すばる望遠鏡について

観測装置

36 素子波面補償光学装置 AO(Adaptive Optics)

36 素子波面補償光学装置 AO(Adaptive Optics)

すばる望遠鏡はドーム内の大気のゆらぎを押さえることにより、0.2秒角という高い解像力を実現しました。しかし、これでもまだ解像力は大気のゆらぎによって決まってしまいます。大気のゆらぎを実時間で補正することにより、波面補償光学装置は主鏡の直径によって決まる解像力 (回折限界) を実現する装置であり、この装置を使用すれば 0.06 秒角という、ハッブル宇宙望遠鏡に匹敵する解像力が得られます。 36 素子の AO は、すばる望遠鏡のカセグレン焦点に装着されます。

▶︎関連トピックス
2000年12月 AOがファーストライトを迎えました

大気の揺らぎを克服する

地上にある望遠鏡は、大気が揺らいでいるために、大気圏外に打ち上げられた望遠鏡に比べて解像力が劣ってしまいます。この装置は大気の揺らぎを瞬時に補正して地上の望遠鏡のこれまでの限界を打破するものです。この装置自身は検出器を持っていないので、IRCS・CIAOといった赤外線観測装置と組み合わせて使います。

補償光学系の概念図

補償光学のしくみ

天体から来る光は、望遠鏡に到達する前に、地球の大気のゆらぎによって乱され、星像はぼやけてしまいます。これを元に戻すのが補償光学装置 (AO) です。AOを用いると星像がシャープになるので、天体の繊細な構造を見分けることができますし、星像のピーク値が高くなるので、暗い天体の検出にも効果的です。左図のように、観測した波面の曲率を「波面センサー (左図 A) 」を使って測定します。そして制御システム (同 B) を通して「可変鏡 (同C) 」に補正をかけます。可変鏡は36個のアクチュエーターで制御されます。このシステムを用いると、波長2.2ミクロンの赤外線で観測した場合、解像度の面では大気のゆらぎがほぼ完全に克服された画像を得ることができます。

AOとIRCSが捉えた褐色矮星連星の画像

AOとIRCSが捉えた褐色矮星連星の画像

上の図はAOと近赤外線分光撮像装置 (IRCS) を使って撮影された、地球から約 60 光年離れたうしかい座の6等星 HD 130948 の写真です。左上の図、主星のすぐ左に、かすかな点源がふたつ見えます。右上図の、AO を使わずに撮影された写真では、その存在を確認することすらできていません。AO を使った分光観測 (右下の図) によって、これらの 2 つの点源が、木星の数倍から数十倍の質量しか持たない、褐色矮星の連星系であることがわかりました。褐色矮星は、普通の星のように水素の核融合によって輝き続けることができないため、しばしば「星になりそこねた天体」と呼ばれます。連星系の角距離は 0.13 秒角で、月においた東京タワーを見るのに相当します。

▶︎ 観測成果
波面補償光学装置AOによる初の分光観測 (2001年1月16日)

コラム

AO

どんなに大きな望遠鏡を使っても、達成できる解像度は、地球の大気によって限られてしまいます。補償光学はその限界を打ち破り、大きな口径を最大限に生かすための装置です。

AOの一番難しいところは、毎日観測条件が変わるので、それに合わせて装置を調節することですね。星の明るさなどは変わりませんが、点に見えるべき星の光が大気に散乱されてどのくらいの大きさに見えるのかを表すシーイングが、すぐに変わってしまいます。自然のシーイングが0.5秒角程度なら、AOをかけることにより、近赤外線で、理論的限界の解像度を達成することができます。

AOを使うことで、今まで密接していて個別に観測できなかった天体を、分解して個別に観測できるようになりました。それと、光を一点に集中させることによって、今までは暗くて画像を撮ることしかできなかった天体を、分光まですることができるようになりました。すばるのAOは、CIAOまたはIRCSと併用して使われます。

(AO サポートアストロノマー大屋真さんとの2002年末のインタビューより)

補償光学の将来計画

現在のAOを用いた観測と並行して、改良計画も進行中です。一つ目は、可変形鏡のアクチュエーター数を増やし、シーイングが悪い時にも、ゆらぎをより補正できるようにすることです。二つ目が、レーザーガイド星の導入です。現在のAOでは、観測したい天体の近くに明るい星(ガイド星)が必要で、夜空のほんの少しの天体に対してしか、大気ゆらぎをうまく補正できません。レーザーを上空90kmにあるナトリウム層に照射して、夜空に人工的にガイド星を作れば、それを用いて、大部分の天体に対して、大気ゆらぎを補正できるようになります。