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宇宙ライター林公代の視点 (16) : 新星や超新星は元素合成の工場

2016年10月26日 (ハワイ現地時間)

リチウムがわかれば宇宙がわかる

  元素の周期表を見ると、水素とヘリウムに次いで3番目に軽いのがリチウムです。リチウムはパソコンやスマートフォン、エコカーなどのバッテリにも使われ、私たちの日常生活に欠かせない元素です。しかしリチウムは水素の 10 億分の1、酸素の 100 万分の1と宇宙にきわめてわずかしか存在しない、貴重な元素であることをご存知でしょうか。

  リチウムはどうやって作られるかという点でも注目される元素です。炭素や酸素、鉄などの重い元素は主に恒星の内部や超新星爆発によって作られますが、リチウムの生成現場はバラエティに富んでいます (図1) 。たとえばビッグバン時に水素とヘリウムが作られることは知られていますが、微量のリチウムも作られます。宇宙を飛び交う宇宙線が星間物質と反応することでも作られますし、新星爆発も有力な生成現場と推測されていました。


図1

図1: リチウムの多様な生成源。ビッグバンや宇宙線による原子核の破壊などによっても作られ、その生成源は多岐にわたっています。そのなかでも星を起源とする天体でのリチウム生成は、「?」マークで示したとおりまだよくわかっていませんでした。(クレジット:国立天文台)


  リチウムの生成には様々な天体や現象に関わっています。そのためリチウムが宇宙のどこでどのように作られるのか理解するには、宇宙の元素合成の知識を総動員する必要があります。逆にいうと、「リチウムがわかれば宇宙がわかったと言える」のです。世界中の研究者が銀河系内の星に含まれるリチウム量を測定し、どの生成源でどのぐらいリチウムが作られるかを研究した結果、観測されるリチウム量を説明するには、新星爆発によるリチウム生成が必要だと推定されています。しかしその証拠を、直接観測で確認できた例はありませんでした。


すばる望遠鏡がリチウム生成現場を世界初観測!

  誰も見たことがなかったリチウム生成の現場を、ついにすばる望遠鏡がとらえました。きっかけは、2013年8月14日、アマチュア天文家である板垣公一さんが、いるか座に突然現れた明るい新星「いるか座新星 2013 Nova Delphini 2013 = V339 Del」を発見したことです。地球からの距離は約1万4千光年、私たちの銀河系内の天体であり、発見2日後には最大光度 4.3 等に達しました。約6年ぶりに肉眼で確認できる明るい新星 (注1) です。

  すばる望遠鏡は、爆発から 38 日後の9月下旬に観測をスタート。高分散分光器 HDS で4回にわたって新星から放出された物質の成分を詳しく調べました。爆発後 47 日目、マウナケア山頂で観測データを見ていた国立天文台ハワイ観測所の田実晃人さんは、リチウムの隣に位置する元素ベリリウムのスペクトル線が、通常観測される波長から 0.01 ナノメートルとわずかにずれたところに光の吸収が現れていることに気づきました。実はそれこそが大発見でした。観測されたのは、自然界によくみられるベリリウム9ではなく、放射線同位体のベリリウム7だったのです。ベリリウム7は不安定な元素で、100 % リチウム7になります (図2)。つまり、「ベリリウム7の発見 = リチウムの生成現場の発見」を意味するのです。


図2

図2: 新星爆発でリチウムが作られる際、まず白色矮星表面での水素の核反応でベリリウム7が作られます。吹き飛ばされたガスの塊の中で、ベリリウム7は 53 日間で半分がリチウム7に変わります。(クレジット:国立天文台)


  1970年代から、新星爆発でリチウムが作られるのではないかと推測されてきましたが、ベリリウム7はできてもすぐに消滅してしまうため、現場をとらえるのは非常に難しく、宇宙の観測では見つかったことのない元素同位体でした。

  ではなぜすばる望遠鏡が観測に成功できたのでしょう。この発見にはすばる望遠鏡ならではの特徴が生かされています。まず、ベリリウム7は紫外線領域にある 310 ナノメートルの波長で検出できます。これほど波長の短い紫外線は大気で吸収されてしまい、高度の低いところでは観測できません。標高 4200 メートルで上空大気の影響の少ないマウナケア山頂だからこそ観測できます。次に観測装置の高分散分光器 (HDS) が、光を細かな波長に分解して調べることにおいて、このクラスの望遠鏡で最大の能力を持つことがあげられます。約 15 万分の1の波長差を見分けられるために、ベリリウム同位体を識別できたのです。

  すばる望遠鏡に高分散分光器 HDS を備えていたこと、さらに明るい新星が出現した際、速やかに観測できたこと。これらの条件が整い、世界初の観測に成功できたのです。


(注1) 新星とは:新星爆発と超新星爆発は、言葉は似ていますが異なる現象です。太陽のような星が一生の最後に白色矮星になった時 (図3中央) 、すぐ近くに恒星 (図左) があると、恒星のガスが白色惑星の表面に降り積もっていきます。降り積もるガスの層が厚くなると温度や密度が高くなり、核融合が発生して小規模な爆発を起こし、外側のガス層を吹き飛ばします。これが新星爆発です。超新星爆発に比べて小規模な爆発であり、白色矮星本体は残っているため、何度も繰り返し爆発を起こします。

図3

図3: 新星爆発の想像図。新星爆発 は白色矮星 (図中央右側) と伴星 (同左; 太陽のような主系列星もしくはそこから進化した赤色巨星) からなる連星系で起こる爆発現象だと考えられています。(クレジット:国立天文台)



高速で吹き飛ばされた二つのガス塊

  すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS がとらえた、リチウム生成現場の光を見てみましょう。観測データからわかったのは、新星爆発によってばらばらになって高速で吹き飛ばされた、二つのガスの塊の存在です。元素のスペクトルを調べるとその運動がわかりますが、どの元素を調べても秒速約 1100 キロメートルと秒速約 1300 キロメートルもの高速で (地球の方向に) 飛んでいることがわかりました。二つの速度は、それぞれのガス雲の速度を示しています (図4)。


図4

図4: 新星爆発からすばる望遠鏡に届いた光を分光すると、その光は A と B という二つのガスの塊を通過してきたことがわかりました。スペクトルから元素の運動を調べることができますが、それぞれの雲の速度を反映した波長 A、B で吸収線が見られ、観測者の方向に向かって高速で飛んでいることがわかったのです。(クレジット:国立天文台)


  データを詳しく調べていくと、ガスの塊には様々な元素が含まれることがわかりました。そのなかでひときわ目立つのがベリリウム7でした (下の図5の青と赤の線) 。赤と青の二つの線が描かれていますが、この二重線がベリリウム7の特徴です。隣り合った波長で光を吸収する性質があり、両方の吸収線がそれぞれのガスの塊で検出されたことが、ベリリウム7が存在する強い証拠となりました。


図5

図5: すばる望遠鏡の高分散分光器が新星の爆発 47 日後に観測したデータ。上から水素、カルシウム、ベリリウム7の二重線 (赤と青)。横軸はこれらの元素の運動を表していて、秒速 -1103 キロメートル付近と -1268 キロメートル付近で谷型のピークがあります。符号がマイナスなのは、この速さで観測者の方にガスの塊が飛び出してきていることを示しています。ちなみに、もしリチウムが生成されていない場合、ベリリウム9の吸収が起こる場所が緑で描かれています。本文中で、観測した田実さんが 0.01 ナノメートルずれていることを見抜いたのは、この線と比較してのことです。(クレジット:国立天文台)


  ではこの新星爆発によって、どのくらいの量のリチウムが作られたのでしょうか?正確に求めることは難しいのですが、ベリリウムと似た性質をもつカルシウムと比較して考えると、カルシウムに匹敵する量があることがわかりました。その量は理論から予想される量の6倍以上です。宇宙全体でもともと微量しか存在しないリチウムとしては非常に多く、リチウムが新星爆発で大量に作られるという仮説を裏付ける結果となりました。


新星爆発はリチウムの合成工場だった

  この観測の後、すばる望遠鏡 HDS では別天体でさらに2つの新星爆発からベリリウム7を観測しました。つまり新星爆発でのリチウム生成は特別なことではなく、当たり前に起こることであり、新星爆発は効率よくリチウムを作る、リチウム合成工場であることが確認できたということになります。

  リチウムが宇宙のどこで作られたかを知ることは宇宙の元素合成解明への試金石でした。今回の観測によって天文学者らがこれまで考えていた、ビッグバンから現在に至る宇宙の物質進化モデルが大枠で正しいことが裏付けられました。今後の課題はリチウムが実際にどのくらいの量ができるのかを、求めていくことです。

  また新星爆発を詳細に観測できたことも大きな意味を持ちます。新星爆発がどういうメカニズムで起こるのか、その詳細も今後さらに研究されていくでしょう。


16 世紀にティコ・ブラーエが見た超新星の謎を解く

  ここまで、宇宙でどのように元素が作られるかを見てきました。前編でそのカギを握っていたのは「超新星爆発」でした。超新星爆発は宇宙全体では頻繁に起こりますが、私たちの銀河系の中ではこの 1000 年の間に数回しか起こっていない稀な現象です。銀河系内で直接観測されたもののなかでは1604年に発見されたケプラーの超新星がもっとも新しいもので、それ以来およそ 400 年間、新しい超新星は発見されていません。超新星爆発は、宇宙の物質進化に深くかかわる天体であるだけに、現代の最先端の観測機器を使って、超新星爆発を詳しく調べることは天文学者の願いでもあります。

  超新星爆発からの光は、一度しか観測できないと誰もが思うでしょう。ところが爆発時に出た光が少し離れた場所にあるガス雲に反射されて、「こだま」のように遅れて届くことがあります。実際、数百年前に地上に届いた (はずの) 光をすばる望遠鏡で観測することに成功したのです。その二つの例を紹介しましょう。

  最初の成功例は「カシオペヤ A」超新星残骸について。カシオペヤ A は私たちの銀河系の中で最も若い超新星残骸として知られます。いつ爆発が起こったか歴史的な文献に記録が残っていませんが、残骸の膨張速度から逆算し1680年頃に爆発したと考えられます。

  NASA のスピッツァ―赤外線宇宙望遠鏡がカシオペヤ A 付近を観測したところ、赤外線で明るく輝く領域が、高速で外側に移動していることを発見しました。これは、カシオペヤ A を作った超新星爆発で放たれた電磁波が、周囲の塵を次々に温めている現象だとわかりました。つまり、爆発時の光が「こだま」となって移動していたのです。この「こだま」を調べれば、超新星について様々な情報が得られるはずです。しかし「こだま」は数週間で消滅して次の場所に移動しますし、極めて暗く、観測することは非常に困難でした。

  大きな集光力をもつすばる望遠鏡が微光天体分光撮像装置 FOCAS で観測に成功したのは2007年10月9日。「こだま」は 23.5 等級という暗さでしたが、超新星特有のスペクトルを観測でき、元になった超新星が太陽質量の 10 倍を超える赤色超巨星だったこと、その一生の最後に IIb 型の超新星爆発を起こしたことが解明されました。IIb 型の爆発は短時間で暗くなる特徴があるため、17 世紀に観測記録が存在しなかったのは、明るくなった期間が短く見逃されたためと考えられます (図6)。


図6

図6: 2007年10月9日にすばる望遠鏡の FOCAS で観測された超新星の光の「こだま」の画像。超新星残骸カシオペヤ A は1度角以上離れたところにある。中心部に白く見える淡い光が、カシオペヤ A からの可視の光の「こだま」。(クレジット:国立天文台)



ティコ・ブラーエが見た超新星の「こだま」から正体を解明

  同様の手法で、16 世紀にデンマークの天文学者ティコ・ブラーエが肉眼で見た「ティコの超新星」の「こだま」をすばる望遠鏡の FOCAS が2008年9月に観測することに成功しました。詳しい分光観測の結果、そのこだまが1572年にティコ・ブラーエの眼で観測された超新星の爆発時の光そのものであること、また Ia 型超新星であったことがわかりました (図7)。

  肉眼観測では超新星のタイプまではわからず、その後様々な観測からティコ超新星が Ia 型超新星ではないかと推測されていましたが、すばる望遠鏡の観測によって、Ia 型であると確証を得たのです。

  超新星は宇宙の物質進化の鍵を握る天体です。さらに Ia 型超新星は、特に宇宙膨張を調べるための距離基準にも使われる天体であり、その性質を理解することはとても重要です。


図7

図7: ティコ・ブラーエが肉眼で見た超新星の光が「こだま」となって2008年に観測できたしくみ。超新星爆発で放射された光が、西暦1572年に地球に到着しました (水色の矢印)。超新星の周囲にある塵によって反射された光が現在地球に到着しました (黄色の矢印)。2008年の8月23日から9月24日にかけて、淡い光の位置が見かけ上移動していることから、可視光の「こだま」であることが判明しました。(クレジット:国立天文台)


(レポート:林公代)



林公代 (はやし きみよ)


  福井県生まれ。神戸大学文学部卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーライターに。25 年以上にわたり宇宙関係者へのインタビュー、世界のロケット打ち上げ、宇宙関連施設を取材・執筆。著書に「宇宙遺産 138 億年の超絶景」(河出書房新社)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡飛行士らと共著 毎日新聞社/第 59 回青少年読書感想文全国コンクール課題図書) 等多数。

ウェブサイト:http://gravity-zero.jimdo.com





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