トピックス

宇宙ライター林公代の視点 (19) : 観測を支える舞台裏 その2

2016年11月23日 (ハワイ現地時間)

最大の成果をあげるため -「サポートアストロノマー」の手厚いおもてなし

  観測現場で忙しく働く「サポートアストロノマー」。すばる望遠鏡が成果をあげる大きな要因の一つに、こうした人々の強力なサポートがある。

  すばる望遠鏡は、持ち込みを含めおよそ 10 種類の最先端の観測装置を共同利用観測に提供し、天文学者の様々な研究目的に応じられる望遠鏡だ。これほど多彩な観測ができる大口径望遠鏡は他にないが、各装置はかなり専門性が高く、最高性能を発揮させるための操作は簡単ではない。たとえば複雑なのが分光観測。観測用スリットの細い隙間に天体を導き、その向きを調整したり、どれくらい露出時間をかけるか調整したりなどの作業が多いし、一つの天体を 30 分ぐらい追いかけることもある。

  そこですばる望遠鏡の観測の際には、観測装置に詳しく、しかも天文学的知識をもった「サポートアストロノマー」が一晩中つきっきりでサポートする。最大限の観測成果をあげるためだ。各装置にはそれぞれ担当のサポートアストロノマーがいて、観測に来た天文学者が装置の操作を知らなくても観測できる体制を整えている。たとえば寺居剛さんは HSC や主焦点カメラ (シュプリーム・カム)、微光天体分光撮像装置 FOCAS を担当している (図1)。


図1左 図1右

図1: サポートアストロノマーの寺居さん (左) は HSC などを担当。デスクの前を離れられない操作の難しい装置、近赤外分光撮像装置 IRCS を担当するキムさん (右)。(クレジット:国立天文台)


  サポートアストロノマーは観測が実施される前から観測者 (天文学者) とやりとりして、どういう手順で何を観測するか観測計画を立てる段階から伴走する。観測当日は、データを取得するとざっとその質をチェックし、論文を書くために十分なデータか、撮りなおしが必要かを判断する。知識と経験が求められるのだ。もちろん、観測のためのコマンドを送信するのも、主としてサポートアストロノマーが行う。

  寺居さん曰く「ほかの大口径望遠鏡でもサポートアストロノマーはいますが、すばる望遠鏡ほど手厚いところはない。日本流の『おもてなし』と言えるかも。」たとえばケック望遠鏡では観測は山頂でなく、ふもとの施設で行われる。サポートアストロノマーは最初の1時間ほど立ち会うと「何かあったら電話して」と帰るそう。

  すばる望遠鏡で観測者を手厚くサポートするのは、装置の複雑さに加えて、操作画面のわかりにくさもあるようだ。文字列で指示が書かれていて、どこを選ぶかパッと見てわかりにくい。また日本の光学赤外線観測天文学は欧米に比べて歴史が浅く、すばる望遠鏡ができた時点では天文学者の観測経験が多くなかったことも背景にあると考えられる。ただし寺居さんは「僕は観測者を甘やかしているわけではありません。できることはやってもらっています。それが観測者のためでもあると思います。アイツは厳しいと言われているかもしれませんけどね (笑)」と言う。そういいながらも、結局は突き放さずフォローしてしまうタイプだとお見受けするが・・。


観測の現場で繰り広げられる人間模様

  すばる望遠鏡の観測時間を獲得するためには、天文学者はプロポーザル (観測提案書) を提出し、5~6倍の競争倍率を勝ち抜かないといけない。多くの場合、1年に一回観測できるかどうか。つまり観測は貴重な機会となる。それだけに観測には気合が入る。

  天文学者も人間だからいろいろな人がいるようだ。注文も多いけど真剣な人もいれば、「とにかくやってよ」というやや他人任せな人もいて、模範的な人ばかりではない。「この日の観測でものにならなければ、研究者としての明日はない」と必死なときに、装置トラブルが起こったりすると大変だ。「なんとかならないのか」と殺気立つ人もたまにはいるが、基本的に天文学者はおおらかな人が多いし、現場の大変さもわかってくれるそうだ。

  そして人力ではどうにもならないのが天気。準備を万端にしたらあとは運を天に任せる。そのせいか、観測室のところどころにお札が張られていたり、手作りのてるてる坊主があったり (図2)。最先端科学の現場だけれど、機械を動かすのは人間。毎晩、様々な人間模様が繰り広げられている。


図2左 図2右

図2: 観測室には、てるてる坊主やお札があちこちに。(クレジット:国立天文台)



自分の研究との両立は楽じゃない

  サポートアストロノマーの皆さんは天文学者であり、観測のサポートを業務として行いながら、それぞれのテーマをもち研究活動をしている。たとえば寺居剛さんの研究テーマは太陽系小天体。太陽系がどうやってできて進化し、地球ができたのか。起源と進化を調べる手段として太陽系小天体の観測を行っている。現在注目しているのは、海王星の外側にある太陽系外縁天体 (TNO) だという。どんな大きさの天体がいくつあるかをすばる望遠鏡で観測し、統計をとっている。その結果を調べることで、海王星などの惑星が、過去に太陽系の内側から現在のような外側に移動した証拠を見つけようとしている。

  自分の研究用観測のためには、ほかの天文学者と同じように観測提案書を出す。すばる望遠鏡のサポートアストロノマーだからと言って優遇されるわけではない。「前回の観測は天気が悪くて観測できませんでした。もう1回提案書を出したら通らなくて、また再挑戦です」と寺居さん。現実は厳しい。

  観測サポートを行うときは、明け方まで山頂施設で仕事をし、その後マウナケア山中腹にある研究者用宿舎「ハレポハク」に降りてきて朝食。睡眠をとって昼すぎに起きて洗濯など家事をして、16 時ごろ夕食をとってまた山頂にあがる日々。寺居さんは月に3~4回ほど観測サポートの仕事があり、そのほかの日はヒロのオフィスで、観測者との連絡や自分自身のテーマについての研究をしている。ハレポハクでは、交代で上がるサポートアストロノマー田実晃人さんにも出会った (図3)。


図3左上 図3右上
図3左下 図3右下

図3: すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS 担当、田実晃人さんは 14 年目のベテランサポートアストロノマー (左下)。1月末から約1週間、観測が続いた。マウナケア中腹の宿舎ハレポハク (左上、これはロビーの様子) で 16 時過ぎに夕食をとり (右上)、四輪駆動車 (右下) を運転していざ、山頂へ行ってきます。田実さんは、すばる望遠鏡で新星爆発でのリチウム生成現場を世界で初めて観測しました (詳しくはこちら)。(クレジット:国立天文台)



やっぱり現場は楽しい

  仕事の難しさについては「すばる望遠鏡の貴重な観測時間を有効に使わないといけないし、繊細な観測装置を壊さないように細心の注意を払わなくていけない。たとえば、HSC は CCD センサを真空冷凍機で冷やしながら観測しています。停電などの際には機器が不具合を起こしていないか注意する必要がありますし、CCD センサに強い光を当てると傷む可能性があるので、日没後 30 分以降でないとドームをあけてはいけない。観測者は少しでも長く観測したいというけれど、装置が壊れないようにルールは守らなければならない。効率をあげて観測できるように努めます。」(寺居さん)

  では醍醐味は?「観測の現場にいて、すばる望遠鏡がとらえた生の観測データを一番に見られること」と田実さん。「これは面白い!」というデータはすぐにわかるという。寺居さんも観測の現場にいられることを真っ先にあげる。「観測装置を操作するのも好きだし、自分がサポートした観測で大きな研究成果が出ると嬉しく思う。太陽系天体の観測研究をしている天文学者は日本に少ないが、すばる望遠鏡の観測現場にいると知り合いが増えて、ネットワークが広がる。様々な研究分野の観測の仕方は勉強にもなります。」

  サポートアストロノマーの存在は、現場に来るまで知らなかったけれど、すばる望遠鏡が「大発見!」や「世界初の観測に成功!」といったニュースを頻発する舞台裏には、こうした知識と経験が豊富で現場で奮闘するサポートアストロノマーの存在が大きいことを、ぜひ知ってほしい。


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





<関連リンク>





画像等のご利用について

ドキュメント内遷移