観測成果

銀河系に付随する極めて暗い衛星銀河の発見

2016年11月21日 (ハワイ現地時間)

  東北大学、上海天文台、国立天文台、プリンストン大学などのメンバーからなる国際共同研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) が撮像したデータの中から、私たちの住む銀河系に付随する衛星銀河を新たに発見しました (図1)。この銀河はおとめ座 (Virgo) の方向に見つかった最初の矮小銀河であることから、「おとめ座矮小銀河 I (Virgo I)」と名付けられました。この銀河は最も暗い矮小銀河のひとつであり、銀河系の形成史やそれを左右するダークマター (暗黒物質) の性質を知る上で大変重要な発見です。


図1

図1: おとめ座方向に今回発見された新しい衛星銀河 Virgo I の位置 (左)。右図は赤経・赤緯それぞれ 0.1 度角における、Virgo I に含まれる恒星の密度分布。青→白→黄→赤となるに従って恒星の密度が高くなっています。Virgo I の恒星は、図4の緑の帯に位置するものから選んでいます。(クレジット:東北大学/国立天文台)


動画: 衛星銀河 Virgo I の位置関係などを示したアニメーション。Virgo I に所属する可能性がある候補星が緑丸で示されています。また動画の一部をキャプチャした静止画像がこちら。4次元デジタル宇宙ビューワ― Mitaka を用いて作成。(クレジット:国立天文台)



  銀河系に付随する衛星銀河はこれまで 50 個近く同定されており、そのうち矮小銀河と分類されるもの (光度が暗く小さな銀河) はこれまで 40 個程度発見されています (図2)。その多くは「いわゆる超低光度矮小銀河 (注1)」と呼ばれるとても暗い銀河で、北半球で行われたスローン・デジタル・スカイ・サーベイ (SDSS) や、南半球で現在進行中のダーク・エネルギー・サーベイ (DES) などの探査観測でまとまった数が発見されてきました。ところが、これまでの観測では、口径 2.5 メートルから4メートルの中口径望遠鏡が使われてきたため、太陽に比較的近いものやあまり暗くない矮小銀河だけが同定され、もっと遠くで銀河系ハロー (球状星団などの古い恒星系が存在する銀河円盤周囲の広大な領域) の外側にあるものや、光度がとても暗い矮小銀河はこれまで見落とされてきました (図3)。


図2

図2: 銀河系の周囲にある衛星銀河の3次元地図。銀河系円盤の面を水平面に取っています。青四角は大・小マゼラン雲、赤円は SDSS の観測が行われた以前に従来知られていた明るい矮小銀河、黄円は SDSS 以後に発見された暗い矮小銀河をあらわし、可視の絶対等級が暗いほど小さなサイズで描画されています。(クレジット:東北大学/国立天文台)


図3

図3: すばる望遠鏡で撮像された矮小銀河の擬似カラー画像。左は SDSS 以前から知られていたしし座 II 矮小銀河 (Leo II: 可視絶対等級 MV=-11.9 等)、真ん中は SDSS で見つかったうしかい座 I 矮小銀河 (Boötes I: MV=-6.3 等)、右は今回見つかった Virgo I (MV=-0.8 等)。Leo II と Boötes I はすばる望遠鏡主焦点カメラ Suprime-Cam、Virgo I は HSC による擬似カラー画像で、右のものほど絶対等級が暗く、また星がまばらになっていて、銀河の構造が見えません。このように暗い矮小銀河は、通常の画像の中では背景の銀河にまぎれて見えなくなります。(クレジット:東北大学/国立天文台)


  このような暗い矮小銀河の探査には、8.2 メートルという大口径を持つすばる望遠鏡と超広視野焦点カメラ HSC の組み合わせが威力を発揮します。なぜなら、とても暗い天体を発見するためには広い視野を今までよりも暗い等級まで探査する必要があり、すばる望遠鏡と HSC は世界で最も効率の良い組み合わせだからです。矮小銀河を同定するには、まず多量の観測データの中から恒星がまとまって存在していて、その空間密度が超過している部分を探し出します。さらに、この密度超過が偶然ではなく一定の恒星種族からなる恒星系であることを、恒星の色・等級図 (いわゆるヘルツシュプルング・ラッセル図、HR 図) を用いて確認作業を行います。もし密度超過が矮小銀河であれば、色・等級図上で特徴的なパターンを示すからです (図4)。


図4

図4: 色・等級図上における恒星の分布。古い恒星系は図に示した線に沿った特徴的な分布を示します。SDSS で見つかった Boötes I が一番左、その右が Segue I と呼ばれる矮小銀河で、今回見つかった Virgo I が左から三番目に示されています。Virgo I は Boötes I と Segue I より遠いので縦軸の r バンドの見かけ等級が暗いです。Virgo I の図で緑色の帯に含まれる恒星の密度分布を描いたものが図1の右図になり、図3の擬似カラー画像では見えなかった銀河の様子がわかります。一番右の図は、Virgo I から外れた一般領域に対するもので、特徴的な恒星の分布は見えません。青い誤差棒は、横軸の典型誤差を表します。(クレジット:東北大学/国立天文台)


  このデータ解析を行って今回発見に至ったのは大学院生の本間大輔さん (東北大学) です。本間さんは次のように述べています。「HSC によってこれまで撮像された恒星データを系統的に調べました。その結果、明らかに高い密度超過で、かつ色・等級図上で矮小銀河に見られるような恒星分布を示すものを、おとめ座の方向に見つけることができました。可視での絶対等級は -0.8 等級ととても暗く、しかもその半径は 124 光年と空間的に広がっていて、同じ程度の明るさを持つ球状星団に比べて系統的に大きいことから、矮小銀河のひとつと同定することができました。」

  これまで見つかった矮小銀河で最も暗いものは、SDSS で同定された Segue I と呼ばれる矮小銀河 (-1.5 等級)、DES で存在が指摘されているくじら座 II 矮小銀河 Cetus II (0.0 等級) です。今回発見された矮小銀河 Virgo I は最も暗い矮小銀河のひとつと言えます。また、この矮小銀河までの距離は、太陽から 28 万光年もあります。これほど遠い距離では、今回のようなとても暗い矮小銀河を従来の探査では見つけることができませんでした (図5)。実際、今回 Virgo I が発見された天域は、かつて SDSS で既に探査が行われた領域です。


図5

図5: 銀河系で見つかった衛星銀河としての矮小銀河の距離と絶対等級の関係。Virgo I は他の銀河に比べて極めて暗くかつ太陽から遠い距離にあり、SDSS による検出限界の外にあります。なお、Virgo I 以外で SDSS の検出限界の外にある矮小銀河の多くは、DES の観測で見つかったものです。(クレジット:東北大学/国立天文台)


  この研究プロジェクトを統括する千葉柾司さん (東北大学教授) は次のように述べています。「太陽から遠い距離にあって銀河系ハローと呼ばれる広い空間領域には、未発見の暗い矮小銀河がたくさん存在している可能性があります。これらが実際どのくらいあって、それぞれどのような性質をしていることを調べることによって、銀河系がどのように形成されてきたのか、またその過程でダークマターがどのように関わってきたのか、重要なヒントが得られるものと期待しています。」

  銀河系のような一般的な銀河の形成には、ダークハローとよばれるダークマターの集積体が合体を繰り返しながら成長していき、そのダークハローの中にガスが落ち込んで恒星系ができたと考えられています。ところが、この標準理論によると、銀河系を包んでいるダークハローの中に数百から千を超えるような小さなダークマターの塊と、それに付随した恒星系すなわち矮小銀河の存在が予想されます。一方、これまで実際に同定された矮小銀河の数は予想よりも桁で少なく、「ミッシングサテライト問題」と呼ばれています。この数の食い違いを説明するには、ダークマターの塊の中で恒星が生まれる過程になんらかのブレーキがかかったか、あるいは、そもそもダークマターが本来考えているものと違う性質を持つ可能性があります。一方、未同定の暗い矮小銀河がもっとたくさん存在している可能性も指摘されており、決着がまだついていません。

  すばる望遠鏡では、HSC を用いて非常に広い天域を観測する「戦略枠観測プログラム」を実行していて、今回見つかった暗い矮小銀河はこの初期データから見つかったものでした。HSC の「戦略枠観測プログラム」はこれからも続き、この初期データよりも 10 倍広い天域を観測する予定で、Virgo I のような暗い矮小銀河がさらに見つかることが期待されます。まだ見ぬ小人のような銀河たちが、銀河系の形成史のヒントを私たちに教えてくれるかもしれません。


  この研究成果は、アメリカ天文学会の天体物理学誌『アストロフィジカル・ジャーナル』の電子版に2016年11月14日付で掲載されました (Homma et al. 2016, "A New Milky Way Satellite Discovered In The Subaru/Hyper Suprime-Cam Survey")。論文のプレプリントはこちらから入手可能です。また、この研究成果は、科学研究費補助金 JP25287062、JP15H05889、JP16H01086 のサポートを受けています。


研究チーム
本間大輔 (東北大学)、千葉柾司 (東北大学)、岡本桜子 (中国科学院 上海天文台)、小宮山裕 (国立天文台)、田中賢幸 (国立天文台)、田中幹人 (東北大学)、石垣美歩 (東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)、秋山正幸 (東北大学)、有本信雄 (国立天文台ハワイ観測所)、Jose A, Garmilla (米国・プリンストン大学)、Robert H. Lupton (米国・プリンストン大学)、Michael A. Strauss (米国・プリンストン大学)、古澤久徳 (国立天文台)、宮崎聡 (国立天文台)、村山斉 (東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)、西澤淳 (名古屋大学)、高田昌広 (東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)、臼田知史 (国立天文台)、Shiang-Yu Wang (台湾中央研究院天文及天体物理研究所)



(注1) Ultra-faint Dwarf 銀河、略して UFD 銀河とも呼ばれます。可視光での絶対等級 (10 パーセク=32.6 光年の距離に置いた時の天体の明るさ) で -8 等級よりも暗い銀河です。

(注2) Leo II については「年老いても心は若い Leo II」(2007年11月28日 すばる望遠鏡プレスリリース)、Boötes I については「すばる望遠鏡が明らかにした、もっとも暗い矮小銀河の生い立ち」(2012年2月6日 すばる望遠鏡プレスリリース) を参照してください。





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