観測成果

110 億年前の宇宙に近傍最大級の銀河団の祖先を確認
~原始銀河団における固有の銀河形成過程~

2015年4月20日

  国立天文台および総合研究大学院大学を中心とした研究チームは、およそ 110 億年前の宇宙に見つかった2つの原始銀河団 (PKS 1138-262 (図1) および USS 1558-003) をすばる望遠鏡を用いて詳細に観測しました。その結果、これらの原始銀河団が「かみのけ座銀河団」のような近傍最大級の銀河団の祖先に相当する、非常に大きな質量と構造を持っていることがわかりました。さらに、これらの原始銀河団におけるガスの重元素量含有率から高密度環境特有の銀河形成過程について新たな知見を得ることができました。


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図1:今回すばる望遠鏡 MOIRCS で観測した原始銀河団のうちの一つである PKS1138-262 領域の、ハッブル宇宙望遠鏡 ACS/WFC データ (F814W および F475W) に基づく擬似カラー画像。(クレジット:国立天文台/ハッブル宇宙望遠鏡)



  研究チームはこれまで、すばる望遠鏡に搭載された多天体近赤外撮像分光装置 MOIRCS と特注の狭帯域フィルターによる Hα 輝線銀河の撮像観測によって、これらの原始銀河団が集団化途上にあり複雑な銀河分布をしていることや、銀河が激しい星形成活動状態にあることなどを特定していました (注1)。しかしながら、それぞれの銀河団の詳しい性質の解明には、更なる観測が必要でした。

  そこで今回、研究チームは、MOIRCS を用いて星形成銀河の近赤外線分光観測を行うことによって、銀河団内部の速度構造と個々の銀河の物理状態を調べました。観測の結果、これら2つの原始銀河団が太陽質量のおよそ 10 の 14 乗倍もの質量をもっていることがわかりました。これほどの質量を持つ原始銀河団は、近傍宇宙における「かみのけ座銀河団」のような最大級の銀河団の直接的な祖先に相当することが、宇宙の構造形成理論との比較から推定されます (図2)。


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図2:宇宙の構造形成論から期待される巨大銀河団 (現在で約 10 の 15 乗太陽質量) の質量進化。赤が本研究の結果を示しています。黒と灰色の点はそれぞれ過去に研究チームが他の巨大銀河団に対して行った研究結果と、他のチームがまた別の銀河団に対して行った結果を示しています。(クレジット:国立天文台)



  一方、これら2つの原始銀河団は、銀河が密集した銀河団という特殊な環境の中で、個々の銀河がどのように周辺環境から影響を受けて形成されたのかを調べるための理想的な研究対象でもあります。そこで研究チームはさらに、分光観測によって得られた複数のスペクトル輝線の情報から、銀河ガスに含まれる重元素の割合を調べました。その結果、同じ質量の銀河であっても、銀河が密集した原始銀河団に属するものは、同じ時代の銀河がまばらに存在する領域 (フィールド環境) にあるものと比べて、ガスの重元素量含有率が高いことが分かりました (図3)。


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図3:銀河の星質量と、ガスの重元素含有率との関係。灰色が現在の銀河が示す典型的な星質量ー重元素量割合の関係を、水色の破線が約 110 億年前の一般的な銀河の星質量ー重元素量割合の関係を示しています。これらに対して、赤が本研究が示す原始銀河団領域にある銀河の星質量ー重元素量割合の関係を示しており、同じ遠方の銀河 (水色) と比べて高い重元素量を持っていることがわかります。(クレジット:国立天文台)


  重元素は銀河中の星の内部で作られ、星の進化晩期の星風や超新星爆発によって周辺のガスに放出されます。したがって、ガス中の重元素量の割合が異なるということは、銀河内での星形成活動の履歴や銀河外部とのガスの流出入の過程が異なることを意味します。研究チームは特に、銀河のガスの出入りに関する環境効果、という新しい視点に着目しています。今回観測した2つの銀河団がある 110 億年前の宇宙は、星形成活動が最も盛んだった時代であることが知られています。同様に銀河におけるガスの流出入率も現在と比べて約 100 倍も高かったことが示唆されており、このガスの出入りは銀河の形成を司る最大の物理過程の一つです。この過程に銀河の周辺環境が大きな影響を及ぼしていると考えられるのです。

  銀河団はダークマターの巨大な塊に銀河と高温の電離ガスが重力的に束縛されている宇宙最大の天体です。そのような特殊で高密度な環境の中で、個々の銀河は秒速 500 キロメートル以上もの速度で飛び回っています。混み合った中を高速で動くこれらの銀河では、銀河団ガスから受ける強い向かい風 (圧力) や、他の銀河との接触時における強い潮汐力によって、銀河の外側にあり比較的重元素の少ないガスが選択的に剥ぎ取られてしまうことが考えられます。この場合、より内側にある濃度の高いガスを中心に化学進化が進むため、結果としてガスの総量に対する重元素含有率が高くなると考えられます (図4b)。また、重元素に汚染された銀河内部のガスは、銀河内で次々と起こる超新星爆発などによって起こる銀河風に乗って銀河の外側へと一部排出されますが、銀河団環境では銀河の周囲を満たしている銀河団ガスからの圧力が銀河風をブロックしてしまいます (図4c)。この場合でも銀河の中に重元素が多く蓄積されてしまうため今回の結果を説明することができます。また、説明は省きますが、銀河外部からのガスの流入についても当然ながら銀河周辺の環境が大きな影響を及ぼすでしょう。銀河がもっとも活発に生まれていた遠い昔に見られるこれらの現象は、現在の宇宙における銀河の性質の強い環境依存性を作り上げた最初の原因であると考えられます。


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図4:本結果から研究チームが想定している原始銀河団における銀河の重元素蓄積過程。左が一般的な銀河におけるガスの重元素蓄積過程を、右が銀河団のような特別な環境で期待される固有の重元素蓄積過程を示しています。(クレジット:国立天文台)


  「今後は個々の銀河内部のより詳細な解析によって、原始銀河団における特殊な環境にさらされた特有の銀河形成と成長過程をより明確にしていきたい」と、論文の主著者である嶋川里澄さん (国立天文台/総合研究大学院大学) は語っています (注2)。


  この研究成果は、2014年6月11日および2015年3月21日に発行された英国王立天文学会誌『MNRAS』に掲載されました (Shimakawa et al. 2014, "Identification of the progenitors of rich clusters and member galaxies in rapid formation at z > 2" および Shimakawa et al. 2015, "An early phase of environmental effects on galaxy properties unveiled by near-infrared spectroscopy of protocluster galaxies at z > 2")。この研究成果は、科学研究費補助金 21340045 および 24244015 によるサポートを受けています。



研究チームの構成 (所属は Shimakawa et al. 2015 出版当時のもの)

  • 嶋川里澄 (国立天文台ハワイ観測所/総合研究大学院大学)
  • 児玉忠恭 (国立天文台光赤外研究部/総合研究大学院大学)
  • 田中壱 (国立天文台ハワイ観測所)
  • 但木謙一 (マックス・プランク地球外物理学研究所、ドイツ)
  • 林将央 (国立天文台光赤外研究部)
  • 小山佑世 (宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)


(注1) すばる望遠鏡 2012年8月30日 プレスリリース「銀河古代都市の建設ラッシュー現在の楕円銀河が爆発的に生まれ急成長する大集団を発見ー」に詳しい説明があります。

(注2) 本研究成果を含む一連の研究課題「銀河形成への環境効果:渦巻銀河と楕円銀河はいつどのように分化したか?」に基づき、嶋川里澄さんは総研大未来科学者賞 (第1回) を受賞しています。



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