トピックス

世界最高性能の赤外線観測装置 MOIRCS

2007年6月15日

 2007年5月31日、アメリカの報道・雑誌関係者を対象としたマウナケア山頂ツアーの一環として、観測所群の合同記者発表がハワイ島ヒロ市内、イミロア天文センター (`Imiloa Astronomy Center of Hawai`i) にて行われました。ハワイ観測所すばる望遠鏡での成果として、東北大学の市川隆教授が多天体近赤外撮像分光装置 (Multi-Object Infrared Camera and Spectrograph, 通称:MOIRCS、呼び名:モアックス) を紹介しました。この合同記者発表は27日からハワイ、ホノルルで開催された、第210回アメリカ天文学会にあわせて企画されました。

 記者発表を行ったのはヒロ市に山麓施設を持つ、サブミリ波干渉計 (Submillimeter Array)、国立天文台ハワイ観測所、ジェミニ天文台(Gemini Observatory) とハワイ大学天文学科 (University of Hawai`I Institute for Astronomy)、ジョイント天文学センター (Joint Astronomy Centre)、カルテク・サブミリ波天文台 (Caltech Submillimeter Observatory) です。各観測所が研究成果、新しい観測技術、将来計画などについて発表しました。

 市川教授が発表したMOIRCSは、口径8-10m級地上望遠鏡に搭載された中で、世界最高性能で注目を集めている観測装置の1つです。近赤外線撮像装置として世界最大級の視野(4分角×7分角)を持つだけでなく、同時に多天体の分光を行える機能が最大の特色です。一度に50天体以上を分光することができます。8-10 m級の大望遠鏡の中で、冷却マルチスリットによる近赤外線波長域での多天体分光装置を持ったのは、すばる望遠鏡+MOIRCSが世界で初めてです。2006年2月からすばる望遠鏡の共同利用観測装置として公開され、一般の研究者も使用可能となりました。

 MOIRCSでの観測ターゲットは、近傍の星惑星形成領域から最遠の銀河まで多岐にわたります。市川教授率いるMOIRCSチームは、100-120億光年離れた遠方銀河の探査を行うため、MOIRCS・ディープ・サーベイ(MODS)計画をすすめています。ハッブル宇宙望遠鏡が観測したハッブル・ディープ・フィールド(HDF)をはるかに上回る広領域GOODS-Northにて、近赤外線で最も広くて深い撮像観測を行っています。MODS計画で検出された銀河の分光観測も、多天体分光装置で効率良く行われています。この計画を推進することで、遠方銀河の3次元マップが描きだされるとともに、100-120億年前の大質量銀河での星形成の性質が明らかにされると期待されます。

 市川教授は成果発表の中で、大学院教育の観点からもMOIRCSの重要性を強調しました。この装置は1999年から、東北大学と国立天文台ハワイ観測所が共同で開発してきました。ハワイ観測所では大学院生の受け入れ態勢が整い、ハワイに移り住んだ東北大学の大学院生たちが主力となって、MOIRCSの開発をすすめてきました。既に3名の学生がMOIRCSの開発と観測で学位を取得し、更に2名が続こうとしています。

 大学院生が主力となり「早く(納期)、安く(予算)、うまく(高性能)」をモットーとして開発されたMOIRCSは会見会場でも注目され、質問も出ました。アメリカの報道・雑誌関係者に日本の装置開発と最新の研究成果をアピールする良い機会となりました。

報道・雑誌関係者と観測所
スタッフを含む聴衆

プラネタリウム内での記者発表
(右下が市川教授)


各観測所の発表者。右から2番目が市川教授
(写真提供 Inge Heyer, Joint Astronomy Centre)

市川教授の“モアックス What’s New”ページ
http://ayashi.astr.tohoku.ac.jp/~ichikawa/moircs/moircswhatsnew.html

すばるトピックス:MOIRCS─すばるの新しい「赤外線の瞳」(2006年2月22日)
http://www.naoj.org/Topics/2006/02/22/j_index.html

観測者のための MOIRCS のページ(英語のみ)
http://www.naoj.org/Observing/Instruments/MOIRCS/index.html

第210回アメリカ天文学会のページ(英語のみ)
http://www.aas.org/meetings/aas210/



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