【観測条件】 天 体 名: 星形成領域 S106 IRS4 使用望遠鏡:すばる望遠鏡(有効口径8.2m)、カセグレン焦点 使用観測装置:CISCO(近赤外カメラ) フィルター:Jバンド (1.25μm)、Hバンド (1.65μm)、K'バンド (2.15μm) カラー合成:青(J)、緑(H)、赤(K') 観測日時:世界時1999年5月25日、6月5日、6月6日 露出時間:6分 (Jバンド)、4分 (H、K'バンド) 視野:約5分角 画像の向き:北が上、東が左 位置:赤経(J2000.0)=20時27分、赤緯(J2000.0)=+37度 (はくちょう座) 【説 明】  すばる望遠鏡は、星が活発に形成されている領域 S106 について、これまでになく 鮮明で深部までとらえた赤外線画像の撮影に成功しました。さらに恒星に比べて質量 の軽い天体が、S106 の内部に多数存在していることを発見しました。  S106 は、地球からおよそ 2000 光年離れた星形成領域です。明るい中心付近には、 赤外線源 IRS4 と呼ばれる大質量星があります。その星の年齢は約 10 万年、質量は 太陽の 20 倍程度です。上下の方向に広がる砂時計状の構造は、この星から双極状に 噴出した物質の流れ(アウトフロー)が作り出した星雲と考えられています。また中 心部分のくびれは、ガスや塵からなる巨大な円盤が IRS4 を取り囲むように存在して いるためと推測されています。  一方、星雲の内部で青く輝いているのは、IRS4 の放射する紫外線により周りの水 素ガスが電離して光っているところ (HII 領域) です。輝線星雲と呼ばれています。 周辺の赤く見えている部分は、アウトフローにより押しやられた塵が IRS4 の放つ光 を反射して輝く反射星雲と呼ばれるところです。これまでよりも、はるかに鮮明なこ の赤外線画像では、輝線星雲の内部にあるさざなみのような姿を詳細に写しだしま した。さらに輝線星雲と反射星雲の色や構造の違いも、みごとにあらわしています。 なお上側の星雲は、塵により可視光が吸収されてしまうため、これまでのハッブル 宇宙望遠鏡による可視光の画像では、ほとんど見られないものです。  S106 の深部までとらえているこの画像からは、 IRS4 と周りの星雲内に、生まれ たばかりの若い星と考えられる暗い天体を数百個発見しました。これらの天体の質 量は太陽の 0.08 倍未満と軽いため、内部の水素ガスを安定に燃焼することができ ず、将来にわたって恒星のように輝くことはできないと考えられています。このよ うな星は、褐色矮星 (かっしょくわいせい) と呼ばれています。  発見した暗い天体の中には、木星の質量の数倍程度と思われる軽い天体も、約 100 個含まれています。このような天体は、いままでにも国立天文台と東京大学 の共同グループなどにより、おうし座やカメレオン座の領域で、また海外のグルー プによりオリオン星雲でも観測されています。一般的に、太陽のような恒星のま わりを回る天体を惑星と呼んでいます。発見されたこれらの天体には周回する恒 星がないため、惑星という言葉は適当ではありません。むしろ、恒星に比べて小 さいことから、星雲の中を漂う「浮遊微小天体」などと呼べるかもしれません。  今回のすばる望遠鏡の観測から、宇宙には質量の軽い天体が普通の恒星と同様 に多数生まれていること、さらにその天体の数は領域により違いがあることが明 らかになりました。しかし、このような天体の誕生のしかたは、依然として謎の ままです。