トピックス

SMART-1 探査機の月面衝突現象の観測について

2006年9月2日

Smart-1 探査機とは
 ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) が打ち上げた工学実験用の月周回探査機です。太陽電池式電気推進エンジンを中心とした深宇宙探査エンジン技術の実用実験を目指しつつ、月表面の化学成分探査 (特に氷) 等も行います。2003年9月27日に打ち上げられ、2004年11月15日に欧州の探査機として初めて月の周回軌道に到達し、2006年7月まで延長されて運用してきました。

※Smart = Small Missions for Advanced Research in Technology の略

Smart-1 探査機の月面衝突
 探査機は、運用後に月面へ衝突させることになりました。当初、地球から見えない月の裏側に衝突する軌道に探査機は乗っていましたが、ESA は 6月下旬に軌道修正を行い、地球から見える月の表側に衝突する軌道に変更しています。軌道修正後の衝突予定日は、ハワイ時間 2006年9月2日 (日本時間9月3日) で、衝突の観測に適した場所はハワイ島の予定です。日本では、衝突の瞬間には月が地平線から出ていないため観測はできません。
  重さ 285 kg の探査機は、秒速 2km、ジオイド面に対してわずか 1度で月面に衝突するため、ディープインパクトと比較すると衝突エネルギーは少ないと見積もられます。しかし、衝突地点の地形によっては最大 10 度の角度で月表面に衝突する上に、月はテンペル第1彗星よりもはるかに地球に近いことから、地上観測ができる可能性が出てきました。 ESA の呼びかけに応じて、世界各国の研究チームが地上観測計画を進めています。
  来年 2007年から 2年の間に、日本の SELENE 探査機、中国の CH-3、アメリカの LCROSS 探査機、インドのチャンドラ探査機の合計 4 機が月に向けて打ち上げられ、そのいずれもが運用最終段階で月面への衝突を予定しています。
 SMART-1 の衝突現象の観測は、今後の月探査衛星による衝突の有効活用をする上で、不可欠な基礎データを得る貴重な機会です。日本でも 1990年1月に打ち上げた工学実験衛星「ひてん」から、孫衛星「はごろも」を月周回軌道に投入し、1993年4月11日に月面衝突させました。オーストラリアでは、衝突の瞬間に起きた軌道制御用燃料の爆発による閃光を赤外線で捉えることに成功しています。

日本チームによる月面衝突の観測
 衝突実験の研究者と太陽系天文学の研究者からなる日本の観測グループは、数ヶ月にも及ぶ議論を行い、 観測方法や衝突現象の検出の可能性などを検討してきました:

  1. 衝突熱発光 (可視の衝突閃光)
    発光継続時間は約 3msで、光度 8.8 等級と見積もられる。

  2. イジェクタの太陽反射光 (可視)
    衝突 100 秒後くらいから高速イジェクタが昼夜境界線を越えだし、急速に明るくなり始める。さらに約 220 秒後にはピークに達する。この継続時間は現在検討中である。ピーク時の光度は、10 等級程度と推定される。

  3. 太陽の熱を浴びたイジェクタの平衡放射光 (中間赤外)
    見積もりによれば 76 Jyと非常に明るいが、1.3 arcmin 程度の大きな領域に広がってしまうため、光学的厚さが τ= 2x10-5 にまで薄まってしまう。そのため、ダストプリュームの後ろから透けて見える月面の夜面背景放射 (~5x104 Jy) に負けてしまう見込みである。

 すばる望遠鏡による観測は、月面が明るすぎることや他の観測スケジュールとの兼ね合いなどから、実施しないことになりました。 さらに検討を進めた結果、マウナケア山頂のすばる望遠鏡敷地内に小型望遠鏡を設置して観測を行う方向で調整してきました。

小型望遠鏡による観測結果 (速報)
 国立天文台の春日敏測さんを代表者とする観測チーム (※) は、すばる望遠鏡敷地内に置いた口径 30cm の小型望遠鏡に CCD カメラを取り付け、映像をビデオで記録する方法により衝突現象の観測を実施しました。衝突予定時刻であるハワイ時間2006年9月2日19時41分の前後にわたり、ビデオモニターを見ていた限りでは衝突による閃光は確認できませんでした。今後、記録した映像データを解析処理することにより、閃光が検出できる可能性があります。
  最終的な観測成果につきましては、結果が得られ次第、このホームページにて公開する予定です。


※:観測チームメンバー: 春日敏測 (国立天文台)、杉田精司 (東京大学)、塚田健 (東京学芸大学)、高遠徳尚 (国立天文台)、川村太一 (東京大学)、布施哲治 (国立天文台)、渡部潤一 (国立天文台)



画像等のご利用について

ドキュメント内遷移