ver.1.4
大内正己
国立天文台/STScI
2004年8月6日作成
本マニュアルの目的は、以上に述べたSuprime-Camの
rawデータから最終画像を作るまでを説明することにありま
す。しかし、ユーザーの便宜を考えて以降のAppendixに、最
終画像を作った後の処理に関して大雑把なガイドラインを示しておきました。
また、この中で、便利な付属ソフトウェアの説明も行っています。手順の詳細は述
べられていませんが、解析の手助けになれば幸いです。
最終画像(整約済み画像)が出来たあとは、様々な解析ができます。例
えば、天体のカタログを作ったり、突発天体の光度変化を見たり、移動天体
を見つけたり、などなどいろいろあります。しかしながら、まずは天体のカ
タログ作りをする場合が多いです。以下では、いくつかのバンドで撮ったデー
タから天体のカタログを作るまでの流れを例にとって整約済み画像の使い方
を簡単に紹介します。
(注意)
Suprime-Camの観測データには観測時に観測システムから得られた大まか
な天球座標のWCS情報がfitsヘッダに書かれています。この座標系は、典型
的には十数秒角程度、真の天球座標からずれていることが知られており、
SDFREDによって処理された最終画像もこのずれ量を引き継ぎます。したがっ
て、真の天球座標と最終画像のピクセルとの正確な対応付けをするためには、
各ユーザが最終画像に対してアストロトリを行う必要があります。特に、カ
タログ作成時に天球座標をfitsヘッダのWCSキーワードから直接求めたり、
Suprime-Cam画像を用いて分光ターゲットの座標決めやMOSのスリットデザイ
ンを行う場合(Appendix A2)などは注意が必要です。
画像に写っている天体の明るさが何等級なのかを調べるために、標準星のデータを使います。標準星は、その明るさ(等級)が予め分かっている星のこと
です。(観測期間中に1個以上の標準星を撮像するのが普通です。)標準星のデータを元に、整約済み画像に写っている天体の1カウントが何magの明るさに
相当するかを求めます。この1カウントあたりの明るさのことを測光原点(photometric
zero-point)と呼びます。以下では、測光原点の求め方の概略を述べます。
(i) 標準星を測光する
撮像された標準星が、Suprime-CamのCCDに1秒当たり何カウントの天体として写っているかを調べます。まず、感度補正と distortion補正を行った標準星の画像(gfTo_RH*.fits)から標準星を探し出します。この際、標準星カタログにあるファインディング チャートを使います。次に、その標準星を円形の測光円(aperture)を用いて測光して、標準星が画像に合計何カウントの天体として写っているかを調 べます。標準星の画像の積分時間をt、この時の標準星のカウント数をXとすると、測光原点(1秒当たり)は、
m(zero-pt/sec) = m0 +2.5 log10(X/t)
で求められます。
練習データを用いた時の例)
感度+distortion補正済みの標準星の画像は、 gfTo_RH030330object044_*.fits です。(ここでは簡単のため、 gfTo_RH030330object044_si001s.fitsに注目します。)この画像は、2003年 3月30日に撮影したSA110フィールドの画像です。SA110フィールドは、 Landolt (1992, AJ, 104, 340)が作ったカタログに多数の標準星が掲載され ています。この論文で使うのは、標準星のファインディングチャートとそれ らの等級が書かれたリストです。
まず、gfTo_RH030330object044_si001s.fitsからサチュレーションを起
こしていない標準星を探します。次にLandoltが使った測光円の直径と同じ
大きさで、標準星を測光します。(精度はともかくとして、最も簡単な測光
方法は、IRAFのimexamを用い、天体上でaを押します。可能なら、IRAFの
apphotやSExtractorを用いる方が良いですが、0.1等級を超えるような大き
な誤差は出ません。)これで得たカウント数(上記X)に加え、画像
gfTo_RH030330object044_si001s.fitsのfitsヘッダーから積分時間(上記t)
を調べれば、上の式でm(zero-pt/sec)が求まります。
(注意1)このデータはRc bandです。普通Rc bandで得られる m(zero-pt/sec)は、27.7程度(si001sチップの場合)です。しかし、練習デー タにある標準星は、とても天候が悪い時に取得されたものなので、練習デー タの標準星からは25-26程度の値を得るはずです。)
(注意2)標準星の測光はdistortion補正まで行った画像を使います。こ
れは、distortionの補正前と補正後の画像では、点光源がCCD上に結ぶ像の
サイズが異なる、つまり同じ測光値になるべきピクセル数が異なるためです。
(ii)整約済み画像の測光原点に直す
仮に、標準星を撮影した時とターゲット(=整約済み画像に対応)を撮 影したときの空の状態(透過率など)が全く同じだった場合は、(i)で求め たm(zero-pt/sec)の値を元に整約済み画像の測光原点を簡単に求められます。
整約済み画像を作る際、(10)のmatchingの処理の所で、flux比の基 準画像を決めています。(*.mosのリストの最初に来ている画像;flux比が 1.0000になっている画像。)基準画像に全ての画像のfluxを合わせているた め、整約済み画像の測光原点を決める際は、この基準画像の測光原点を求め ることになります。基準画像の積分時間をT(sec) とすると、整約済み画像 の測光原点m_zptは、
m_zpt = m(zero-pt/sec)+2.5 log10(T)
になります。
練習データを用いた時の例)
基準画像は、bAspgfTo_RH030425object025_si001s.fits なので((1 0)を参照)、この画像の積分時間(T)をヘッダーから調べます。(ヘッダ のEXPTIMEキーワードを参照します。たとえば、
$ getkey EXPTIME bAspgfTo_RH030425object025_si001s.fits
でEXPTIMEの値を出力することが出来ます。) あとは上記の式に当ては
めるだけです。(積分時間やフィルターによりますが、通常のデータは
m_zptが30-35程度の値になります。)
以上は、標準星の画像が1ショットしかない場合です。2ショット以上
ある場合は、airmass補正などを行い測光原点の精度を上げることもできま
す。(詳しくは、Ouchi, M. 2001, Master thesis, Univ. Tokyoなどを参照)
SExtractorなどを用いて天体を検出し、その天体の位置や明るさ、大き さ、形などの一覧表を作ります。この一覧表のことをカタログと呼びます。) 明るさを求める際には、(A1-1)で求めた測光原点をパラメターとして入力す る必要があります。詳しくは、SExtractorのマニュアルなどをご覧ください。
また、Appendix 2の(A2-2)のプログラムなどを用いると、画像の限界等
級が分かります。それを元に、得られたカタログが何等級より明るいものま
で信頼すべきかが分かります。
多色のカタログを作る場合は、1色のものより多少手間がかかります。
予め2つ以上のバンドの整約済み画像を作り、それに対応する測光原点を求
めておきます。この状況で、次の2つの作業が必要になります。第一に、1
つの画像を基準にして、その画像と同じ位置に天体がくるように他のバンド
の画像の位置合わせをします。この時、各バンドに写っている星の位置を頼
りに位置をあわせます。Appendix 2 (A2-3)のプログラムなどを用いると便
利です。第二に、位置合わせが終わったあと、全てのバンドのPSFの大きさ
が同じになるようにPSF合わせを行います。fwhmpsf.cshで画像のPSFを測り
つつ、IRAFのgaussなどでPSFを合わせていくと良いでしょう。
SDFREDにいくつか便利なオプションプログラムが入っています。現時点
では、試験中のため、動作に関しては保障できませんが、ユーザーの便宜を
考えて公開しています。(バグ等が見つかった場合、すぐには対処できませ
んのでご了承下さい。)
SDFREDでは、マスク処理(上記(10))を除いては、人の手を入れることな
くrawデータから整約済み画像を作ることができます。マスク処理をせずに
整約済み画像を全自動で作るプログラムがspcamred.cshです。
spcamred.cshはクイックルック的にマスク処理なしの画像でも良い場合 に適しています。さらに、spcamred.cshは途中ファイル(画像)を全て残す ため、とりあえずspcamred.cshで処理した後、マスク処理をする直前の途中 ファイルに戻って、マスク処理を行うことで完璧な整約済み画像を作る手間 が大幅に省けます。
(また、画像が10ショット以上と多い場合は、マスク処理を行わなくても整
約済み画像に大きな影響を与えない場合が多いです。)
コマンド:
$ spcamred.csh [object.lis] [standard.lis] [mkflat.lis] [saturation] [typical sky level] [targetPSFFWHM] [beginning step]
ここで、
・[object.lis]:ターゲット天体の画像のリスト
・[standard.lis]:標準星の画像のリスト
・[mkflat.lis]:フラットを作るのに使う画像のリスト
・[saturation]:saturation level (2001年4月以降は32500を用いればよい)
・[typical sky level]:典型的なskyの高さ(バイアスを引いた後の値であることに注意)
・[targetPSFFWHM]:PSF合わせで目標とするFWHM(pix単位、手順(7)に対応、0とすればPSF合わせは行われない)
・[beginning step]:始める解析のステップ(以下の12通り)
all:手順(2)から最後まで
*最初はallを使ってください、以下やり直しで途中からやる場合
mkflat:手順(3)から最後まで
ffield:手順(4)から最後まで
distcorr:手順(5)から最後まで
psfmatch:手順(7)から最後まで
skysb:手順(8)から最後まで
maskAGX:手順(9)から最後まで
makemos:手順(11)から最後まで
imcio:手順(12)
例)
$ ls -1 *.fits > namechange.lis
$ namechange.csh namechange.lis
画像ファイル名を変えておく
$ ls -1 *.fits | gawk '$1!~/H030330/ {print $0}' > object.lis
ターゲット天体のリストを作る
$ ls -1 *.fits | gawk '$1~/H030330/ {print $0}' > standard.lis
標準星のリストを作る
$ ls -1 *.fits | gawk '$1!~/H030330/ {print $0}' > mkflat.lis
フラットに使う画像のリストを作る
$ spcamred.csh object.lis standard.lis mkflat.lis 32500 21000 3.7 all
実行後)
以下のようなファイル(整約済み画像)ができる
spcamred.fits
これ以外にも、spcamred_mflat*.fitsなどのフラットなども作られます。
基本的にspcamredが生成したファイルには、*spcamred*という名前がついて
います。ただし、解析途中のfits画像は、単にAspgfTo_R などの記号が付
けられます。
(参考)
[typical sky level]や[targetPSFFWHM]を決めるためには、それぞれ
IRAFのimexamやfwhmpsf.cshなどで求めておくとよいです。
例えば、
$ cl
cl> imstat *si001s.fits
$ gawk '$1~/si001s/ {print $0}' object.lis > fwhmpsf_batch.lis
$ fwhmpsf_batch.csh fwhmpsf_batch.lis 50 2000 30000 2.0 7.0
などとします。
プログラム名は limitmag
[SDFREDを置いたディレクトリ]/clscripts/limitmag/limitmag.clにあります。
使用例)
$ cl
cl> noao
cl> digi
cl> app
cl> stsdas
cl> ana
cl> fit
必要なパッケージを呼び出しておきます。
cl> task limitmag = [SDFREDを置いたディレクトリ]/clscripts/limitmag/limitmag.cl
cl> limitmag input.fits ratio=10000. ap_diameter=10. zmag=32.24 limit=5 phist_z1=-500 phist_z2=500
input.fits : limitmagを測る画像の名前
ratio : 画像のピクセル数に対するランダムアパーチャーの割合
(この数が少ない方がランダムアパーチャーの数が増える)
ap_diameter: アパーチャーphotometryの測光直径
zmag : ゼロ点の等級
limit : 求めたい限界等級のsigmaの値
phist_z1 : ヒストグラムをガウシアンフィットする時のlower limit
phist_z2 : ヒストグラムをガウシアンフィットする時のupper limit
実行した後tektronix windowが出る。最初にランダムアパーチャーの位 置が表示されます。
少しほっておくと、ヒストグラムが現れます。f を押すとgaussianでフィッ トしてくれます。うまくフィットできたら qボタンを押します。
結果は
1sigma= 273.7 counts : 26.15 mag
5.00 sigma= 1368.3 counts : 24.40 mag
cut_xmmwideR_c1.fits 24.40 mag
のように表され、 画像の限界等級は5sigma limitで24.40 mag (1sigma
は26.15)だと分かります。
プログラム名は geomatch
[SDFREDを置いたディレクトリ]/clscripts/geomatch/geomatch.clにあります。
使用例)
$ cl
cl> task geomatch = [SDFREDを置いたディレクトリ]/clscripts/geomatch/geomatch.cl
cl> geomatch input.fits output.fits reference.fits ref_starpos tmptrans_pos 8.0 peak_flux=32500.
ここで
input.fits : geometryを変えるイメージ
output.fits : geometryを変えたイメージ。
reference.fitsと同じピクセルスケールになります。
reference.fits : geometryを変えるのに基準とするイメージ
ref_starpos : reference.fitsに写っている星の位置(starselect.csh で作られる.dsoファイルの2行目と3行目を取り出せばよいです。1000 個程度の星があれば十分です。)
中身は [ x y ]
(例)
1137.584 6930.920
372.023 425.837
130.569 4936.643
692.470 313.470
325.805 2714.143
530.611 3390.951
129.504 2857.943
..
..
..
tmptrans_pos : input.fitsとreference.fitsに共通する4つ星の位置を書き込んだASCII file
(共通する4つの星は予めマニュアルで測らなくてはならなりません。)
中身は [ x(ref) y(ref) x(in) y(in) ]
(例)
1161.73 5307.90 1937.26 1372.28
358.62 5136.53 2105.22 569.26
472.74 1888.91 5353.55 668.60
1226.50 2106.76 5138.76 1423.10
あと、8.0というのはinput.fitsにある天体のうちmatchに使う星(天体)
の最大のFWHMです。また、peak_fluxというのはsatuation fluxのことでこ
れ以上の明るさ(peak値)を持つ天体はmatchに使わないことを意味します。
---
実行したあと、tektronixのwindowが仮matchの法則の確認を
してきます。良かったら q を押してください。
その後、sextractorが走ってしばらくすると、tektronixのwindowが
決定版のmatchの法則の確認をします。ここで、tektronixのwindow 上で
: reject 3
: xxorder 4
: xyorder 4
: yxorder 4
: yyorder 4
さらにtektronix window上で f を押します。
さらに x yなどを押すとx方向のresidual、y方向のresidualを見ることができます。
上記のようにすると 3 sigma rejectionを行ない、かつx**2 xy yx y**2
のtermが3次(4−1次)までとった関数でfittingを行ないます。
tektronix windowに表示されたrmsがおよそ0.2程度に収まっていれば、問題
ありません。
この確認が終ったところで、 tektroinx windowで qを押すと、
input.fitsに今決めた4次式での変換が始まります。(20分くらいで終り
ます。)
プログラム名は SPCAMim2FOCASim.csh
[SDFREDを置いたディレクトリ]/clscripts/SPCAMim2FOCASim/
SPCAMim2FOCASim.cshにあります。
使用例)
SPCAMim2FOCASim.csh suprime.fits 7021 2290 +25 art_focas.fits
などとします。ここで、
suprime.fits:_Suprime-Cam画像(入力)
7021 2290:Suprime-Cam画像上のどの天域(X,Y)から疑似画像を作るか
+25 :疑似画像のPA (-90が回転なし。もしSuprimeの画像がnorth is upならFOCASの装置上でのPAに対応する)
art_focas.fits: FOCAS疑似画像(出力)
です。
* ただいま試験運用中です。保証はできませんので、使用する際は注意 してください。しかし、すでに2回このプログラムで作ったFOCAS 擬似画像 でFOCAS/MOS 観測が行われました。(SDFおよびLockman Holeにて)いずれ も成功しています(2004年7月14日現在)。