観測成果

銀河系内

2種類のガス流が織り成す連星系周辺の複雑な構造

2014年5月20日 (ハワイ現地時間)
最終更新日:2020年3月17日

国立天文台などの国際研究チームは、すばる望遠鏡とジェミニ望遠鏡の時間交換枠を通じ、ジェミニ北望遠鏡を使って近接連星系ぎょしゃ座 UY 星 (UY Aur) からの複雑なアウトフローの構造を明らかにしました。ぎょしゃ座 UY 星では、主星から幅広く吹き出すアウトフローが出ているだけでなく、伴星からも細いジェットが出ていることが明らかになりました。

2種類のガス流が織り成す連星系周辺の複雑な構造 図

図1:(左上) ジェミニ北望遠鏡による観測で検出したぎょしゃ座 UY 星周辺の一階電離した鉄イオンガスの分布。(右上) 波長1マイクロメートルの連続光の分布。主に恒星本体が発する光が見えています。(左下) 我々に向かって運動 (青方偏移) している鉄イオンガスの分布。(右下) 我々から遠ざかる方向に運動 (赤方偏移) している鉄イオンガスの分布。+印は恒星の位置で、上が主星、下が伴星。大きい目盛の間隔は1秒角に相当し、実距離で 140 天文単位。右下の●印は観測データの解像度 (0.12 秒角) を表します。画像の上方向が北東、右方向が北西。(クレジット:国立天文台)

多くの恒星が集団で生まれ、連星系として存在することが知られています。連星系の若い時代を調べることは、星・惑星誕生の過程を理解するために重要です。円盤を伴っている若い単一星からは、「アウトフロー」と呼ばれる外向きのガスの流れが多く見つかっています。しかし、若い連星系からのアウトフローは観測例が少なく、未解明な点が多く残されています。そこで、国立天文台ハワイ観測所の表泰秀 (Pyo, Tae-Soo) さんを中心とする研究チームは、ぎょしゃ座の方向、約 450 光年先にある若い連星系ぎょしゃ座 UY 星のアウトフローの構造を調べました。

ぎょしゃ座 UY 星は複雑な構造を持っています。約 180 天文単位 (見かけの角度にして 0.89 秒角) 離れた主星 (ぎょしゃ座 UY 星 A) と伴星 (ぎょしゃ座 UY 星 B) は、それぞれ星周円盤を持っています。さらに連星系全体を囲むような円盤構造 (周連星系円盤) も存在することが知られています。ぎょしゃ座 UY 星は周連星系円盤が発見された2例目の天体として有名です。

この連星系の詳細な構造、特にアウトフローの源がどこかを理解するために、研究チームは、ジェミニ北望遠鏡に搭載された近赤外線面分光装置 NIFS と波面補償光学装置 Altair を用いて詳細な観測を行いました (注1)。ぎょしゃ座 UY 星のように離角が1秒角以下の近接連星系を詳細に調べるためには、大型望遠鏡を使った高い解像度での観測が必須です。

観測の結果、研究チームは、主星と伴星の両方に付随しているように見えるガス流が存在することを発見しました (図1)。ガス流の速度を調べてみると、秒速 100 キロメートルと大変高速であることがわかりました。このような高速のガス流は、星周円盤の星に近い場所から吹き出す必要があります。観測されたガスの分布は連星の二つの星をつなぐようにも見えますが、星に向かって流れ込むガス流の速度はせいぜい秒速数キロメートル程度なので、このガスの分布は連星の重力によって作られた構造ではなく、星の近くから放出されたものと考えられます。

ガスの分布をより詳しく調べるために、研究チームは、我々から遠ざかる方向に運動 (赤方偏移) しているガスと、近づきつつある方向に運動 (青方偏移) しているガスの分布の違いに着目しました (図1)。その結果、接近するガスは主星付近に広く分布しながら伴星に細長くつながっているような形をしている一方で、後退するガスは主星の南西側 (図中では下側) だけに広く分布し、伴星付近を通ってより外側まで分布していることが分かりました。

この分布の違いは何を表しているのでしょうか?研究チームは、主星・伴星のそれぞれが円盤に対して両極方向にアウトフローを吹き出していることで、次のように説明できると考えています (図2)。主星からは、幅の広いアウトフローが円盤の両面から吹き出し、特に赤方偏移したガス流が伴星と重なって見えています。一方、伴星からは幅の細いジェットが出ており、主星から出るアウトフローと同じ方向に伸びています。伴星の星周円盤が連星系全体に対して少し傾いていることが別の観測から知られており、そのために、伴星のジェットは主星のアウトフローと衝突します。これら、主星・伴星を源とするアウトフローやジェットにより、今回観測された特徴的なガスの分布が作られたと研究チームは考えています。

2種類のガス流が織り成す連星系周辺の複雑な構造 図2

図2:(左) 赤方偏移ガス (赤色) と青方偏移ガス (青色) の分布の模式図。上側の主星は両極方向に広がったガス流を吹き出しながら、赤方偏移側にジェットも出しています。下側の伴星からは青方偏移した細いジェットが主星側に吹き出しています。(右) ぎょしゃ座 UY 星の円盤群、ガス流、ジェットを真横から見たときの模式図。図1の画像にこの模式図を重ねた説明図はこちら。(クレジット:国立天文台)

連星系のアウトフローやジェットは、一つしか見えなかったり二つ見えたりと、天体ごとに個性があります。今回観測されたぎょしゃ座 UY 星では、連星系中心部の小さいスケールで、主星・伴星それぞれの星周円盤から、異なる形のアウトフローとジェットが生じていました。このような構造がどのくらい普遍的なのかを調べるためには、より多くの連星系を高い解像度で観測する必要があります。それには、すばる望遠鏡などの大型望遠鏡のさらなる活躍が必要です。研究チームは今後、円盤どうしをつなぐガス流などの構造を調べるための研究も進める予定です。

2種類のガス流が織り成す連星系周辺の複雑な構造 図3

図3:ぎょしゃ座 UY 星(UY Aur)から出る複雑なアウトフローの構造の想像図。 (クレジット:国立天文台)

この研究成果は、2014年5月1日に発行された米国の『アストロフィジカル・ジャーナル』誌に掲載されました (Pyo et al. 2014, "[Fe II] Emissions Associated with the Young Interacting Binary UY Aurigae", The Astrophysical Journal, Volume 786, 63)。

(注1) 研究チームは、波長 1.2 マイクロメートルにある一階電離した鉄イオンの輝線 ([Fe II]) を観測しました。この輝線は、アウトフローやジェットで生じる衝撃波から放射されるものと考えられています。

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