観測成果

青い光で見るスーパーアースの空

2013年9月3日

<概要>

  国立天文台と東京大学を中心とする研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された2つの可視光カメラ Suprime-Cam と FOCAS に青い光だけを透過するフィルターを装着して、へびつかい座の方向、約 40 光年のかなたにあるスーパーアース GJ 1214 b の空 (そら) を観測しました (図1のイラスト参照)。この惑星の空 (大気) は、その主成分が何かをめぐってこれまで議論が続いており、水素あるいは水蒸気が主成分である可能性が考えられていました。今回の観測の結果、この惑星では晴れた水素大気の空で観測されるはずの「強いレイリー散乱」の特徴が見られないことが明らかとなりました。このことは、これまでのこの惑星に対する観測結果と合わせて、GJ 1214 b が水蒸気を主成分とする大気を持つ可能性が高いことを示しています。


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図1: 青い光で見る GJ 1214 b の惑星トランジットの想像図。 (クレジット:国立天文台)


  最近太陽系外に「スーパーアース」と呼ばれる新しいタイプの惑星が発見され始めました。スーパーアースは太陽系の地球と海王星の中間の質量と大きさを持ち、大きな地球とも小さな海王星とも呼べる存在ですが、基本的な性質はまだよくわかっていません。

  惑星は原始惑星系円盤の中で生まれると考えられています。原始惑星系円盤は水素が主成分ですが、中心星から離れた外側の領域では水の氷が豊富に存在しています。そのため、スーパーアースはどこで誕生してどう移動してきたのかを反映して、主要な大気成分の候補は水素か水 (水蒸気) であると理論的に予想されています。この主要な大気成分を知ることができれば、惑星がどのような組成でできているかを推定することができるだけでなく、その惑星がその場で形成されたのか、あるいは外側から移動してきたのかなど、惑星の形成過程についても推定することができます。

  今回研究チームが観測したのは、2009年にハーバード大学の惑星探索チーム「MEarth (マース)」によって発見されたスーパーアース GJ 1214 b です。主星である GJ 1214 は温度が約 3000K (注1) と、約 5800K の太陽に比べるとかなり低温の恒星です。この惑星は、地球から見て軌道がちょうど主星の前を横切り、トランジット (食) を起こすことが知られています。また、この惑星は公転周期が約 1.6 日と主星に非常に近く、惑星表面に液体の水が存在できる領域 (ハビタブルゾーン) よりやや内側 (惑星の有効温度は 400K から 550K 前後) にあります。

  トランジットを起こす太陽系外惑星の大気組成を調べる方法として、惑星のトランジットによる主星の減光を様々な波長で精密に測定し、その減光の深さが波長にどう依存しているかを調べる方法 (透過光分光法) があります。そして、この方法でスーパーアースが水素と水蒸気のどちらが主成分なのかを判別する指標として、可視光でのレイリー散乱 (注2) という現象があります。もしこの惑星が水素を主成分とする大気を持ち、空が晴れていると、この現象により青い光ではトランジットの減光が大きくなります (図2)。しかし、GJ 1214 は青い光ではとても暗いため、高い精度でトランジットを観測することが難しく、この惑星の空でレイリー散乱が見られるのかどうかを判断するのは困難でした。


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図2: 惑星の空の様子とトランジットによる減光の波長依存性を表した概念図。上段:惑星が水素を主成分とする広がった大気を持つ場合、主星からの光が惑星の大気を透過する際に青い光の方が多く散乱されてしまい、赤い光の方が多く透過してくる。これにより青い光の方がトランジットによる減光の深さが深くなる。中段:惑星が水蒸気を主成分とするあまり広がっていない大気を持つ場合、主星の光はあまり惑星の大気によって散乱されず、青い光から赤い光までほぼ同じトランジットの深さとなる。下段:惑星が厚い雲で覆われていた場合、惑星が水素の広がった大気を持っていても、惑星の大気を透過した主星の光が観測者に届かないため、青い光でも赤い光でもほぼ同じトランジットの深さとなる。(クレジット:国立天文台)


  そこで研究チームは、大口径を持つすばる望遠鏡の2つの可視光カメラ (Suprime-Cam と FOCAS) に青い光 (B バンド、波長 4500 オングストローム付近) だけを通すフィルターを装着し、この惑星のトランジットを2回観測しました。これはこの惑星に対して行われた観測の中で最も短い波長 (青い光) での観測で、これまでで最も高い精度でトランジットをとらえることに成功しました。

  この結果、研究チームは GJ 1214 b の空には晴れた水素大気の存在を示すレイリー散乱の特徴が見られないことを発見しました (図3)。これは図2のように、この惑星の大気が水蒸気を主成分とするものか、厚い雲に覆われた水素の大気を持つことを意味しています。そして、過去のより長い波長での観測結果と合わせることで、この惑星が水蒸気を豊富に含んだ大気を持つ可能性が高いことを明らかにしました。ただし、厚い雲に覆われた水素の大気である可能性が完全になくなったわけではないので、これからも独立な観測による検証が行われていくでしょう (注3)。


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図3: 今回のすばる望遠鏡による青い光での観測結果と、同じ論文で報告した南アフリカ天文台の IRSF 1.4 m 望遠鏡による近赤外線での観測結果を、水素に富んだモデル、水蒸気に富んだモデル、厚い雲に覆われたモデルとともにプロットした図 (Narita et al. 2013 より作成)。すばる望遠鏡の観測結果から、青い光でトランジットが深くなっておらず、観測されたどの波長でもだいたい同じトランジットの深さであることがわかる。(クレジット:国立天文台)


  このように惑星の空の詳しい観測ができるスーパーアースは、まだ少数しか発見されていません。GJ 1214 b 以外のスーパーアースとして2012年に発見された GJ 3470 b がありますが、研究チームはこの GJ 3470 b についても、岡山天体物理観測所の観測装置を用いてこの惑星の空を観測し、GJ 3470 b は水素を主成分とする晴れた空を持つ可能性が高いことを明らかにしています (注4)。このことから、スーパーアースの空はどれも同じではなく、多様な世界が広がっていることがわかります。この違いを理解するためには、これからも多くのスーパーアースの空を調べていくことが重要となるでしょう。

  今回のように惑星の空を調べることができるスーパーアースは、将来の全天トランジット惑星探索計画 TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite) などによって、これから数多く発見されると期待されています。本研究を主導した成田憲保さん (国立天文台フェロー) は、「今回の惑星はハビタブルゾーンよりやや内側にありましたが、もしちょうどハビタブルゾーンにあるような惑星が発見されれば、同じ観測方法でその惑星の大気を調べることができます。その時には、すばる望遠鏡や将来の TMT (30 m 望遠鏡) などによって、これから発見されるスーパーアースたちの詳細な性質を明らかにしていくことができるでしょう」と、今後の研究に期待を述べています。


動画: 研究グループのリーダーである成田憲保さん (国立天文台) による解説。(2013年9月3日撮影) (クレジット:国立天文台)


(注1):K (ケルビン) は温度の単位で、273.15 を引くと私たちが普段使っているセ氏 (セルシウス度) の温度 (℃) となります。

(注2):この「レイリー散乱」という現象は、地上から空が青く見えたり夕焼け・朝焼けの太陽が赤く見える理由として知られています。

(注3):チリにある 8.1 m の望遠鏡 VLT を用いて同じ波長で GJ 1214 b を観測したデ・モーイ氏らも、ほぼ同時期に本研究の観測結果を裏付ける結果を独立に発表しています (de Mooij et al. 2013)。

(注4):この GJ 3470 b の観測結果については、岡山天体物理観測所からのプレスリリース「晴天のスーパーアース?」も合わせてご覧ください。


<出典>

  この研究成果は、2013年8月20日発行の『アストロフィジカル・ジャーナル』誌に掲載されました。("Multi-color Transit Photometry of GJ 1214 b through BJHKs Bands and a Long-term Monitoring of the Stellar Variability of GJ 1214," Astrophysical Journal, Volume 773, Issue 2, article id. 144)

著者:

  • 成田 憲保 国立天文台太陽系外惑星探査プロジェクト室 国立天文台フェロー/特任助教
  • 福井 暁彦 国立天文台岡山天体物理観測所 研究員
  • 生駒 大洋 東京大学大学院理学系研究科 准教授
  • 堀 安範  国立天文台理論研究部 日本学術振興会特別研究員
  • 他 18 名


<謝辞>

本研究は以下の研究助成を受けて行われました。

  • 科学研究費補助金・基盤研究 (A) No. 25247026 (代表:成田憲保)
  • 大学共同利用機関法人自然科学研究機構・若手研究者による分野間連携研究プロジェクト (代表:成田憲保)
  • 科学研究費補助金・基盤研究 (C) No. 25400224 (代表:生駒大洋)
  • 科学研究費補助金・特別推進研究 No. 22000005 (代表:田村元秀)
  • 科学研究費補助金・基盤研究 (A) No. 23244038 (代表:泉浦秀行)





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