観測成果

遠方宇宙

すばる望遠鏡の限界に挑んだ最遠方銀河探査 〜 宇宙初期に突然現れた銀河を発見 〜

2014年11月18日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

東京大学宇宙線研究所の今野彰さんと大内正己さんをはじめとする研究チームは、すばる望遠鏡の広視野カメラ Suprime-Cam を用いて、すばる望遠鏡にとって最も遠い宇宙をこれまでにない感度で探査し、ビッグバンからわずか7億年後 (注1) の宇宙にある銀河を7個見つけました (図1)。これまでの研究結果から推定して、その頃の宇宙にある銀河は数十個見つかるだろうと予想されていました。しかし実際に見つかった数は予想よりもとても少なく、これは銀河の数が急に増えたことを表しています。今回の観測で、ビッグバン間もない頃の宇宙でライマンα輝線 (注2) を出す銀河が突然姿を現した様子が、初めて描き出されました。

すばる望遠鏡の限界に挑んだ最遠方銀河探査 〜 宇宙初期に突然現れた銀河を発見 〜 図

図1:今回の観測で見つかった 131 億光年先のライマンα輝線銀河 (LAE 銀河) のカラー画像。すばる望遠鏡による3色の観測データを合成することで、画像に色をつけています。2本の白い線の間にある赤い天体が LAE 銀河です。宇宙膨張の影響を受けているため、131 億光年先の LAE 銀河はとても赤い色をしています。銀河の位置を示す白い線を省いた図はこちら。(クレジット:東京大学/国立天文台)

138 億年前にビッグバンで生まれた宇宙は、プラズマ状態の陽子と電子で満たされました。それ以降宇宙の温度は下がり続け、ビッグバンから約 40 万年後に陽子と電子が結びついて中性水素へと変わりました。これを宇宙の晴れ上がりと呼びます。これによってできた中性水素は、まるで宇宙にかかる「霧」のようになりました。その後星や銀河が生まれ始めると、それらから放たれる紫外線によって中性水素が再び陽子と電子に分かれ、中性水素の「霧」が晴れていったと考えられています。このように星や銀河ができることで「霧」が晴れる現象のことを宇宙再電離と呼びます。宇宙再電離はビッグバンから約 10 億年後 (今から約 128 億年前) に終わったことは分かっていますが、それがいつ始まりどのように進んだかは大きな謎の一つです。

宇宙再電離を調べるために、研究チームは約 131 億光年先の宇宙にあるライマンα輝線銀河 (LAE 銀河) を探しました。LAE 銀河とは、水素原子のライマンα輝線という光で明るく見える銀河のことです。また、今までの研究でもこれより遠い銀河がハッブル望遠鏡によって見つかっていますが、すばる望遠鏡にとってはこの 131 億光年という距離は最も遠いもの (注3) で、ビッグバンからわずか7億年後の宇宙を見ていることになります。東京大学宇宙線研究所の大学院生である今野彰さんは次のように話します。「最も遠い距離にある銀河を探すのは、その暗さのため、とても難しいことです。そこで私たちの研究チームは、暗い LAE 銀河を効率よく見つけられる特別なフィルターを作りました。このフィルターをすばる望遠鏡の主焦点カメラ Suprime-Cam に取り付け、すばる望遠鏡にとって最長に近い 106 時間の観測を行うことで、これまでになく高い感度にまで達することができました。この観測から、最も遠い LAE 銀河をたくさん見つけようと試みました。」

今野さんは続けます。「これまでの研究結果から推定して、今回の観測で 131 億光年先の LAE 銀河は数十個くらい見つかるだろうと考えられていました。しかし実際に見つかったのはたったの7個で、私たちの予想は外れました。『100 時間以上の観測が行われたのに、これだけしか見つからなかったのか…』と最初がっかりしました。けれどもこれは、ビッグバンから7億年後くらいに LAE 銀河が『突然』姿を現したことを表しているのではないかと考え、とてもワクワクするような発見であることに気づいたのです。」

図2は銀河からのライマンα輝線の明るさがどう変わっていくかを、今回の観測結果に基づいて表したものです。ビッグバンから約7~8億年後 (今から 130~131 億年前) に LAE 銀河が突然明るくなっている様子が分かります。「LAE 銀河が急に現れた可能性として、まず始めに考えられるのが宇宙再電離です。というのも宇宙再電離のまっただ中にある LAE 銀河は、中性水素の『霧』で隠されて、実際よりも暗く見えます。今回の観測で私たちは、ビッグバンから約7億年後に宇宙の『霧』が突然晴れることで LAE 銀河が急に現れた可能性を初めて示したのです。」

すばる望遠鏡の限界に挑んだ最遠方銀河探査 〜 宇宙初期に突然現れた銀河を発見 〜 図2

図2:銀河からのライマンα輝線の明るさがどう変わっていくかを描いた図。宇宙再電離が終わった頃 (宇宙年齢が約 10 億年の時) の LAE 銀河の明るさを 100% として、それと比べて他の時期でどのくらい暗くなっているかを表しています。宇宙年齢が8億年と 10 億年の頃の黄色の丸がこれまでの研究で求められた値で、これらを基に予想されたライマンα輝線の明るさの変化が黄色の破線で示されています。しかし今回の研究で求められた結果が赤色の丸で、宇宙年齢が7億年の頃に LAE 銀河が突然明るくなっているのが分かります。これは、背景にある想像図で示しているように、中性水素の「霧」が突然晴れたことで LAE 銀河が急に姿を現した可能性を表しています。グラフ中の文字等を省いた図はこちら。(クレジット:東京大学/NASA/ESA)

こう話すのはチームメンバーで東京大学宇宙線研究所准教授の 大内正己さんです。「しかし LAE 銀河が急に現れた理由として、他の可能性も考えられます。LAE 銀河の周りにかたまって存在していた中性水素が消えた可能性と、そもそも LAE 銀河自体が明るくなった可能性です。いずれにしても、今回の発見は宇宙再電離とその頃の LAE 銀河の性質を理解する上で大きな手がかりとなりました。」

これを受けて、チームメンバーである国立天文台 TMT 推進室教授の家正則さんは次のように言います。「3つの可能性のうちどれが正しいかを調べるために、私たちは将来の研究で、Suprime-Cam より視野が7倍ほど広い HSC (Hyper Suprime-Cam, 超広視野主焦点カメラ) やハワイ・マウナケア山頂で建設が始まった TMT (Thirty Meter Telescope, 30 メートル望遠鏡) を使った観測を行います。これにより私たちは、宇宙再電離がどう起きたのか、銀河がどのように生まれたのかという謎を解き明かすことになるでしょう。」

この研究成果は、2014年11月20日に発行される米国の天文学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されます。今回の研究は、アメリカ合衆国のカーネギー研究所と文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム、日本学術振興会の科研費・基盤研究A (23244025) によるサポートを受けて行われました。

(注1) これまでの観測成果発表では、宇宙年齢や銀河までの距離を計算する時、宇宙マイクロ波背景放射観測衛星 WMAP による観測結果を基にした宇宙モデル (ハッブル定数 H0=71km/s/Mpc、Ω=0.27、Λ=0.73) を使っていました。一方、今回の観測成果発表では、宇宙マイクロ波背景放射観測衛星プランクによる最新の結果 (ハッブル定数 H0=67.1km/s/Mpc、Ω=0.317、Λ=0.683) に基づいて計算しているため、銀河までの距離などがこれまでの観測成果発表の値とは異なります。

(注2) ライマンα輝線とは、水素原子から発せられる、ある波長を持った光のことを指します。ライマンα輝線の波長は 121.6 ナノメートル (ナノメートルは1メートルの 10 億分の1)で、これは紫外線に対応します。このライマンα輝線で明るく見える銀河のことを「ライマンα輝線銀河 (LAE 銀河)」と呼びます。

(注3) 今回の研究においては、約 131 億光年先の LAE 銀河を調べていますが、これまでのすばる望遠鏡を用いた研究では、今回の研究で調べられた宇宙より数億光年ほど近いところ (約 129 億光年先) にある LAE 銀河が数百個以上見つかっています。

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