観測成果

すばる望遠鏡が写し出した宇宙の遠近感
〜 銀河群には5人の子、1人は手前であとは奥 〜

2011年8月18日

  すばる主焦点カメラ Suprime-Cam には、銀河などの中にある水素イオンの発する特殊な光 (Hα輝線) を捕らえるために、非常に狭い波長範囲の光だけを通すフィルターが準備されています。このフィルターを用いることにより、銀河の中で星生成などが活発に行われている場所がどのように分布しているかを知ることが出来ます。 (すばる望遠鏡ウェブサイト 2009年9月8日 プレスリリース)

  図1の左右2つの画像はステファンの5つ子と呼ばれる銀河群を、このHαフィルターと青 (B)・赤 (R) 色の光を透過するフィルターを用いて観測し、擬似三色合成して得られたものです。左の画像は後退速度0 (私たちから見て遠ざかる速度が0) に対応するHαフィルター、右の画像は後退速度が毎秒約 6,700 km に対応するHαフィルターを用いて得られました。

  この銀河群はステファンの「5つ子」と呼ばれてはいるのですが、実際には左下に見える一つの銀河 (NGC 7320) だけが我々のすぐ近くにあり後退速度がほぼ0の銀河 (距離約5千万光年) で、残りの4つは後退速度が毎秒 6,000 km 以上の、遠くにある銀河 (距離約3億光年) であることが知られています (図2)。このため、図1左の画像では NGC 7320 の腕の中にある星生成領域から放たれるHα輝線がとらえられ、他の銀河にはこれが見られません。

  一方、図1右の画像では上側の3つの銀河の間にHα輝線を放つ領域が見られ、NGC 7320 ではほとんど構造が見えません。これは、遠くにある4つの銀河のうちの2つ (NGC 7318A と NGC 7318B) の衝突によって互いの銀河からガスが剥ぎとられ、さらにそこにもう一つの銀河 (NGC 7319) がぶつかってきて衝撃波を生じるとともに激しい星生成を誘起したものだと考えられています。この星生成で生まれた若い星によって、剥ぎとられた水素ガスが光っているのです (図2)。

  このように異なった距離にあるのに偶然同じ方向にあって重なって見えているような天体も、銀河の後退速度に対応したHαフィルターを使うとそれぞれの星生成活動を詳細に観測することができるのです。



figure1

図1: 後退速度0 (私たちから見て遠ざかる速度が0) に対応するHαフィルターを用いて得られたステファンの5つ子の擬似三色合成画像 (左) と後退速度が毎秒約 6,700 km に対応するHαフィルターを用いて得られた画像 (右)。

 

figure2

図2: ステファンの5つ子を構成する銀河たち。NGC 7320 は後退速度がほぼ0で、手前にある銀河。他の4つの銀河は3億光年離れて実際に密集している銀河です。NGC 7318A/B のまわりのHα輝線を放つ領域は、この二つの銀河と NGC 7319 の相互作用によって生まれた星生成領域と考えられています。



【観測条件】

天体名: HCG 92 (Stephan's Quintet)
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径 8.2 m)、主焦点
使用観測装置名: すばる主焦点カメラ Suprime-Cam
フィルター: B (0.45μm)、R (0.65μm)、NA656 (0.656μm)、NA671 (0.671μm)
カラー合成: 青 (B)、緑 (R)、赤 (NA656; 図1左)
青 (B)、緑 (R)、赤 (NA671; 図1右)
観測日時: 2009-05-25 (R)、2009-05-25 (NA671)
2009-05-26 (B)、2009-08-22 (NA656)
露出時間: 180秒×4 (R)、900秒×5 (NA671)
300秒×4 (B)、240秒×4 (NA656)
画像の向き: 上が北、左が東 (視野の広さは 6 分 44 秒角四方)
位置: 赤経(J2000.0) = 22時36分、赤緯(J2000.0) = +33度58分 (ペガスス座)




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