光の中に、明るい OH 夜光が混じっている状態では、天体を詳しく観測することは難しくなります。OHS の本体部は OH 夜光を除去するフィル ターの役割を果たし、明るい OH 夜光を取り除きます。

 OH 夜光は、近赤外線のすべての波長にわたるのではなく、ある特定の波長の光です。OH 夜光だけを取り除くことができれば、天体からの微かな近赤外線を観測するのに有利になります。これが OHS の機能です。一般的に、水酸基 OH は天体を構成する物質として、宇宙にそれほど多くは存在していないため、OH 夜光を取り除くことによる影響はほとんどありません。

 OHS により OH 夜光が除かれた光は、CISCO と呼ばれるカメラ部分に導かれ、分光観測が行われます。 CISCO は単体で望遠鏡のカセグレン焦点に取りつけ、近赤外線の広視野の撮像と分光観測を行う装置として活躍してきました。CISCO による成果としては、 オリオン星雲や (1999年1月)、遠方の活動銀河と銀河団(1999年6月)、すばるディープフィールド(1999年1月) などがあります。

カセグレン焦点に取りつけた3連自動装置交換システムCAIX-3 内の CISCO (中央)

 日本における調整の後、分解して輸送された OHS はマウナケア山頂のすばる望遠鏡のドームに運び込まれました。 その後すばる望遠鏡のナスミス焦点に組み立てられ、最終調整を行いました。

ナスミス焦点に組み立てられた OHS

 2月22日の夜、OHS はファーストライトを迎えました。下の画像は、OHS を通して、近赤外線で見た夜空です。画像の中央左上に見える明るい点はクエーサー PKS 0859-14 です。OH 夜光により長方形の形に明るく輝いているのに対し、OHS によって OH 夜光が除去されたところは帯状に暗くなっています。OHS による実際の観測は、この後、天体を OH 夜光が除かれている帯状の暗い部分に入れます。次に両側の明るい部分を隠し、スリットを帯状の部分に当てます。そしてグリズムと呼ばれる分光素子を用いて天体のスペクトルを取得する、という順に進められます。 このように、OHS は近赤外線の明るい OH 夜光を取り除くことができるため、特に、暗い遠方の銀河などを観測するのに適した装置なのです。

OHS により OH 夜光が除去された画像

 

 

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