この記事は京都大学からのプレスリリースに基づいています。
京都大学、兵庫県立大学、国立天文台、名古屋大学の研究者からなる研究チームは、恒星表面の超巨大な爆発現象「スーパーフレア」が見つかった太陽型星のうち 50 天体を、すばる望遠鏡を用いて観測しました。得られたスペクトルを詳細に分析した結果、太陽とよく似た星でも巨大黒点が生じれば、スーパーフレアを起こしうるということを突き止めました。研究チームはこれまで、太陽系外惑星探査衛星「ケプラー」の観測データを解析することにより、スーパーフレアを起こした太陽型星を多数発見してきました。すばる望遠鏡を用いた今回の観測により、スーパーフレア星のより詳しい正体に迫ることができました。
太陽フレアは、太陽の表面の黒点に蓄えられた磁場のエネルギーが一気に放出される爆発現象で、この時、大きなフレアでは太陽から大量の放射線(X 線や紫外線、高エネルギー粒子)、コロナ質量放出と呼ばれる高速プラズマ雲が放出されます。大きなフレアで放出されたプラズマ雲が地球磁気圏に衝突・侵入すると、巨大な磁気嵐を引き起こす可能性があり、過去には通信障害や大規模停電などの被害へ繋がった事例が報告されています。
これまで京都大学、兵庫県立大学、国立天文台、名古屋大学の研究者からなる研究チームでは、ケプラー衛星の観測データを解析することにより、太陽型星でスーパーフレア (最大級の太陽フレアの 10 倍~1万倍に達するような超巨大フレア) を多数 (数 100 例以上) 発見してきました (前原他 Nature 誌2012年5月24日号)。この発見は、スーパーフレアの統計的研究を史上初めて可能にするなど、非常に重要な発見となりましたが、スーパーフレアを起こした星の正体に迫るには、更に詳しい観測が必要でした。
そこで今回、研究チームでは、ケプラー衛星でスーパーフレアの見つかった太陽型星のうち 50 星について、すばる望遠鏡の高分散分光器 HDS を用いた分光観測を行い、そのスペクトルの詳細な分析を行いました。その結果、以下のことが明らかになりました。
- 観測した 50 天体のうち半数以上は、連星系などの証拠もなく、太陽とおおむねよく似た星であることが確認されました。
- ケプラー衛星の観測データから、多くのスーパーフレア星は、星の明るさが周期数日から数十日で変化していることが分かっています。これは星の表面に大きな黒点があり、それが自転に伴って見え隠れすることで生じていると予想されていました (図1)。その予想が正しければ、明るさの変化のタイムスケールは、星の自転の速さに対応することになります。分光観測を行うと、スペクトル線の広がり幅から星の自転の速さを測定する事ができますが (図2)、今回の観測の結果は、明るさの変化から求めた自転の速さとよく対応しており、上記の予想が正しいことが確認されました。また太陽のように自転の遅い星も多く含まれていました。
- 大きな黒点が存在して星表面の平均磁場が強くなると、Ca II 854.2[nm] (電離カルシウム) の吸収線が浅くなることが、太陽の観測から知られています。このことを応用し、スーパーフレア星の Ca II 854.2[nm] の吸収線の深さを測定したところ、スーパーフレア星は太陽と比較して、非常に大きな黒点を持つ事が示唆されました (図3)。
研究チームの構成
・野津湧太 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・大学院生 (修士課程2年))
・本田敏志 (兵庫県立大学西はりま天文台・研究員)
・前原裕之 (国立天文台岡山天体物理観測所・専門研究職員)
・野津翔太 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・大学院生 (修士課程2年))
・柴山拓也 (名古屋大学太陽地球環境研究所・大学院生 (修士課程2年))
・野上大作 (京都大学理学研究科宇宙物理学教室・准教授)
・柴田一成 (京都大学理学研究科附属天文台・教授/台長)
本研究は、以下の2つの論文に基づくものです。
論文1:"High Dispersion Spectroscopy of Solar-type Superflare Stars. I. Temperature, Surface Gravity, Metallicity, and v sin i"
論文2:"High Dispersion Spectroscopy of Solar-type Superflare Stars. II. Stellar Rotation, Starspots, and Chromospheric Activities"
著者 (論文1・2共通):Notsu, Y., Honda, S., Maehara, H., Notsu, S., Shibayama, T., Nogami, D., Shibata, K.の7名
書誌情報:日本天文学会欧文研究報告 (PASJ) の 67 巻第3号 (2015年6月25日発行予定) に掲載決定済 (論文1は2月22日、論文2は3月29日に、online 版では出版済)。
本研究は、日本学術振興会の科研費・基盤研究 B (研究課題番号:25287039)、基盤研究 C (研究課題番号:26400231)、若手研究 B (研究課題番号:26800096) の支援によって行われました。