観測成果

すばるがとらえた塵のリングと見えない惑星のきざし:
HR 4796 A の残骸円盤の超高コントラスト画像

2012年1月11日

  すばる望遠鏡に搭載された惑星探査用カメラ HiCIAO (ハイチャオ) が、HR 4796 A という若い恒星のまわりにある塵 (ちり) のリングの撮影に成功しました。さらに、中心星からリング内側までの距離が左右でずれていることが、今回の画像から精密に測定されました。この恒星のまわりに未発見の惑星が存在し、塵のリングに重力的影響を与えた結果としてずれが生じた可能性があります。「塵のリングと惑星とのつながりを理解する上で大変重要な観測結果です」と、論文の筆頭著者であるクリスチャン・タールマンさん (オランダ・アムステルダム大学) は語ります。


動画: すばる望遠鏡 HiCIAO による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト SEEDS のリーダー・田村元秀さん (国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室長) による解説。(2012年1月6日撮影)



  今回観測されたリングは「残骸円盤」と呼ばれる種類の星周構造で、程度の差はあれ、多くの恒星に見られることが知られています。この残骸円盤は、微惑星と呼ばれる惑星形成の「名残」が衝突し、小さな塵が絶え間なくばらまかれることで形成されると考えられています。太陽系にも、量は少ないのですが同様の塵の雲が円盤状に分布しています。


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: 恒星 HR 4796 A のまわりの残骸リングの近赤外線画像 (波長 1.6 マイクロメートル)。中心星からの光がリング中の塵の一個一個に当たったものが反射されたものが合さって見えています。リングは、恒星から遠く離れた (冥王星の軌道の約2倍の) 所を周回する塵の集まりからなります。リングの内側の端がこれまでになく明瞭に撮影されたので、リングの中心と中心星の位置がずれていることが確認されました。このような塵の軌道のずれの原因は、リング内側のギャップ中にあると考えられる惑星の重力の影響です。さらに、リングの外側の輪郭はぼやけており、塵がリングから外側に噴き出している様子がとらえられています。これは塵が中心星からの光の圧力を受けるためです。(クレジット:国立天文台)

図をクリックすると拡大図が表示されます。(ラベル無し拡大図)


  HR 4796 A にある塵の円盤は、内側が晴れたリング状をしており、その半径は冥王星の軌道の約2倍の距離もある大きなものです。今回すばる望遠鏡 HiCIAO により、リングの画像がシャープかつ高いコントラストで得られたことで、驚いたことに中心の恒星からリングの内側の端までの距離が左右で違うことが分かりました。HR 4796 A のリングの位置がずれている可能性はハッブル宇宙望遠鏡の観測からも示唆されていましたが、すばる望遠鏡はそれを確認しただけでなく、以前の観測よりも大きなずれを発見することに成功しました。

  それでは、なぜこのような非対称なリングが出来るのでしょうか?一番有力な可能性は、画像では見えていない惑星がリングの内側に存在して、重力的な影響を及ぼしているというものです。そのような惑星の重力の影響が、中心のずれた塵リングを作ることが、計算機を用いたシミュレーションでも確認されています。また、ハッブル宇宙望遠鏡で残骸円盤と惑星の共存が実際に報告されているフォーマルハウトが良い例でしょう。HR 4796 A ではまだ惑星の存在は確認されていないので、おそらく非常に暗い小さな惑星があるのだと考えられます。

  さらに、リングの両端を良く見ると、非常に淡くもやもやとした光が見えています。これはリング状に分布した塵が中心星からの光に吹き飛ばされて、やせ細って行く様子をとらえているものです。すばる望遠鏡は、そのシャープな画質により見えない惑星のきざしをとらえただけでなく、生成されては飛ばされてゆく塵に「生き様」にも迫っています。

  今回すばる望遠鏡で得られた画像は、ハッブル宇宙望遠鏡と比べても遜色なく、リングの位置のずれを精密に測ることができました。それを可能にしているのがすばるに搭載された優れた補償光学系 (AO188) です。補償光学系は地球大気の揺らぎをリアルタイムで補正し、望遠鏡口径で決まる限界のシャープさを提供します。一方 HiCIAO では、明るい中心星の影響を抑制することで非常に高いコントラストを持つ画像が得られます。つまり、AO188 と HiCIAO の組み合わせによって、明るい恒星のまわりにある淡いリングからの光をシャープにとらえ、HR 4796 A における惑星形成の名残である残骸円盤と既に生まれた惑星について、本質的な理解に迫ることができるのです。

  すばる望遠鏡 HiCIAO による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト (SEEDS) を率いている田村元秀さん (国立天文台・太陽系外惑星探査プロジェクト室長) は、「今回の結果は、SEEDS プロジェクトの成果ハイライトのひとつです。SEEDS は、これまでにない鮮明さで惑星誕生の場である円盤の真の姿を暴きつつあります。従来は単純な円盤にしか見えなかったものも、HiCIAO で観測すると複雑な構造が初めて見えてきます。HR 4796 A のような比較的進化した円盤も、昨年2月に発表した AB Aur のような非常に若い円盤でも、その形状から惑星の存在が示唆されました。SEEDS によって、これまで別々に進んでいた円盤の研究と系外惑星探査が初めて結びついて来たのではないかと思います」と今後の観測に更なる期待を寄せています。


  この結果は、SEEDS プロジェクトの共同研究者であるクリスチャン・タールマン氏ほか 50 名の共著者らによって、米国のアストロフィジカル・ジャーナル・レター誌の2011年12月10日号 (743 号) に出版されました。SEEDS (Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru Telescope、すばる望遠鏡による戦略的惑星・円盤探査プロジェクト) は、2009年から約5年間にわたって継続中の国際共同プロジェクトです。なお本研究は、科学研究費補助金の特別推進研究 (22000005) による助成を受けています。



研究論文の出典:

  • Thalmann et al. 2011, Astrophysical Journal Letters 743号, L6ページ, "Images of the Extended Outer Regions of the Debris Ring around HR 4796 A"

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