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すばるの夏休み、職員は大忙し (後編)

2010年11月5日

  2010年7月から9月にかけてのすばるの夏休み中に行われた望遠鏡大作業の様子を、前編に引き続きお届け致します。


――今年の夏に行われた3ヶ月に渡る大掛かりな作業。定期的な主鏡の再蒸着作業に加えて、望遠鏡本体の加工やオーバーホールを同時に済ませるとは、とても大変ですね。作業の際には、現地の職員の方々以外にも日本から応援を得たのですか?

  もちろんです。国立天文台の本部からと、それぞれの機械部分を担当したメーカーの方々が来てくれました。実際の作業準備は半年ぐらい前から始まっていたのですが、8月から9月にかけては、望遠鏡ドーム内のあちこちでたくさんの人が働いていましたね。60 人ぐらいいたときもあったのではないかと思います。


望遠鏡を真横に倒しての作業

――そんなにたくさんの人がドームの上の方でも下の方でも作業している中、クレーンや高所作業車も動いているのですから、ずいぶんスケジュール調整が大変だったのではないですか?

  複数の大がかりな作業がドームのあちことちで行われますので、作業内容がぶつからないよう、また同じ人を取り合いすることにならないよう、スケジュールを作ることはかなり難しいジグソーパズルでした。精密な測定をしているときに、天井クレーンを動作させるなんてことが重なってはいけませんし、2台の高所作業車もけっこう取り合いになっていました。


今日のおやつはチョコ入り蒸しパン

――皆さんの体調管理は大変でしたか?

  山頂で長時間の作業が集中するときがありますが、そういう人については、そのあとに山に行かない日を設けるようにできるだけ配慮しました。疲れすぎて間違えたり、怪我をしやすくなったりしては、元も子も無いですからね。もちろん、1日の作業の中でも全員がしっかり休憩を取れるようにスケジュールを組みました。作業の合間につまむ甘い物が、これまた疲れに効くのです。



――作業を円滑に進めるために話し合う機会を設けることもありましたか?

  主鏡再蒸着の期間も含め、大きな作業が特に重なっていた 7-8 月には、仕事前に「朝礼」をしました。その日の作業に従事する職員 (これは外部からの応援も含めて、です) ほぼ全員を集め、作業内容の概要と安全確認を行いました。しかも日本語と英語の両方で。なにしろハワイ観測所には、地元アメリカから採用したスタッフはもちろん、ドイツやフランスから来ている職員もいますから。ハワイ観測所では英語が共通語みたいなところがあります。

研究施設では珍しい朝礼風景
作業を前に担当ごとに打ち合わせ

――主鏡がドーム1階に行っている間に、主鏡の台座「主鏡セル」だけが望遠鏡に取り付けられていた期間がありましたね。その上に人が乗って何やら作業していたようですが?

  主鏡に降り積もる細かいホコリを吹き払うクリーニング装置の点検とオーバーホールをしていました。主鏡セルがあると、そこに小さな脚立を載せるだけでこのクリーニング装置に手が届くので、作業がたいへんはかどりました。もし主鏡セルがなければ、いちいち高所作業車でアクセスしなければならず、そうすると1カ所しか作業ができませんからね。


ブラシでゴシゴシと洗浄中の主鏡

――なるほど。せっかく主鏡のお化粧直しをするわけですから、そのあとまた3年間、ときどき掃除をしながらできるだけきれいなままで観測に使いたい、そのための掃除道具の掃除というわけですね。

  そうですね。手入れのための道具を、きちんと掃除や整備をしておくことは、作業能率やさらにはその成果を左右しかねない大事な作業です。アクチュエータ取り外し作業のときには、かたわらの台車の上に必要な道具を使う順序に、しかも使うときに取り出しやすい向きに並べ、使い終わったら元通りにするようにしました。何本ものアクチュエータを扱うわけですから、こんなちょっとした工夫も大事なものなのです。


――来年もまた大がかりな望遠鏡作業があるのですか?

  ハイパー・シュプリーム・カムという大型の観測装置が届きます。これは、現在すばる望遠鏡で活躍しているシュプリーム・カム (主焦点広視野カメラ) の7倍もの広視野を持つのですが、重くてとても大きなものです。この組み立てと、主焦点部分への取付は (望遠鏡のてっぺんなので) 場所からしても大変な作業になります。おまけにとても重い。交換用のロボットが3トンまでの物しか扱えないので、カメラ本体の3トンだけをロボットで扱います。残りの 0.5トン程のフィルター交換機構は、別に取り付けることになります。ケーブル類は今年の作業で配線・配管しました。


ヘルメット・安全帽をかぶって
慎重に慎重に、でも笑顔も忘れずに

――それにしても3ヶ月のお休みのあと、久しぶりに夜の観測を再開したときには、ほっとされたのではないですか?

  望遠鏡がちゃんと元通りの高性能を発揮できるかどうか、そのようにもちろん作業してきているわけですが、それでもちょっと緊張しました。でもこのように (下の M78 の画像) ばっちり撮像もできることが示されて、そのときにようやく肩の荷が下りる気分でした。今は来年の大作業に向けて、また準備を始めました。来年は今までに無い大きな物を取り付けて動かすことになるので、もっと緊張するだろうと思います。まずは重さや重心が本物と同じ模型を使って、作業の練習をします。作業用の道具やロボット機構をよく調整し、作業者が手順や安全確認に慣れてから、本物を扱うわけですね。

  どうか皆さん、来年もすばるのニュースにご注目ください。

 

  figure  

すばる望遠鏡の夏休み明けの性能確認のために微光天体分光撮像装置 FOCAS で撮影された、オリオン座にある散光星雲 M78 の一部。視野の直径は6分角。2010年9月20日 (ハワイ時間) 撮影。

 



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