観測成果

原始惑星系円盤に小さな渦巻き構造を発見 — 密度波理論で探る惑星形成の現場

2012年4月11日

  工学院大学・東京工業大学・国立天文台・大阪大学・NASAゴダード宇宙センターの研究者を中心とする国際研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された最新鋭の観測装置 HiCIAO (注1) を用い、SAO 206462 (注2) と呼ばれる若い星の周囲にある原始惑星系円盤の観測を行いました。そして、この原始惑星系円盤の構造を、世界で最も鮮明かつ詳細に撮影することに成功し、円盤内に小さな渦巻き状の構造が存在していることを発見しました (図1)。研究チームは、この渦巻き構造が原始惑星系円盤内で起こっている力学的な物理過程を反映していると推定し、この構造を「密度波理論」という理論を用いて解析しました (図2)。このように原始惑星系円盤内の構造に着目し、観測と理論を組み合わせて原始惑星系円盤の物理状態を明らかにしようという本格的な研究は、今回が初めてです。(研究者による解説ムービー)


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図1:すばる望遠鏡搭載の HiCIAO で得られた SAO 206462 周囲の円盤の近赤外線画像。中心部分は、コロナグラフのマスクで隠して観測しているので、黒く塗りつぶしてあります。そのほかの部分は、黒い部分が暗く、青から白の順に明るく光っている部分を示しています。また、図の右上には長さのスケールが示してあります。矢印で示すように、渦巻き状の構造がはっきりと見えています。図をクリックすると拡大図が表示されます (ラベル無し拡大図)。(クレジット:国立天文台)


惑星形成過程は宇宙物理学における大きな謎

  惑星は、星の形成過程に伴ってその周囲にできる、水素とヘリウムを主成分とするガスと、1マイクロメートル程度の大きさの塵が混ざった円盤 (原始惑星系円盤) の中で生まれると考えられています。しかし、円盤がどのような状態になっており、その中でどのようにして塵が集まって惑星となるのかという過程については分からない部分が多く、現在の宇宙物理学における大きな問題の一つとなっています。例えば、円盤の中に惑星ができても、そのままでは惑星が中心の星に向かって落下して星に呑みこまれてしまい生き残ることができないという困難が、理論的に予測されています。

  この謎を解く鍵となる理論が、円盤上に励起される波の理論――密度波理論――です。密度波理論は、銀河・土星の環・原始惑星系円盤など、円盤状の天体にどのような波が立つのかということを記述する理論です。ちょうど水面に波が立つように、円盤の形をした天体にも「密度波」が立ちます。銀河や土星の環については、それらの詳細な写真が撮られてきたため、円盤の構造を詳しく解析することによって、銀河の状態や、土星の衛星の存在などを調べることができていました。この密度波理論が原始惑星系円盤の性質の解明に有用であることは以前から期待されていました。しかし実際に密度波理論を原始惑星系円盤の観測に応用することは、大変難しいことでした。なぜならば、中心にある明るい星からの光をできる限り抑えながらも、星にごく近い領域にある円盤からの光はできるだけ多く検出しなければならないからです。しかし、すばる望遠鏡に取り付けられた最新鋭の観測装置 HiCIAO を用いることで、原始惑星系円盤の詳細な構造を観測できるようになり、理論モデルと観測データを直接的かつ定量的に比較することが今回初めて可能となりました。


SAO 206462の渦巻き構造と密度波理論から得られたその性質

  研究チームは SEEDS プロジェクト (注3) の一環として、SAO 206462 という星の周囲の円盤構造を、HiCIAO を用いて波長 1.6 マイクロメートルの近赤外線で観測しました。SAO 206462 は年齢約 900 万年と考えられている若い星で、周囲に原始惑星系円盤を持っていることが今まで知られていました。

  観測の結果、研究チームは、SAO 206462 の周囲の円盤には小さな渦巻き状の構造があること突き止めました (図1)。これは、現状では HiCIAO でしか観測できないような細かい構造であり、すばる望遠鏡でしかなし得ない発見です。

  研究チームは、この渦巻き状の構造から原始惑星系円盤の性質を調べるために、密度波理論を用いた解析を行いました (図2)。その結果、不定性は大きいものの、中心星から 100 天文単位 (1天文単位は地球と太陽の平均距離で約1億5千万キロメートル) 程度離れた場所での原始惑星系円盤の温度は絶対温度で数十度 (数十ケルビン) 程度であると推定しました。この値は他の観測で示唆されているものと矛盾がなく、SAO 206462 の円盤が理論的に標準的と考えられているような円盤に近い姿をしているということを示唆しています。

  原始惑星系円盤について「密度波理論」を適用し、円盤の状態を「測定」したのは今回が初めてです。すばる望遠鏡に搭載された最新の装置によって、原始惑星系円盤の細かい構造が見えてきたことで、初めて理論モデルと観測データを直接比較できるようになったのです。円盤の詳細な構造の観測と円盤における力学の理論とを組み合わせた本研究は、星の周囲でどのようにして惑星ができたのかという大きな謎に迫るための新しい糸口を開いたと言えます。


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図2図1の左側にあった渦巻き構造について、密度波理論によって計算される波の形と、実際の観測を重ねて比較したもの。図の赤い点線が、密度波理論によって計算された波の形を表しています。渦巻き構造が、密度波理論を用いて比較的良く説明できるということが分かります。この形を決めるのは円盤の回転の様子や温度の分布ですが、他の観測で示唆されているような円盤のモデルでこの構造を良く説明することができます。また、密度波理論を用いることによって、この構造がどのように将来にわたって変化していくのか、もし惑星があればどのあたりにありそうなのか、ということも分かります。(クレジット:国立天文台)


将来の研究へのつながり

  密度波理論から分かることは円盤の温度だけではありません。この理論からは、SAO 206462 周囲の渦巻き構造が円盤の中を動いていく様子が今後 10 年から 20 年程度の間に観測されるかもしれない、ということも予測されます。また、今回観測されたような渦巻き構造や密度波の原因としては様々なものが考えられますが、その一つとして、原始惑星系円盤の中ですでに形成された惑星によって引き起こされているという可能性もあります (注4)。もし、SAO 206462 の渦巻き構造が惑星によって引き起こされたものだとすると、その惑星の質量はおよそ木星質量の半分程度である、ということが観測データと理論モデルの比較から示唆されます。この質量の惑星を直接撮影することは現在の技術では難しいですが、原始惑星系円盤の構造を詳しく観測することによって、円盤内に存在するかもしれない惑星の「影」を追うことができるのです。


まとめと展望

  今回の観測によって、SAO 206462 周囲の原始惑星系円盤の中に渦巻き構造が存在していることが明らかになりました。また、このような詳細な構造が観測されたことにより、原始惑星系円盤において、密度波理論と実際の観測を直接比較することが可能になりました。銀河や土星の環の研究では、その詳細な構造を観測で調べ、理論モデルと組み合わせることで、天体の構造や進化について理解が進んできました。今回の観測を皮切りに、原始惑星系円盤についても理論と観測がより強く連携しながら、惑星形成の過程の理解が深まっていくと期待されます。惑星の状況証拠を探すという観測も進んでいくでしょう。SAO 206462 に惑星が本当に存在しているのか、その直接的な証拠をより確かなものにしていくためには、今後もこの天体を様々な望遠鏡を用いて継続的に観測していく必要があります。たとえば、2011年に観測を開始した大型電波望遠鏡「アルマ」を用いることで、形成中の惑星の存在を示唆する、より直接的な情報を得ることができるかもしれません。


動画: 研究を主導してきた武藤恭之さん (工学院大学) による解説。(2012年4月6日撮影)



文献情報と謝辞

  この研究成果は、SEEDS プロジェクトの共同研究者である武藤恭之さん (工学院大学) ほか 61 名の共著者らによって2012年4月1日発行のアストロフィジカル・ジャーナル・レター誌に掲載されました (Muto et al. 2012, ApJ, 748, L22)。本研究の一部は、科学研究費補助金の特別推進研究 (22000005)・新学術領域研究 (23103002, 23103004, 23103005)・基盤研究A (23244027)・基盤研究C (18540238)・特別研究員奨励費 (22・2942) による助成、および世界トップレベル研究拠点プログラムによる助成を受けています。



(注1) HiCIAO (ハイチャオ) は、すばる望遠鏡に搭載された高コントラスト新コロナグラフ (High Contrast Instrument for the Subaru next generation Adaptive Optics) のことで、従来の装置に比べ約一桁高いコントラスト性能を持ちます。2009年から本格的にすばる望遠鏡で稼働し始めました。

(注2) SAO 206462 はおおかみ座にある恒星で、HD 135344B と呼ばれることもあります。可視光での見かけの明るさは約 8.7 等級、太陽系からの距離は約 460 光年、年齢は約 900 万年と推定されています。星周円盤は直径約 220 億キロメートル (冥王星の軌道の二倍程度の大きさ) に広がっています。

(注3) SEEDS (Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope; すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト) は、すばる望遠鏡を用いた大規模観測プロジェクトです。HiCIAO を用いて様々な星の周囲の構造や惑星を直接検出することを目指すプロジェクトで、国立天文台が中心となって推進しています。SEEDS は、2009年から約5年間にわたって継続中の国際共同プロジェクトであり、現在までに AB Aur、LkCa 15、HR 4796A、HD 169142 などの星の周囲にある円盤の詳細な構造を明らかにしています。SEEDS プロジェクトウェブサイト

(注4) 原始惑星系円盤の中ですでに惑星が形成されているとすると、惑星の重力の影響によって原始惑星系円盤内に密度波が励起され、渦巻き状の構造が原始惑星系円盤に現れるということが知られています。図3はそのことを示す数値シミュレーションの一例です。今回の観測が必ずしも惑星の存在を直接示すものではありませんが、密度波を励起する源として、原始惑星系円盤内に惑星が存在しているという可能性もあります。


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図3:原始惑星系円盤と惑星の間の重力的な相互作用によって、円盤にどのような構造が現れるかということを、FARGO という数値流体力学シミュレーションコードを用いて計算したもの。図の色は円盤の面密度を表し、黒・青・白と色が変わるにつれて面密度の大きい部分を表します。惑星によって渦巻き状の密度波が励起されているということが分かります。この画像が観測画像そのものに対応するわけではないということには注意が必要ですが、渦巻き状の構造を作る原因として、原始惑星系円盤内に存在する惑星はその可能性の一つになります。(クレジット:国立天文台)


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