観測成果

すばる望遠鏡、食べ散らかす赤ちゃん星の姿を捉える

2016年2月24日 (ハワイ現地時間)

  台湾中央研究院や国立天文台などのメンバーからなる国際共同研究チームは、すばる望遠鏡に搭載されたカメラ HiCIAO (ハイチャオ) を用いて、星と惑星が活発に成長していると考えられる現場を捉えることに成功しました (図1)。その姿はあたかも、夢中に食べる人間の赤ちゃんが「ごはん」を食べ散らかしているかのようです。この新しい成果は、星と惑星系の誕生の謎を解く上で重要な手がかりになります。


図1

図1: すばる望遠鏡に搭載されたカメラ HiCIAO (ハイチャオ) が映し出した赤ちゃん星たちの星周物質の分布。左上が FU Ori (オリオン座 FU 星)、右上が Z CMa (おおいぬ座 Z 星)、左下が V1057 Cyg (はくちょう座 V1057 星)、右下が V1735 Cyg (はくちょう座 V1735 星)。赤ちゃん星の「ごはん」に相当する星周物質は、私たちの太陽系の大きさよりはるかに広がって分布してます。このような星周構造が赤ちゃん星のまわりで観測されたのは、世界で初めてのことです。中心星自身からの光は中央の黒丸 (●) で隠されています。白いスケールバーは構造の空間的な大きさを示します。文字や印を省いた画像はこちら。(クレジット:Science Advances, H. B. Liu.)



星の誕生過程

  星は、塵を伴う巨大なガス雲の中心が、重力でつぶれることにより誕生します。惑星はこの過程で、ガスと塵で構成される円盤状の構造の中で成長していくと考えられています。しかし、星と惑星の誕生については、まだわかっていないことがたくさんあります。

  星の「ゆりかご」であるガスと塵の巨大な雲は、水素分子などの分子が大きな割合を示すことから「分子雲」と呼ばれています。分子雲の中では、重力のため、最も密度の高い領域に周りのガスが降り積もっていきます。この過程は「質量降着」と呼ばれます。質量降着は、100 万年から 1000 万年程度の年月をかけて徐々に、切れ目なく続くと考えられてきました (図2)。ただしこのような降着では、星の最終質量の 1-10% しか説明できないことがこれまで研究で示されています。残りのガスや塵はどうやって集積していったのか、そもそも星や惑星はどうやって生まれるのかという謎に、天文学者たちは挑みつづけています。


図2

図2: 星と惑星の誕生の標準的な概念図。グリーン (2001) の原図を元に作成。(クレジット:台湾中央研究院)



FU Ori 型バーストの発見

  生まれかけの星の中には、100 倍以上もの突然の増光を伴う突発的な質量降着を起こすことが知られています。この現象は、FU Ori (オリオン座 FU 星) という星で初めて見つかったことから、FU Ori 型バーストと呼ばれています。このような増光が観測されている星は、何千もの生まれかけの星の中のわずか十数個に過ぎません。しかし天文学者たちは、上で述べた星の質量をめぐる問題ゆえ、この現象は全ての星の誕生に必須の現象ではないかと考えています。実際にバーストが観測される星が少ないことは、星の誕生にかかる時間に比べてバーストの時間がはるかに小さいことで説明できます。

  従って「どうしてこのようなバーストが起こるか?」という問いこそ、星の誕生の重要な問いなのです。鍵を握るのが、生まれかけの星へと降着しつつある星周物質です。上に説明した突発的な増光は、「降着円盤」と呼ばれる星周物質の円盤が溶岩程度の温度 (700-1200 ℃) に加熱されることにより起こります。なぜバーストが起こり円盤がどうやって加熱されるのかについては複数の理論が提案されており、天文学者たちは数十年の間、詳細な観測による検証を試みてきました。


すばる望遠鏡による観測

  台湾中央研究院のハウユ・リョウ研究員 (現ヨーロッパ南天天文台) と高見道弘研究員の率いる国際研究チームは、すばる望遠鏡の新しい観測技術でこの問題に挑みました。この観測技術 — コロナグラフ偏光撮像 — は、その高い解像度と感度から、星周物質を観測する上で大変強力です。

  分子雲や星周物質はガスと塵の混合体です。塵はガスに比べては大変に微量ですが、ガスの中の塵は中心星からの光を散乱するために星周物質が光り、その分布を観測することができます。すばる望遠鏡に搭載されたカメラ HiCIAO は、このような散乱光の観測に特に威力を発揮してきました。研究チームはこのカメラを用いて、FU Ori 型バーストを起こしている4つの星を観測し、星周物質の分布を詳細に捉えることに成功しました。


4つの FU Ori 型星

  これらの星は、私たちの太陽系から約 1500-3500 光年離れています。観測された星周物質の画像 (図1) は、これまで観測されてきたどの赤ちゃん星とも大きく異なります (図1)。3つの星 (FU Ori、Z CMa、V1735 Cyg) では尾のような構造が見られます。さらにそのうちひとつ (FU Ori) では、渦のような運動に伴うとみられる構造があります。別の星 (V1057 Cyg) では中心星から複数の筋のような構造が伸びていて、中心星でのバーストが星周物質を吹き飛ばしたかのようにも見えます。これらはいずれも、従来の質量降着の考え方からは予想できないものです。あたかも、夢中に食べる人間の赤ちゃんが「ごはん」を食べ散らかしているかのようです。このような星周構造が赤ちゃん星のまわりで観測されたのは、世界で初めてのことです。

  なぜこのような構造ができたのでしょう?研究チームの理論家たちが力学構造のコンピュータシミュレーションを行った結果、星周物質が降着して星が生まれる際に、落下運動、軌道運動、そして星周物質自身の重力により、コーヒーに少し注いだクリームのような複雑な構造ができることがわかりました (図3左)。赤ちゃん星に降り注ぐ物質がこのように複雑な分布をしているため、星に到着する星周物質の量が大きく時間変動し、時々大きな増光が観測されるというわけです。研究チームはさらに、HiCIAO で観測できる近赤外線の散乱光のシミュレーションを行いました (図3中央および右)。観測された構造と全く同じ構造を再現するにはさらなる検証が必要ですが、現在のシミュレーション結果は、このシナリオで観測された構造が説明できそうであることをうかがわせます。


図3

図3: 質量降着 (すなわち星の成長) のコンピュータシミュレーションの結果。左が星周物質の複雑な分布、中央と右は星を異なる角度から眺めた場合の散乱光の分布を示します。(クレジット:Science Advances, H. B. Liu.)



惑星系誕生の謎を解く手がかりに

  今回の研究結果は、星の誕生のみならず、惑星系誕生の謎を解く手がかりにもなると研究チームは期待しています。これまでたくさんの星のまわりに惑星系が発見されていますが、その中には、中心星からの軌道距離が、太陽と地球の間の距離の 1000 倍以上も離れているものがあります。この軌道の大きさは、私たちの太陽系の中で太陽から最も離れた海王星の軌道距離 (太陽と地球の間の距離の 30 倍= 30 天文単位) よりもはるかに大きなものです。一方でコンピュータシミュレーションによると、HiCIAO で観測された複雑な構造の中では、木星や土星のようなガス惑星が成長するはずです。この場合、上に述べたようなような軌道距離の非常に大きい惑星が存在することを自然に説明することができます。

  ただし、星や惑星の誕生の謎をさらに詳しく解明するためには、さらに新しい観測を進め、理論予測と比較していく必要があります。特に、最近チリで運用が始まったアルマ望遠鏡は、電波での高い解像度と感度を誇る望遠鏡であり、星周物質の分布と運動を詳細に観測できると研究チームは期待しています。また、2020年代の運用開始が計画されている 30 メートル望遠鏡 (TMT) などにより、中心星のより近くにある質量降着の様子を赤外線で観測できると期待されます。


  この研究成果は、アメリカの科学誌『サイエンス・アドバンシズ』に2016年2月5日付で掲載されました (Liu et al. 2016, "Circumstellar disks of the most vigorously accreting young stars")。


  (注) 1天文単位は太陽と地球の距離=約1億 5000 万キロメートルに相当します。





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