観測成果

宇宙幼年期の壮年銀河団 (宇宙初期に既に大人の銀河団が出現)

2011年3月9日

  フランスの天文学者をリーダーとする国際チームが、すばる望遠鏡を含む地上・宇宙の最先端の望遠鏡群を使い、これまで発見された中で最も遠くにある壮年銀河団を発見しました。現在の年齢の4分の1にも満たない若い宇宙で新しく見つかったこの銀河団は、現在の宇宙に見られるような、既に成長しきった銀河団にきわめてよく似た特徴を示していたのです。


  「私たちがこの壮年銀河団までの距離を測定したところ、これまでの最遠記録を破るものであることが明らかになりました」とリーダーのラファエル・ゴバさん (フランス原子力庁) は言います。「初期の宇宙では、銀河の多くは活発に星形成をしていますが、むしろこの銀河団では多くの銀河が既に壮年期にあるように見えるのです。これは驚くべきことでした」と続けます。

  銀河団は宇宙に存在する最も巨大な構造です。銀河団は重力で引き合うことにより集団を保っていますが、その形成には時間がかかるため、初期宇宙では巨大な銀河団は稀な存在であると考えられています。これまでに発見されている遠方の銀河の集団はいわゆる「原始銀河団」と呼ばれるもので、形成途中にある若い銀河団であり、壮年銀河団ではありませんでした。

  今回発見された CL J1449+0856 と呼ばれる銀河団は、宇宙のはじまりから 30 億年後の宇宙で発見されました。これは現在の宇宙年齢 (137億年) の4分の1にも満たない時代です。CL J1449+0856 は非常に暗くて赤い銀河の集団としてNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による観測データから偶然発見されました。その距離は、ヨーロッパ南天天文台が有する VLT に搭載された VIMOS と FORS2 という装置を用いて、その赤い銀河の集団の方角にある銀河を分光観測することによって測定されました。

  このような稀な天体までの距離が明らかになると、研究チームは直ちに、すばる望遠鏡を含む地上望遠鏡と宇宙望遠鏡を用いて銀河団を構成する銀河の性質を、詳細に調べはじめました。そして、銀河団を構成する銀河のほとんどは活発な星形成を行っておらず、形成されてから既に 10 億年程度が経過していることを突き止めました。つまり、この銀河団は既に壮年期にあり、私たちの銀河系から最も近くにある巨大な銀河団であるおとめ座銀河団と同様の質量をもつ銀河団であることがわかったのです。ここでは、すばる望遠鏡に搭載された Suprime-Cam と MOIRCS によって撮影された画像が、銀河団を構成する銀河の性質を調べるにあたり非常に大きな役割を果たしました。特に MOIRCS は、非常に赤くて暗い銀河の性質を明らかにするために決定的に重要でした。

  さらに、研究チームが NASA (アメリカ航空宇宙局) とESA (欧州宇宙機関) が共同で運用するハッブル宇宙望遠鏡を用いて銀河団に所属する壮年銀河の形を調べたところ、それらのほとんどが非常にコンパクトにまとまった形状をしていることがわかりました。つまり、現在の宇宙で見られる壮年銀河である楕円銀河と同じような形状をしていたのです。

  この銀河団が既に成長したものである更なる証拠が、ESA が有する XMM-Newton 宇宙天文台によるⅩ線での観測によって提供されています。この銀河団から、銀河団を構成する銀河の間に薄く広がる非常に高温のガスによるものであると考えられる、広がったⅩ線放射が観測されたのです。「このことは、成長途中にある若い原始銀河団では十分に達成できないような、重力によってしっかりとまとまった構造をなしている状態にあることを示しており、この銀河団が壮年である別の証拠になります」と共同研究者の小野寺さんは語ります。

  「私たちの新しい結果は、宇宙年齢が現在の4分の1という非常に早い時期に壮年銀河団が存在していたことを明らかにしました。現在の理論によれば、このような銀河団は非常に稀な存在であると考えられていますが、私たちは偶然にもそのような稀な天体の一つを発見することができました。しかしながら、将来の観測によって同様の銀河団が多数発見されるのであれば、私たちがこれまで抱いてきた初期宇宙のモデルに変更が迫られることがあるかもしれません」とゴバさんは結論づけました。


<補足情報>

ヨーロッパ南天天文台による発表にはさらに多くの画像や動画があります。
http://www.eso.org/public/news/eso1108/
ESA のウェブサイトでは、この発見にいたる観測手法や XMM-Newton 宇宙天文台による成果についての詳しい解説があります。
http://sci.esa.int/science-e/www/object/index.cfm?fobjectid=48483
本研究は "A mature cluster with X-ray emission at z=2.07" として Astronomy & Astrophysics 誌に発表されました。(Gobat et al., 2011, Astronomy & Astrophysics, Volume 526, A133)


<研究チーム>

Raphael Gobat, Emanuele Daddi (フランス・原子力庁), 小野寺仁人 (スイス・チューリッヒ工科大学), Alexis Finoguenov, Marcella Brusa (独マックスプランク地球外物理学研究所), Alvio Renzini (伊・パドヴァ天文台), 有本信雄 (国立天文台), Rychard Bouwens (米・リック天文台), Ranga-Ram Chary (米・カリフォルニア工科大学), Andrea Cimatti (伊・ボローニャ大学), Mark Dickinson (米・国立光学天文台), Xu Kong (中国・科学技術大学), Marco Mignoli (伊・ボローニャ天文台)



  figure  

図1:ヨーロッパ南天天文台の VLT とすばる望遠鏡によって撮影されたデータを元にした合成画像です。ここに写っている天体のほとんどは遠方宇宙にある暗い銀河であり、今回発見された壮年銀河団は、中央やや右に見られる暗く赤い銀河の集団です。
この画像は、z (中心波長 910nm; Subaru/Suprime-Cam)、Y (中心波長1020nm; Subaru/MOIRCS)、J (中心波長1260nm; Subaru/MOIRCS, VLT/ISAAC)、 H (中心波長1650nm; Subaru/MOIRCS)、および K (2200nm; Subaru/MOIRCS, VLT/ISAAC) のそれぞれのフィルターを用いて取得されました。
著作権: ESO/NAOJ/Subaru/R. Gobat

 

  figure  

図2:銀河団 CL J1449+0856 の合成画像にX線データを重ねた画像です。Ⅹ線のデータは XMM-Newton 宇宙天文台によって取得されました。
著作権: ESA/ESO/NAOJ/Subaru/R. Gobat et al.

 




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