観測成果

惑星形成領域から結晶化ケイ酸塩鉱物を発見

2003年10月1日

SDF False Color Image 天 体 名:Hen3-600A (スペクトル)
使用望遠鏡: すばる望遠鏡 (有効口径 8.2m)、カセグレン焦点
使用観測装置:COMICS
フィルター:狭帯域フィルター (8.8µm)
観測 日時:世界時 2001 年 12 月 28 日
露出 時間:598 秒 (N バンド分光)
位   置: 赤経 (J2000.0) = 11h 10m 27.9s、赤緯 (J2000.0)= -37° 31' 52" (ケンタウルス座)

 すばる望遠鏡に取り付けた中間赤外線の観測装置 COMICS の観測により、約 160 光年の距離にある誕生して間もない若い星の周りから、結晶質のケイ酸塩鉱物の検出に成功しました。太陽のような若い星の周囲にある原始惑星系円盤内に、結晶構造を持つケイ酸塩鉱物が存在していることはこれまでにも示唆されてきましたが、実際に発見されたのは、COMICS による今回の観測がはじめてのことです。これらの成果は、私たちの太陽系内の彗星に含まれる結晶質のケイ酸塩の起源や、惑星形成プロセスを解明する手がかりになるとされます。




 地球の岩石の主成分であるケイ酸塩 (ケイ素 Si と酸素 O の鉱物) には、対称な結晶構造を持つもの (結晶質) と持たないもの (非晶質) があります。結晶質のケイ酸塩は対称な結晶構造を持ち、一方で非結晶質なケイ酸塩はそのような構造を持たないことが知られています。宇宙空間で見られるケイ酸塩は非結晶質がほとんどですが、地球上で見られるのは、地殻活動の熱によってできた結晶質のケイ酸塩が普通です。

 実験室の測定などから、結晶質と非晶質のケイ酸塩は、それぞれが放出する中間赤外線を調べることにより区別できます。非晶質なケイ酸塩は波長 9.8 マイクロメートル (µm;1µm = 0.001mm) をピークとするなだらかなスペクトルを示し、結晶質なものは結晶構造に由来した、するどいスペクトルを示します。

 これまでの観測から、星や惑星の原材料となる星間物質や惑星形成が進んでいる若い星のまわりにある原始惑星系円盤では、ケイ酸塩は非晶質な状態で存在しているとされてきました。一方で、太陽系の原材料物質を保存していると考えられる彗星からは、これまでに結晶質のケイ酸塩が発見されています。彗星や惑星の形成過程でケイ酸塩の非晶質から結晶質への進化が起こったと考えられているのです。

 その後、太陽よりもかなり重たい若い星の周囲から、結晶質のケイ酸塩が発見されました。しかし太陽と同程度の質量の原始星や T タウリ型星 (原始星から進化した若い星のこと) からは、これまで検出されていませんでした。星の質量が小さいと、赤外線を出す原始惑星系円盤内のチリも少ないため、従来の望遠鏡や観測装置の能力では観測が困難であったといえます。

 すばる望遠鏡の冷却中間赤外線分光撮像装置 COMICS は、口径 8m クラスの望遠鏡に備わる大素子数の検出器を持つ中間赤外の観測装置としていち早く運用を開始した装置です。東京大学、国立天文台、宇宙科学研究所、北里大学を中心とする COMICS 開発グループは、太陽と同程度の質量の若い星におけるケイ酸塩の存在を調べるため、年齢が 500 万~ 1000 万年の T タウリ型星の観測を重点的に行いました。

 その結果、T タウリ型星 Hen3-600A の周りにある原始惑星系円盤から出る赤外線の中に、結晶質のケイ酸塩鉱物 (かんらん石、輝石、シリカ) によると思われる特徴的なスペクトルをはじめて検出しました。Hen3-600A がある領域は太陽から約 160 光年と近い距離にあり、誕生から約 1000 万年たった比較的進化の進んだ若い 20 数個の星が集まっているところです。そのため、星や惑星形成を詳しく調べる研究が盛んに行われています。

 今回の観測から、太陽の質量程度の若い星においても、ケイ酸塩の結晶化は起きていることが明らかになりました。またケイ酸塩の結晶化には 600 度もの温度が必要なため、原始惑星系円盤内でそのような加熱プロセスが起こっていることが示唆されました。本観測を中心となって進めた東京大学の大学院生・本田充彦さんは「さらに今後、結晶質のケイ酸塩の原始惑星系円盤内における空間分布が分かれば、原始惑星系円盤でおこっているケイ酸塩の結晶化をもたらすプロセスの詳細に迫ることができるでしょう」と話しています。

参考論文:Honda et al. 2003, ApJ, 585, L59-63

 

図1: COMICS の撮像モードにより波長 8.8 マイクロメートルで見た Hen3-600A。右の小さな点は伴星。
Spectra of newly discovered galaxies 図2: COMICS の分光モードにによる Hen3-600A のスペクトル。結晶質のケイ酸塩として、赤色の 9.2µm、12.5µm のピークは二酸化ケイ素 (SiO2)、青色の 10.9µm のピークは輝石 (MgSiO3)、緑色の 10.1µm、10.5µm、11.2µm のピークはかんらん石 (Mg2SiO4) がそれぞれ存在していること示す。

 

 

 

 

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