観測成果

すばる望遠鏡 128 億光年彼方に宇宙最遠方の超巨大ブラックホールホスト銀河を発見

2009年9月2日

この記事は、ハワイ大学のプレスリリースを転載したものです。
(転載元: http://www.ifa.hawaii.edu/~tomo/QSOhost/QSOhost_j.html


  ハワイ大学の後藤友嗣 (注1) 研究員らは宇宙最遠方超巨大ブラックホールの周りに、これを取り巻く巨大銀河を発見しました。巨大銀河は地球から 128 億光年の彼方にありながら、天の川銀河と同じ程度の大きさで、太陽の十億倍もの質量をもつ超巨大ブラックホール (注2) を中心に持っています。

  後藤友嗣研究員 (ハワイ大学) は、「宇宙の年齢がわずか現在の 1/16 だった時代に巨大銀河が存在して太陽の 10 億倍もの質量の超巨大ブラックホールを持っていたことは驚くべき事実だ。巨大銀河とブラックホール (注3) は宇宙初期に急激に進化したに違いない。」と話しています。

  超巨大ブラックホールを詳しく調査することは、天文学の長年の課題であったブラックホール-銀河共進化を理解する上で重要です。しかし明るいブラックホールからの光が暗いホスト銀河を隠してしまうため、これまではブラックホールを中心に持った銀河を研究することは大変困難でした。

  星が死ぬときにできる小さいブラックホールとは違い、超巨大ブラックホールの起源は未だ謎に包まれています。現在有力な理論によれば、いくつかの中間質量ブラックホールの合体により超巨大ブラックホールが生まれるとされています。今回発見されたホスト銀河はそのような中間質量ブラックホールの存在する場所でもあると考えられます。形成後超巨大ブラックホールは周囲の物質を巨大な重力によって飲み込みながら成長を続け、この過程で重力エネルギーが解放されることによって、超巨大ブラックホールは非常に明るく輝きます。

  超巨大ブラックホール観測のため、宮崎聡准教授 (国立天文台) が率いるグループによってすばる望遠鏡主焦点カメラに新しく感度の良い CCD が備え付けられました。宮崎准教授は「CCD の感度向上によって早速画期的な成果がもたらされた。」と話しています。

  カラーの詳細な解析により、9100 Å (オングストローム) (注4) 付近の光は、40% がホスト銀河からであり、60% がホストを取り巻く電離ガス雲からであることもわかりました。ガス雲は超巨大ブラックホールによって電離されたと考えられます。データ解析に力を発揮した内海洋輔氏(総研大)は、「我々は超巨大ブラックホールとホスト銀河が一緒に形成している現場をまさに目撃した。この研究を皮切りに宇宙初期における超巨大ブラックホールとホスト銀河の進化がより詳細に解き明かされるだろう。」と語っています。

  本研究成果はイギリスの科学誌、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society に掲載されることが決定しています。論文は以下の場所にあります。
http://www.ifa.hawaii.edu/~tomo/QSOhost/QSOhost_v7.pdf



  figure1  

図1: 宇宙最遠方超巨大ブラックホール「天体名: CFHQSJ2329-0301」の3色合成図。中央の白い部分がブラックホールで、それを取り巻く赤い部分がホスト銀河を示している。


  figure1  

図2: 注意深く中央のブラックホールからの光をモデルを使い (中央) 差し引いた結果、右のパネルに残ったのがホスト銀河からの光。ホスト銀河は天空上直径4秒 (注5) もの大きさをもっており、128 億光年の彼方では 22kpc (72,000 光年) もの大きさを持っていることになる。



研究チーム

  • 後藤友嗣 (日本学術振興会 SPD 特別研究員, ハワイ大学天文学研究所所属)
  • 内海洋輔 (総合学術研究大学院大学/国立天文台)
  • 古澤久徳 (国立天文台)
  • 宮崎聡 (国立天文台)
  • 小宮山裕 (国立天文台)

(注1) 後藤友嗣: 日本学術振興会の SPD 特別研究員。2003年東京大学理学博士。ハワイ大学マノア校にて、David Sanders 教授と共に超巨大ブラックホール及び、超光度赤外線銀河に関して研究を行っている。

(注2): 超巨大ブラックホールによる重力に引き付けられて、より多くの物質が落ち込むほど、超巨大ブラックホールはより活動的になり、より明るく輝きます。しかし、明るい放射は、外向きの輻射圧として働くため、さらなる物質の落ち込みを妨げます。ある質量の超巨大ブラックホールの周囲に、単純な球対称(薄い球殻)の物質分布を仮定した場合、輻射圧に逆らって、重力によって落ち込むことのできる物質の最大量を計算でき、その結果、超巨大ブラックホールの最大光度も予想できます。この最大光度をエディントン光度と呼び、この仮定をすれば、観測された明るさから、超巨大ブラックホールの質量を推定できます。

(注3): ブラックホールは、光さえも放出しない暗黒の天体ですので、望遠鏡で直接見ることはできません。しかし、物質 (ガス)が、ブラックホールの重力によって引き寄せられると、重力エネルギー (位置エネルギーとも呼ばれる)を失い、非常に高速運動するようになります。そして、ガスどうしの激しい衝突、摩擦の結果、ガスは非常に高温になり、紫外線から可視光線にかけて、非常に強い放射が放たれます。

(注4): 1Å (オングストローム) は1ミリメートルの 1000 万分の1の長さです。

(注5): 1秒は1度の 3600 分の1の角度です。






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