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広視野多天体分光・面分光で探る銀河形態の起源

すばる望遠鏡で探る銀河の歴史

現在我々が住む宇宙には、渦巻き銀河、楕円銀河、不規則な形状をもった矮小銀河など、多様な形態をもった銀河たちが見られます。これらの銀河はいつどのようにして形成されたのでしょうか。運用開始から10年を経た すばる望遠鏡の目指した大きな目標の一つは、遠くの宇宙=古代の宇宙から現在までを俯瞰的に観測することで、これら銀河の形成史を明らかにしていくことにあります。

すばる望遠鏡は、直径8.2mの大きな鏡による集光力と、精緻な制御技術に支えられた優れた光学性能によって、銀河形成史研究に大きな進展をもたらしてきました。現在の宇宙のおよそ1/10未満の時代の非常に若い銀河の発見や、詳細な分光観測による古代の銀河の性質の研究、古代の銀河集団の発見とその性質の研究などがその代表として挙げられるでしょう。

本研究の目指すこと

私たちは、これまでの観測的・理論的銀河形成研究の成果をふまえつつ、すばる望遠鏡の主力観測装置の一つ MOIRCS(モアクス) の機能向上によって、銀河形成史に新たなアプローチで迫ります。

遠方銀河の内部構造に迫る

銀河の形態が分岐し、秩序だった状態を確立する過程を理解するためには、銀河内部のガス運動 (回転およびランダム運動) や、銀河中心部 (バルジ)、円盤部 (ディスク)、外側 (ハロー) といった領域ごとの星形成史の違いを調べることが必要です。本研究では、「面分光」という、天体の内部を分解してスペクトルを取得する方法を用います。一般的なスリット分光では、銀河の一部(主に中心部)を含んだ限られた領域の情報だけしか得ることができませんでした。面分光によって、遠方銀河でもその内部構造を切り分けて、ガスの運動や、星形成の状態を調べることが可能になります。銀河間空間から銀河へと降着するガスや、銀河同士の衝突・合体が銀河の星形成にどのような役割を果たしているのかを調べていきます。

銀河の星形成史の探究

MOIRCSには、大型望遠鏡の近赤外線観測装置の中でもユニークな、広視野の多天体分光機能があります。これは、ある範囲の天域内の多数の天体について同時にスペクトルを取得することを可能にするものです。本研究ではこの手法を活用して、様々な天域の多数の銀河についてスペクトルを取得します。特に銀河の形態と、宇宙の歴史の中での星形成の関係を従来の研究よりもはるかに多いサンプルを用いて調べることで、現在の銀河へとつながる銀河の進化パスを描き出すことを目指します。

近赤外線観測装置 MOIRCS (モアクス)

本研究では、特に近赤外線を使った観測的研究に主眼を置きます。 ここでの近赤外線とは、主に波長およそ1μmから2.5μmの光を指します。 遠方=古代の宇宙の銀河から放たれた光は、宇宙膨張にともなうドップラー効果によって、 観測される波長が長くなって地球に届きます。 人間の目が感じることのできる可視光よりも波長の長いこれらの光を使うことで、 可視光でこれまで観測されてきた現在の宇宙の銀河と、古代の銀河を同じスペクトル領域で観測し比較することが可能になります。

すばる望遠鏡の主力観測装置の一つである MOIRCS (Multi-Object InfraRed Camera and Spectrograph) は、近赤外線として世界トップクラスの広い視野 (4分角 x 7分角)をもち、撮像のほかに多天体分光という、現在の8-10m級望遠鏡の中でも極めてユニークな機能を持っています。本研究では、特にこのMOIRCSの機能向上を進めることで、これまでの研究をさらに前進させ、現在につながる銀河の歴史に迫ることを目指しています。